関連カテゴリ: 取材者の視点, 国際大会, 馬術 — 公開: 2018年9月26日 at 7:08 PM — 更新: 2020年5月10日 at 12:19 AM

トライオン馬術世界選手権・オランダにパラ馬術3冠人馬2組誕生

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Para- Dressage Team Netherlands (Photo FEI/Arnd Bronkhorst)
Para- Dressage Team Netherlands
(Photo FEI/Arnd Bronkhorst)

9月22日(現地時間)、トライオン国際馬術センター(アメリカ・ノースカロライナ州)で、2018年馬術世界選手権*のパラ馬術競技フリースタイル演技が行われた。
フリースタイルは各グレードの個人競技トップ8人馬が出場権を獲得。グレードIV、V、I、II、IIIの順番に競技が行われた。(グレードとはライダーの障害の度合い。Iが最も重い障害で、Vが最も軽度の障害)

フリースタイルは、音楽に合わせた演技。規定運動項目を自由に、定められた時間内にアレンジした経路を作成。審査は規定運動項目それぞれと、 人馬の調和、リズム、技術力、振り付け、音楽・音楽の解釈について、採点される。

詳しい採点項目については、各グレードフリースタイル参照
日本語
英語オリジナル

グレードIV、Sanne Voets&Demantur N.O.P.が3冠達成

金メダルを獲得したのは、リオパラリンピック同競技金メダリスト、そして本大会個人&団体金メダリスト・オランダSanne Voets&Demantur N.O.P.(10歳 / セン / KWPN)。最終演技者で、総合得点79.645%の見事な3冠を達成した。
「感激しています。私の夢が実現しました。この馬は2年前、オランダにとって初めてのパラリンピック金メダルを獲得してくれました。今回は初の団体金メダルに貢献、そして今日はオランダ初めての3冠達成をもたらしてくれた馬です。これ以上嬉しいことはありません。
移行は上手です。大きな駆歩です。素質がある馬で新しいことを学ぶのを嫌がりません。
常に頭を忙しく動かしているようにするんです。馬も乗り手に要求をしてきます。集中できればライダーの指示に大いに応えて、最大限の演技をしてくれます。トレーニングでは落ち着いて、周囲の人間を信頼することを教えるのを大切にしています」

銀メダリストは同じく個人競技銀メダルのRodolpho Riskalla&Don Henrico(15歳 / 牡 / HANN)。5番手で登場し、総合得点77.780%を記録。Sanneの演技結果を待つ立場にあったが、わずかに届かなかった。しかし、リオ五輪を目指している途中で病のためにいったん馬術をあきらめ、その後パラ馬術選手として復活した彼にとって、この2つ目のメダルの喜びは計り知れない。
「すごく楽しかったです! フリースタイル演技はいつも楽しみで、彼もとってもよく演技してくれました。75から80%取れたらと思っていました。何も言うことがありません。最高でした。
この馬でこの演技を、パラ馬術の競技ではしたことがありませんでした。いい音楽で馬の動きにとてもよく合っています。一時アメリカで競技参加するのでアメリカの音楽をと思ったこともありましたが、今回の音楽があまりにもよく合っていたので、そのままにして演技を楽しみました。」

銅メダルは、開催国アメリカのKate Shoemaker&Solitaer(11歳/ 牡 / HANN)。個人戦銅メダリストコンビのデンマーク・Susanne Jensby Sunesen&CSK’s Que Faire(20歳/ 牝 / DWB)72.735%を技術点でわずかに上回り、0.5%未満の僅差、総合点73.230%で破った。
「馬場を出る時、あまりのうれしさに泣いていました。ソリ(馬)を本当に誇りに思います。難関を超えてここまでこれた馬にとって素晴らしい結果でした!
全力をつくしました。ずっと最初からソリは私についてきてくれました。昨日は全く運動をしないで休息にあてるというリスクを取りましたが、その結果充電して今朝は元気いっぱいでした。今日という日は夢のような日です。すべてに感謝します。ソリ、ありがとう」(競技後コメント)

グレードIV競技結果
https://tryon2018.com/eventResults/2018/1587/resultlist_PF-IV

グレードV、金銀は個人戦チャンピオン

EI World Equestrian Games™ Tryon Sophie WELLS Sophie ride C Fatal Attraction-GBR (Photo FEI Christophe Tanière)
EI World Equestrian Games™ Tryon Sophie WELLS Sophie ride C Fatal Attraction-GBR
(Photo FEI Christophe Tanière)

中村公子選手&D Jazz F(10歳 / セン / KWPN)が快挙を達成し、銅メダルを獲得したこのクラス。
(詳細はこちらの記事参照)
金メダルは、80.755 % 個人金メダリストのSophie Wells&C Fatal Attraction( 11歳 / セン / KWPN )。
「彼(馬)は今日とても緊張していました。木曜のチームテストは素晴らしい感覚で、今日はそれからは少し劣りました。全力を尽くしてくれていて、木曜日が頂点でした。本当に素晴らしい結果で、彼を誇りに思います。
この瞬間は4年間に一度、4年待たないときません。馬たちと一生懸命毎日トレーニングをして、(2014年フランス世界選手権で)個人金メダルを逃した時は受け入れづらかったです。
世界選手権という馬術の祭典、乗馬の技術、馬たち、そしてトレーニングの質がこのスポーツにとって、とても素晴らしいものです。その一員でいられることは誇りに思います、でも、気を抜く暇はありません。すべての人馬が同じ夢へ向かっていますが、頂点に上ることができるのはたった1人馬だけなのです」

銀メダルは、79.155 %個人銀メダルコンビ、そして団体金メダル貢献者のFrank Hosmar&Alphaville N.O.P.(13歳 / セン / KWPN)だった。

競技結果 
https://tryon2018.com/eventResults/2018/1587/resultlist_PF-V

グレードI、イタリア・Sara Morgantiがリオの雪辱を果たす

FEI World Equestrian Games™ Tryon USA Para-Dressage Grade 1 Sara Morganti ITA  (Photo FEI/Liz Gregg)
FEI World Equestrian Games™ Tryon USA Para-Dressage Grade 1 Sara Morganti ITA
(Photo FEI/Liz Gregg)

グレードIは最重度の障害を持つ選手たち。中には、黄色いアームバンドをして登場した視覚障害のあるフィンランドの選手(Katja Karjalainen&Dr Doolittle(15歳 / セン / HANN))も含まれた。視覚障害の場合、コーラーと呼ばれるスタッフが、馬場の中央等からアルファベットを声で発する。ライダーをその音を頼りに、自らの馬場内の位置を確認し演技を行う。フリースタイルは音楽も聴いていないといけないので難しい。順位こそ8位で69.420%だったものの、世界選手権の大舞台で見事な演技を披露した。

優勝したのは、総合得点78.867 %、個人金メダリスト、Sara Morganti&Royal Delight(13歳/ 牝 / RHEIN)。リオで出場直前の馬体検査を通らず、出場できなかった悔しさをばねに頑張ったかいがある嬉しい2つ目の金メダルを獲得した。
「なんと言っていいかわかりません。素晴らしくて、感情的な瞬間で、説明できないんです。彼女(馬)は今日本当にいい演技をしてくれました。これ以上要求することはありません。
今回メダルが取れたらと思っていましたが、まさか金メダル2つ取れるとは想像もしていませんでした。夢が実現した、本当に特別な瞬間です。
これでリオを過去におけます。あのあと、再び一緒に表舞台に出て、この馬の素晴らしさを見せる必要があったんです。精いっぱいの演技ができるよう、頑張ってきました。
Royalは2010年からコンビを組んでいます。たくさんの競技会に共に参加してきましたが、毎回トップランクの成績を出すような演技をしてくれている、素晴らしい馬です」

銀メダルは、総合得点76.113 %、個人4位・ラトビアのRihards Snikus&King Of The Dance(10歳 / セン / LATV )。Ravelのボレロにあわせて入場、終始安定した演技でラトビアにとって嬉しい初の世界選手権メダルを獲得した。

そして銅メダルは開催国のプレッシャーをはねのけ、総合得点75.587 %、個人5位・アメリカのRoxanne Trunnell&Dolton(6歳 / セン / HANN)。
「本当に嬉しいです。わずか6歳のDolton、世界選手権に出場してメダルを獲得できたなんて信じられません!」

グレードI結果
https://tryon2018.com/eventResults/2018/1587/resultlist_PF-I

グレードII、Stinna Tange Kaastrup、2つ目の金メダル獲得

Stinna Tange Kaastrup on Horsebo Smarties DEN (Photo FEI/Liz Gregg)
Stinna Tange Kaastrup on Horsebo Smarties DEN
(Photo FEI/Liz Gregg)

グレードII金メダリストは、先日個人金を初めて獲得したStinna Tange Kaastrup&Horsebo Smarties(17歳/ セン / DWB )が総合点72.735%を記録、再び頂点の座に。
「すべてを振り絞って演技しました。もうこれ以上はできませんでした。暑い気温に苦戦してきましたがなんとかやり遂げました。
気分は最高です。スマーティは馬場の中でスターの演技をしてくれました。私が少し調子を崩しているのがわかったのか、助けてくれる演技をしてくれたように思います。
この世界選手権は素晴らしい大会でした。馬も、チームも本当によくやってくれました。 馬とのパートナーシップについて、新たな次元に到達した気持ちです。本当にいい馬で、私もそれなりに騎乗技術はあると思っていましたが、ここまでくるための練習や準備にはとても時間がかかります。ここにきて、また新たなステージが始まった気がします」

銀メダルは総合点75.500 %で、個人銀メダリスト、オーストリア・Pepo Puch&Sailor’s Blue(10歳/ セン / HANN)。
銅メダルは総合点74.573 %で、オランダ・Nicole den Dulk&Wallace N.O.P.(15歳 / セン / KWPN)だった。

なお、日本の吉越奏詞&Brown Sugar(12歳/牝/OLDBG)は総合点66.180 %、6位で競技を終えている。

競技結果
https://tryon2018.com/eventResults/2018/1587/resultlist_PF-II

グレードIII、オランダRixt van der Horstも3冠達成!

FEI World Equestrian Games™ Tryon USA Rixt van der Horst on Findsley NED (Photo FEI/Liz Gregg)
FEI World Equestrian Games™ Tryon USA Rixt van der Horst on Findsley NED
(Photo FEI/Liz Gregg)

このグレードも、絶好調オランダチームの個人金メダリスト・Rixt van der Horst&Findsley( 8歳 / 牝 / KWPN )が総合点77.347 %で2位以下を押しのけ、優勝。2人目の3冠ライダーが誕生した。
「3つもメダルを取れたことに感激しています。何とも言えない気持ちです。今年はオランダにとって素晴らしい年でした。オランダのライダーの基準が高くなってきているので、代表チームに選ばれるのが難しくなってきています。私個人、そしてチームの今回の結果について、なんと表現していいかわからない気持ちです」

銀メダルは、73.240 %、アメリカ・Rebecca Hart&El Corona Texel(9歳 / セン / KWPN)。

銅メダルは、71.840 %、ドイツ・Dr. Angelika Trabert&Diamond’s Shine(8歳 / セン / WESTF)だった。

なお不運にもこの競技、イギリスの個人銅メダリスト、Natasha Bakerは入場直後に馬が何かに驚き、落馬。チームメイトが運んできたスクーターに乗って退場しながら手を振り、大きな怪我はなかった様子だが、残念な結果に終わっている。
「全く何が起きたのかわかりません。いつもは天使のようなこの馬、こんなことは性格にないことです。常歩で入場した際、先に演技したRixtに対し、観客が拍手をしていました。Rixtにとってはよかったのですが、Divaはこれが気になったようです。
ビデオのリプレイを見ながら笑いました。私は大丈夫です。自尊心は少々傷つき、背中はあざがあるかもしれません。でも、落ちた時せめて中央線にぴったり着地しましたよ! Diva自身もなにが起きたのかわからず、びっくりしていたみたいです」

生き物とともにするスポーツ、たとえチャンピオンでも、その日何があるかわからない。

競技結果
https://tryon2018.com/eventResults/2018/1587/resultlist_PF-III

なお、今回フリースタイルに参加していないイギリス・Lee Pearson選手がFEI.TVで解説を担当。選手ならではの視点やルール等の知識を加え、視聴者にわかりやすく解説していた。
総評を聞かれた際、Leeはこうコメントしている。
「素晴らしい大会でした。イギリスがずっとけん引してきたパラ馬術界に様々な新しいライダーたちが、参加してきて良い成果を出していることを嬉しく思います。ハードルがどんどん高くなってきています。パラ馬術界にとって素晴らしいことです」

2018年トライオン馬術世界選手権(日本選手団)

吉越奏詞&Brown Sugar(グレードII)(東京障害者乗馬協会
中村公子&D Jazz F (グレード V)(シュタールジーク
高嶋活士&Emora C. VD Wijdewormer(グレードIV)(ドレッサージュ・ステーブル・テルイ
稲葉将&Femme Fatale (グレードIII)(静岡乗馬クラブ

監督:三木則夫
コーチ:浅川信正
馬提供(ホースオーナー):二宮誠治(成田乗馬クラブ代表)
馬提供(ホースオーナー):Piet Rajmakers
トレーナー:Frederik Van de Keere
グルーム:Piet厩舎より2名
総務:三芳麻起子

リプレイ(FEI Youtube Channel Re-Live)
グレードIV、V https://www.youtube.com/watch?v=inyvmhu_cy4&t=6471s
グレードI、II、III https://www.youtube.com/watch?v=rZaISFKMBj4&list=PLfqDYhc2wjP42jM1ZIE6Ogtu2ICZdBqeZ&index=12&t=11716s

(校正 望月芳子)

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