関連カテゴリ: 取材者の視点, 夏季競技, 神奈川, 車いすツインバスケットボール — 公開: 2018年11月26日 at 12:17 AM — 更新: 2018年12月8日 at 9:01 PM

橘内率いる神奈川JUNKS大躍進の2018年 〜車いすツインバスケットボール〜

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磐田市長杯争奪車いすツインバスケットボール大会決勝戦 神奈川ジャンクス対Horsetail戦での橘内祐太郎(2.0円外)

車いすツインバスケットボール(以下ツインバスケ )界における2018年は、神奈川JUNKS(神奈川)が大躍進することとなった記念すべき一年となった。

車いすツインバスケットボールは、頸髄損傷者をはじめとする四肢麻痺の重度障害者を対象とした日本発祥のスポーツだ。車いすバスケットやウィルチェアーラグビーには参加できない重度障害でもプレイできるよう、既存のゴールに加えてもう1対の高さの低いゴールがフリースローサークル内に置かれている。障害の程度によって、シュートの仕方が異なる。

神奈川JUNKSは6月の「内閣総理大臣杯車いすツインバスケットボール選手権大会(以後選手権大会)」で5連勝のHorsetail(東京)から王座を奪還し、さらに8月の「静岡県磐田市長杯争奪車いすツインバスケットボール大会」においても宿敵Horsetailを破り、昨年に引き続いて王座を守り抜いた。
快進撃の要因について、神奈川JUNKSのキャプテンを務める橘内祐太郎(2.0 円外)に聞いた。

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橘内祐太郎は神奈川JUNKSのキャプテンを務める

神奈川JUNKSはここ5年間もの間、選手権大会で優勝を逃してきたが、その理由を「(状態の良い)佐々木操(3.5 上)に頼りきっていた」ためだと橘内は言う。
佐々木はウィルチェアーラグビー横濱義塾(神奈川)でも活躍する名選手であり、確実なシュートには目を見張るものがある。
当時の神奈川JUNKSは佐々木にボールを渡せば勝てるという状態だった。
ところが頼みの綱であった佐々木が、一時期神奈川JUNKSを休部するという事態に陥ってしまったのだ。
「選手権大会」では佐々木の不在もあり、Horsetailが勝ち続けることとなる。
「このままじゃダメだ!」とチーム全員が実力のなさを実感し、誰1人残さず全員の総強化が始まった。
これまで佐々木に頼りきっていた神奈川JUNKSは練習に練習を重ね、全員が見事な実力を備えて2018年を迎え、新生神奈川JUNKSとして再スタートを切った。
走り込みの練習は車いすバスケットボールの選手ですら驚くほどハードだ。
それほど彼らは厳しいトレーニングを積み重ねてきた。
バスケ車の車への乗降も基本的に自分で行い、自立することこそ最初にできるリハビリであり、トレーニングになっているのだと感じさせる。
神奈川JUNKSの底力は、『よりよく、より強く』という向上心と、『やってやれないことはない』という精神力、その二つの力が源になっているのだろう。

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対INFINI(滋賀)戦での佐々木、背後に橘内

橘内はパキスタンに生まれ育ち、今から10年前、高校卒業式1週間前に車の事故で頸髄損傷を負った。
受傷後、約半年してから母親の国である日本に家族と移り住み、神奈川リハビリテーション病院でリハビリを開始した。
日本語もほとんど話せず、友達も誰もいない状況だった橘内は、「友達を作りたくて神奈川JUNKSにすぐ入りました」と言う。
それから7年の月日が流れ、橘内は現在、外資系証券会社でオフィスワークをしながら、日曜日には神奈川JUNKSのチーム練習に励んでいる。
2017年3月にはウィルチェアーラグビー日本代表メンバーとしてカナダへ遠征した経験も持っている。
ラグビーとツインバスケと仕事の両立が大きな課題であったため、現在はラグビーを辞めて神奈川JUNKSに全力を注いでいる。
同時期に神奈川JUNKSの田邊耕一もカナダ遠征に行っており、神奈川JUNKSの中核を担う両名を失うのは厳しい状況であったのは確かだ。

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ウィルチェアーラグビー 日本代表 2017年3月8日 後列向かって左から2人目が橘内、4人目が田邊

7年前の橘内は、ツインバスケ特有の下ゴールにシュートを決めることができなかった。
「最初にシュートが決まった時嬉しかったか」と尋ねると、橘内は「忘れちゃったなぁ。でも、みんな最初はシュートなんてできないから」と優しく微笑んだ。

端正な顔立ち、エレガントな振る舞い、秘めたる闘争心。
試合中は熱い血が燃えたぎるが、普段はクールなナイスガイで、しかもシャイな一面ものぞかせる。
仲間から信頼されているだけではなく、橘内自身が仲間に対して強い信頼を置き、チームをとても大切に思っている。
橘内の勝利に対する自信は、自分自身に対する自信と神奈川JUNKS全員への信頼あってこそだ。

チームメイトの深澤康弘(1.5 円内)は、「祐太郎がキャプテンになって変わったことは、日本一になったことですね。チームで何か雰囲気が変わったとか特にないけど、結果が出た。そういうことなんでしょうね。」と言う。
神奈川JUNKSのキャプテンの役割は、練習を仕切ったり、作戦を考えることだが、チームを動かすのはなかなか気苦労が多いのではないかと深澤は案じる。
「祐太郎は、賢くて周りのことを考えられる人なんですよね。きちんと全体を見て作戦を考えられる人です。そういう人って限られているから(橘内は)キャプテンができる人なんだと思います。」大先輩・深澤も橘内を高く評価しているようだ。

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橘内はいつも冷静沈着で紳士的。

橘内は2017年7月から神奈川JUNKSのキャプテンに、2018年の選手権大会で初めてスタメンになり、そして見事MVPに輝いた。
「僕の力で頑張っている先輩たちを優先に(勝利へ)向かって進みたかったからです」とキャプテンになった理由を語った。
橘内率いる神奈川JUNKSが今後どのように進化を遂げていくか、2019年の成果を期待したい。

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キャプテンとして、スタメンとして選手権大会にデビューした橘内は頼もしかった。右・深澤康弘(1.5円内)左・齊藤祐二(1.5円内)

(編集・校正 金子修平)

<参考URL>

日本車いすツインバスケットボール連盟
http://jwtbf.com

神奈川ジャンクス
http://www002.upp.so-net.ne.jp/garakutatati/

車椅子ツインバスケットボール
http://www.rehab.go.jp/beppu/book/pdf/livinghome_no27.pdf

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