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バンクーバーパラリンピック2010特集  Vancouver2010
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私の目・取材者の眼

2009年04月06日

しなやかに壁を越える ろう者のカーリングチーム

練習にて。リンクの上の選手たちは、互いの目と手話で、緊密にコミュニケーションをとる。
練習にて。リンクの上の選手たちは、互いの目と手話で、緊密にコミュニケーションをとる。

〜カーリングの街・青森から、世界へ チームデフ青森の皆さんに聞く〜 
 
「カーリングの街」を掲げる青森県では、市民チームが数多く結成され、国内でも数少ないカーリング専用リンクを持つ青森市スポーツ会館を拠点に、練習を重ねている。 
 
そのようなチームにとって毎シーズンの「東奥日報杯 青森県カーリング大会」は、日頃のトレーニングの成果を競い合う機会となっている。 
3月7日(土)〜 8日(日)、今年7回目を迎えたこの大会で優勝を飾ったのが「チームデフ青森」。 
「デフ」の名が示すように、耳の聞こえない、県内のろう者によって結成されたチームだ。日本初、そしておそらく唯一のろう者によるカーリングチームは、市民大会で聴者のチームと競い合い、初出場での優勝という快挙を見せた。 
4年に1度開かれる聴覚障害者のオリンピック、デフリンピックでも正式種目となっているカーリング。国境や聴覚障害の有無を越えて、楽しまれているスポーツと言える。 
 
このカーリングを、ろうのプレイヤーたちはどのように練習し、競技に備えているのだろうか。日本ろう者スキー協会会長の吉田實氏、チームデフ青森代表の荒谷淳一氏、そして今回のインタビューのために、県内各地から駆けつけてくれたチームのメンバーに話を聞いた。 

ストーンを放つ。視線の先には、進むストーンとスキップの示すポイントがある。
ストーンを放つ。視線の先には、進むストーンとスキップの示すポイントがある。

練習は体全体で 
 
― まず、チームについて教えていただけますか。どのような経緯で結成されて、今はどのような団体として活動されているのでしょうか? 
 
「チームが出来たのは2年前、2007年です。きっかけは、やはり2年前に米国のソルトレークシティで開かれた、デフリンピック冬季大会でした。カーリングがオープン競技として開かれたことを知って、自分たちもデフリンピックを目指すことが出来るのではと、仲間を集めて始めたのです。 
上部団体が加盟しているJPC(日本パラリンピック委員会)から強化事業として認められ助成金を受けられるようになったこともチーム結成の励みになりました。 
指導には、青森県カーリング協会理事の加藤信行さんを派遣して頂きました。 
 
チームの窓口となっている上部団体は、青森県に事務局のある、日本ろう者スキー協会です。協会には、クロスカントリースキーやアルペンスキー、スノーボード(アルペン・ハーフパイプ)など6つの部門がありますが、カーリングもそのひとつとして位置づけられています。 
 
現在、メンバーは17人です。スポーツ会館のある青森市内に住んでいる人もいますが、三沢や八戸など、市外から参加している人もいますよ」 
 
― ずいぶん遠くから来られる方がいらっしゃるのですね!普段、どの位練習されているのですか? 
 
「練習は月3回、3時間ずつやっています。カーリングという競技は、あまり動いていないように見えるかもしれませんが、終わったあとはかなり疲れますし、おなかも空きます。練習後は、腹ごしらえをして帰宅です。みんな車で来ていますから、飲むことは出来ませんが」 
 
― なるほど、仲間同士のスポーツチームは、ついつい集まって飲むことに活動がシフトしてしまうことがありますが、集まる楽しさだけではなく、まずカーリングそのものに真剣に取り組んでこられたからこそ、距離に関わらずメンバーが集まり、今回の優勝に結び付いたのでしょうね。

全員が息を合わせて
全員が息を合わせて

― ところで、聞こえないことで、何か特別な練習はしていますか? 
 
「他のカーリングの練習と特に変わったことはなく、特別なメニューがあるわけではありません。ただ、聴覚障害があると、平衡感覚を保つことが困難な場合があります。氷の上で動く感覚に慣れること、ストーンを投げる時の基本的な練習などは、意識して行う必要はありますね。 
 
それに、投げる時の感触や、投げたストーンがどのように他のストーンに当たったかなど、手ごたえで結構分かるものです。聞こえないことは、プレーする上で本質的なハンディにはならないと思います」 
 
― カーリングでは、スウィーピングの指示を声で出していますね。聴者が音声を使う場面では、どうしているのでしょうか? 
 
「手話やアイコンタクトでコミュニケーションを取っています。スウィーピングのみならず、デリバリー(投球)の時なども同じです。目を活用しています。スウィーピングは、進行方向にいるスキップと、足元を進んでゆくストーンを、交互に見ながらやりますよ」 
 
― 私だったら、スキップとストーンを交互に見たら、まず間違いなくストーンにつまづいてしまいますね。目や耳だけに頼らないで、体全体で勘をつかみ、息を合わせるのですね。

デリケートなストーンの動きを見ながら、素早くブルームを走らせる。繊細さとスピードが同時に要求される。
デリケートなストーンの動きを見ながら、素早くブルームを走らせる。繊細さとスピードが同時に要求される。

大会に参加して、見えてくること 
 
― 大会では、参加者のほとんどは聴者でしょうから、アナウンスや連絡事項などは、音声で流れることが多いのではないかと思います。今回の大会に出るにあたって、手話通訳など、音声情報を補うための、何か特別な配慮などは用意されたのでしょうか。 
 
「手話通訳や字幕など、特に何もありませんでした。私たちの側でも依頼はしませんでしたし、主催者側も用意はしていませんでした。 
会場の審判やスタッフの様子などを見て、試合開始など、大会の進行を把握していました。そもそも、今回の大会も、スポーツ会館に貼られていたポスターを見て応募を決めたのです。大会について何らかのコンタクトがあったわけではなく、自分たちで情報を見つけてエントリーしました。 
 
応援に来てくれた人たちは、私たちのチームが、まさかどんどん勝ちあがっていくとは思わなかったみたいですね。新聞などの取材を受ける時には、手話通訳がいなかったので、筆談と口話で対応しました。 
 
メダルとトロフィーをいただいた時、ずっしりと重たかったので驚きました。もっと軽いものだと思っていたのですけれどもね。実際に首にかけてもらったり、手渡されたりして、こちらで何となくイメージしていたものと違うんだなあと思いました」 
 
― 国内でろう者のカーリングチームは他にはないようですし、普段の練習や試合は、自然と聞こえる人たちと一緒にやることになりますね。わけても、今回の大会への参加・優勝は、地域の中にろう者の存在をアピールする、とてもいい機会だったのではないでしょうか。 
 
「地元の新聞などに載ったことで、普段ろう者と接する機会がない方たちには、身近にろう者がいて生活しているということを知るきっかけになったと思います。私たちは何か特別な、遠くにいる人ではなく、一緒に競い合い、一緒にスポーツをする仲間でもあることが伝わったのではないでしょうか」

チームデフ青森のメンバー
チームデフ青森のメンバー

次に目指すものは 
 
― チームデフ青森の、これからの目標は何でしょうか。 
 
「よりレベルの高い大会を目指して、力をつけていきたいですね。県のカーリング協会の公式大会に、まずは出たいと考えています。 
 
実は今年4月に、カナダのウィニペグで第1回ろう者カーリング世界選手権が開かれるのですが、まったく自分達の実力に自信が持てなかったこと、この不況下で会社を二週間も休むことは無理があること、次に資金的な問題などがあって参加を見送りました。今にして思えば残念です。 
デフリンピックも目標にしていますし、是非行きたいですが、海外に遠征するとなると、長く仕事を休むことが出来るかどうか、不安がありますね。財政支援も必要です。競技そのものだけではなく、こうした点でも課題があると思います。 
 
練習ももちろん続けますが、カーリングはこんなに楽しいんだ、ということも、これからより多くの方に知ってもらえるようにしたいと思っています。 
そのためにも、4月にろう者を対象にしたカーリング教室を青森県ろうあ協会の後援も頂いて開くことにしています。私たちにとっても初めての試みですよ。楽しみですね」 
 

スキップの荒谷淳一氏。リンクの反対側のチームメイトに、視線と手話で指示を送る。
スキップの荒谷淳一氏。リンクの反対側のチームメイトに、視線と手話で指示を送る。

* * * 
 
リンクに降りて、練習の様子を見学させてもらった。 
使用申込をするメンバーも、受付のスタッフも、いつものこと、という調子で手続きを進めている。このスポーツ会館を聞こえない人が利用することは、特別なことではなくなっているのだ。 
 
スキップを務める荒谷氏は、手話で指示を出し、シートの反対側にいるメンバーも、目線を合わせて了解する。 
ストーンが放たれると、スウィーピングを担当する2人は、足元のストーンと、その先のスキップの指示に、素早く交互に目を走らせる。4人が自然に息を合わせて、ストーンを狙う位置へと運んで行った。 
 
ストップウオッチを手にメンバーにアドバイスをし、きびきびと動く荒谷氏からは、カーリングが楽しくて仕方がないという高揚感が伝わってくる。 
日々の暮らしの中にスポーツがあり、そのカーリングを通じて、聞こえない仲間や地域の聴者とごく普通につながる姿に、「スポーツの持つ『壁を越える』力」 ―大規模国際スポーツ大会などでしばしば定型のように使われる言葉だが― そのひとつの形、気負わない、普遍的なあり方を見たように感じた。 
 
(写真:佐々木延江)

(真下阿紀)