関連カテゴリ: PYEONGCHANG 2018, インタビュー, スノーボード, 冬季競技 — 公開: 2018年2月3日 at 6:08 PM — 更新: 2018年2月20日 at 8:19 PM

『今すぐパラリンピックだ』と言われても準備は出来ている!—義足のスノーボード王者、エヴァン・ストロング選手インタビュー

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1月24日、WOWOWの招きで来日したエヴァン・ストロング (写真・矢野信夫)
1月24日、WOWOWの招きで来日したエヴァン・ストロング (写真・矢野信夫)

IPC(国際パラリンピック委員会)とWOWOWによるパラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ『WHO I AM(=これが自分だ!という輝き)』。2020年まで続く同シリーズでは、毎シーズン8名のトップパラアスリートのストーリーが描かれる予定だ。昨年10月より放送が開始されているシーズ2では、3月に迫る平昌パラリンピックに挑む3名のアスリートが取り上げられている。
そのうちの一人、義足のスノーボーダーである、エヴァン・ストロング選手(アメリカ/スノーボードクロス・ソチパラリンピック金メダリスト)が来日し、パラフォトのインタビューに応じた。

スノーボードが正式種目として採用される平昌(スノーボードクロスとバンクドスラロームの2種目を実施)に向け、ライバルたちが台頭し、白熱する競争環境。その中で、前回王者はどのような心境にあるのか。また、パラリンピックを通じて伝えたいことや、競技にも影響を与える自身の人生観について聞いた。

自分の想像以上の自分〟になっていると思う

 ー前回のソチパラリンピックでは金メダル、周囲の環境に変化はありましたか?

ソチパラリンピック・新種目スノーボード(男子)のメダルセレモニーにて。左よりSHEA Michael(USA)、STRONG Evan(USA)、GABEL Keith(USA))(写真:比嘉優樹)
ソチパラリンピック・新種目スノーボード(男子)のメダルセレモニーにて。左よりSHEA Michael(USA)、STRONG Evan(USA)、GABEL Keith(USA))(写真:比嘉優樹)

「直接その質問への返答にはならないかもしれないけれど、金メダルを獲得してから、スノーボードに今まで以上に集中できるようになったんだ。その心理的な変化が僕の中では最も大きなもの。以前は他のスポーツ(※)にも目を向けつつという感じだったけど、今では結果に対してのこだわりや、パラスノーボードに対しての集中度が増しているよ」

※エヴァン選手は、スノーボードの他、スケートボード、サーフィン、MTB、ロッククライミングなど様々なアクティビティをこなす。17歳の時にバイク事故で左足膝下を切断するまでは、プロスケートボーダーを志していた。

 ーということは、この4年間は、どちらかというとスノーボードにフォーカスしていると。他のスポーツはリフレッシュの為にやっているような感覚ですか?

「まさにそうだね。以前はMTBのダウンヒルとかスケートボード、サーフィンの大会にも出場していたけど、パラリンピックで勝ってからは、スポンサーへの貢献や、(大会やトレーニングでの)移動もあるし、そういったものはちょっぴり我慢。これまでは雑種だったけど今はピュアだよ(笑)。今は一つのことに集中しないとね」

 ー今シーズン現段階でコンディションはいかがですか

「メンタル、フィジカル両面で、今までで一番良い。〝自分の想像以上の自分〟になっていると思うので、それはレースのスピードにも表れてくるはず。「今からパラリンピックだ!」と言われても準備は出来ているよ」

 —スノーボードは、ソチではアルペンスキーの一種目として実施され、正式採用になったのは平昌からです。(正式採用は)エヴァン選手も望まれていたことかと思います。今の心境は?

「前回はアルペンスキーのもとで実施されて、今回はスノーボードとして一つの種目になったわけだけど、僕にとって、スノーボードはスノーボード。〝どの枠に入るか〟というのは実はあまり気にしていないんだ。自分がベストパフォーマンスをして金メダルを獲るということにおいては何の差もない。ただ、今回正式種目として認められたということは、パラスノーボードの認知が進んだということでもある。それは自分にとって大切な出来事だよ。仮に自分がスノーボードをしなくなっても、種目として残り続けるということだからね」

ライバルは〝仲間〟だ

 ー今シーズンのW杯の成績を踏まえるとライバルも多いと思います(※)。今の競争環境はいかがですか。

インタビューに応えるエヴァン・ストロング (写真・矢野信夫)
インタビューに応えるエヴァン・ストロング (写真・矢野信夫)

「上手い人が増えてきている今の環境はとても良い状態だと思う。ファンにとっても面白いよね。ソチ以来、競技の認知度が向上したこともあって、多くの選手がスノーボードに参入してきた。その結果として、4年前とは比較にならないほど、全体のレベルが高くなっているよね」

※ソチでアメリカ勢は男子パラスノーボードの表彰台を独占。エヴァン選手以外の2選手(Keith選手、Mike選手)の他、フィンランドのMatti選手、日本の成田緑夢(ぐりむ)選手らが今季のW杯では台頭し、平昌では熾烈なメダル争いが予想される。

 ーソチでメダルを分け合ったアメリカの2選手も今季のランキングも近くで争っています。チームUSAのメンバーはどのような関係性ですか。

「面白い関係性だよ。チームメイトだけど、勝つのは一人。優勝を分かち合うことはできないわけだ。そういう意味では、しかるべき時には互いにグローブをつけて闘うライバルだけど、グローブを外した時にはサラッと友人に戻ることができる。ライバルがチームメイトでもあるんだ。でも、チームとして共に頑張ってきたからこそ、パラリンピックで認められたという側面もあるから、大切な仲間だよ。だけど互いに試合では勝ちたいと思っているから、凄くエキサイティングだね」

 —チームUSA以外では、ランキング1位はフィンランドのMatti選手。同い歳(エヴァン選手と同じ1986年生)だと思いますが、意識していますか?

「彼とは仲が良い。脚を失くした理由(バイク事故で切断)も一緒なんだ。でも、当然強力なライバルでもある。スノーボードや、スケボー、サーフィンは、選手同士がみんな仲間。種目単位で見れば仲間と一緒に同じ空間で滑って、楽しんでというのが魅力でもある。だけど、スノーボードクロスはいざ試合になると、凄く激しい競技。常に攻めていく必要があって、緊張感がある。戦略が非常に重要で、フィニッシュラインを先に超える為にチェスの様な頭脳プレイも必要なんだ。本来は仲間と楽しく滑るスノーボードというスポーツの中で、二足のわらじを履くようなものだね。それがまた魅力でもあるし、いざ試合でMattiと闘う時は、ぬかりなく全力で臨むよ」

 ー成田緑夢選手も互いに競い合うライバルではないでしょうか?

ライバルでもあるけど、Mattiもグリムも仲間、友達なんだ。だから、彼らが勝てば嬉しい。彼らのハイパフォーマンスのおかげで、スノーボードの全体的な底上げがされている。それはとても喜ばしいことだね。仲間でありながら、戦友と言っても良いのかもしれないね。

 —平昌まで2ヶ月、本番はどんなレースにしたいですか?

「平昌に向けて4年間準備してきた。狙っているのはやはり金メダルだね」

 —世界のライバルに向けて一言お願いします。

「僕はチャンピオンだ。だけどそこでのんびり座っているわけにはいかない。ライバルの皆が勝ちたくても、そう簡単に王座を渡す気はないよ!」

〝好奇心〟と〝パフォーマンス〟は裏返し

インタビューに応えるエヴァン・ストロング (写真・矢野信夫)
インタビューに応えるエヴァン・ストロング (写真・矢野信夫)

 —スノーボード以外のことについてお聞きします。エヴァン選手は、趣味としての様々なスポーツにも積極的ですし、以前はご家族と一緒にレストランも経営されていました。スノーボード以外の活動や、ご家族との触れ合いは、競技にどんな影響を与えていますか?

「良いスポーツ選手は競技のパフォーマンス以前に、良き人間である必要がある。家族との関わりや人としての生き方がしっかりしていることと、競技の成績には相関性があると思う。その2つを分けて考えることはできないよね。
例えば、ドラムを叩くにしても、本を読むにしても脳の色々な神経を使う。その使い方を自分のものにすればまた新しい気づきもあるはずだし、結果として自分の能力が向上して、スノーボードにも生きてくる。全てが繋がっているんだよ。
『スノーボード』という一つのことだけではなく、別の領域を通じて新たに学ぶ、刺激を得る。その結果として良いスノーボーダーになっていくと思う。脳は筋肉みたいなものだから、常に強化して、向上させていくものだと考えているよ」

 —因みに、スノーボード以外で、最近関心を持っていることは何ですか?

「趣味の一つとして、ドラムも好きだし、最近、娘が水彩画を描くのが好きだから、それも少し勉強しているんだ。読書も大好きだね。だけど、僕、実はディスレクシア(※)なんだ。だから文字を読むのに時間がかかってしまうけれど、色々な本を読んでいるよ。様々なことに好奇心が向くので、〝最近の関心事〟と聞かれると難しいね(笑)。一つの力だけを強化するのではなく、全体的に強化していく為には、ディスレクシアも克服して多くのことを吸収していかなくてはいけないな、とは思っているよ」

※学習障害の一種で『難読症』とも呼ばれる。文字が反転して記憶されたりといった症例が存在する。

 —最後に、エヴァン選手はCAF(Challenged Athlete Foundation/※)などの活動もフォローしていると思いますが、パラリンピック競技を通じて、子どもたちや世界の人々に伝えたいことはありますか?

「子どもたちは勿論、どんな人にも言いたいことは、暗闇の中で金の糸を一つ見つけられたら、とにかくそれにしがみついて辿っていけば、必ずその先にゴールがあって、新しい世界が広がっている、ということ。
スポーツでも何でも良いから、夢中になれるものを見つけたら、それを大事にすることだよ。そのことをこれからも広く伝えていきたいと思っている。
パラリンピックはその象徴だと思う。
僕のように事故にあっても、金の糸を見つけてしがみついてやってきた結果、国際的なアスリートとして活躍できている、ということを世界に証明できる場だから。パラリンピックの可能性を見せることによって、障がいや事故に負けなかった自分を見せることができる。
(何かに打ち勝った)自分自身を見せることができるのは、ハンディキャップの有無に関わらず、大切なんだ。自分の場合は、事故に負けなかった。

※エヴァン選手は左足切断後、米国のCAFやAAS(Adaptive Action Sports)といった障がい者のスポーツ参加を支援する慈善団体との関わりを通じて、スノーボードと出会った。現在も、同団体のサポートを受ける傍ら、団体によるチャリティ活動のサポートも行う。

 冒頭のWOWOWドキュメンタリーシリーズ『WHO I AM』では、2月4日(日)にエヴァン選手のストーリーが放送される。前回チャンピオンとして追われる立場にありながら、自然体で振る舞うエヴァン選手の姿は、観る者の心を打つはずだ。

(聞き手・構成/吉田直人 写真・矢野信夫 校正/佐々木延江)

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