ゴールボール, 千葉, 取材者の視点 — 2019年1月16日 at 6:02 AM

「女子に負けじ」と強化進むジャパン男子に戴冠――2019ゴールボールジャパンメンズオープン

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逆転優勝に自信。ディフェンスは引き続き課題に

1月13日(日)、14日(月・祝)にかけて、佐倉市民体育館にて『2019ゴールボールジャパンメンズオープン』が開催された。大会の主旨はゴールボール男子日本代表の強化にある。

オーストラリア代表、タイ代表、そしてカナダから『Vancouver Goalball Club』を招き、日本代表A、B、を加えた計5チームによる総当たり戦を実施。その結果を踏まえて、3位決定戦、決勝が行われ、日本代表Aが優勝、2位にタイ代表、日本代表Bは第3位という形で幕を閉じた。日本代表Aの山口凌河が大会最多得点を受賞した。

最多得点の山口凌河(日本代表A)

最多得点の山口凌河(日本代表A)

2018年12月時点での世界ランキングで、日本代表は13位。今大会は正式な代表チームの来日ではないが、カナダが15位、さらに以下オーストラリア(21位)、タイ(31位)と続く。日本より数字上のランクは下ではあるが、それぞれに特徴を持つチームである。

日本代表は、各強化対象選手のポジションを考慮の上で、A、Bの2チームがそれぞれ編成された。日本代表の江黒直樹コーチが「若い選手、伸び盛りの選手が経験を積む場に」というように、ユース選手の佐野優人(日本代表B)や育成選手の宮食行次(みやじきこうじ)もコートに立ち、積極果敢なプレーを見せた。

オーストラリアを破り3位に入った日本代表B。左から金子和也(B3)、信澤用秀(B1)、川嶋悠太(B2)、佐野優人(B3)、小林裕史(B3)

オーストラリアを破り3位に入った日本代表B。左から金子和也(B3)、信澤用秀(B1)、川嶋悠太(B2)、佐野優人(B3)、小林裕史(B3)

日本代表Aとタイの決勝では、球足の速さを身上とするタイの投球に試合開始直後から立て続けに日本が失点し、5対0と大きくリードを許してしまう。「失点を3点以内に」という目標で日々のトレーニングに励んできた中で理想からは乖離する展開となり、途中までベンチで見守ったウィングの辻村真貴も「このままだとコールドゲーム(10点差)になってしまうかもしれない」と危機感を募らせたという。自身がコートに入ると「点は獲れる。大丈夫だ」と試合の合間にメンバーを鼓舞した。

「僕が(チームAの中で)一番国際大会に慣れていますし、ゲームの流れもある程度予測がつきます。だから、『呼吸を整えてフラットに』と、メンバーをなるべく落ち着かせることを心がけました」(辻村)

チームをプレー、精神面で支えた辻村真貴

チームをプレー、精神面で支えた辻村真貴

息を吹き返した日本代表Aは、徐々に差を詰めていく。途中、宮食が個人ペナルティを取られペナルティショットのチャンスを与えたが、タイ代表の投球の傾向から、江黒コーチの「左前だ(=守れ)」の声に反応し、捕球。ピンチをしのぎ、前半を6対6で折り返した。以降、乱打戦となったが、辻村の連続得点もあり、残り1分あまりには宮食も決定的な得点をものにし、最終的に15対12で優勝をもぎ取った。

男子代表は、まだパラリンピックの出場経験がない。したがって、2012年ロンドンパラリンピックや、昨年のアジアパラ競技大会での金メダル獲得など、実績を残してきた女子代表に注目が向かいがちではあるが、男子代表も着実に力を付けてきている。それは、逆境をひっくり返す底力や、メンバーを落ち着かせる辻村のような精神的支柱の存在からも窺い知ることができよう。

日本代表Aのキャプテンを務めた田口侑治が「メンバーそれぞれに良い点、悪い点がありましたが、お互いがフォローしあった結果だと思います」と話せば、江黒コーチは「本当に選手たちは良く頑張ってくれたと思います。精神面の成長を感じることができました。今大会で、皆自信を付けたのではないでしょうか」と語る。

一方で、タイ代表戦を中心として想定以上の失点を喫した点については、選手たちから口々に「今後の課題」という声が聞かれた。

田口侑治(日本代表A)

田口侑治(日本代表A)

優勝を飾った日本代表A。決勝を戦ったタイ代表と。前列黒ユニフォーム左から宮食行次(B3)、田口侑治(B3)、辻村真貴(B2)、山口凌河(B1)

優勝を飾った日本代表A。決勝を戦ったタイ代表と。前列黒ユニフォーム左から宮食行次(B3)、田口侑治(B3)、辻村真貴(B2)、山口凌河(B1)

競技歴1年。有望な司令塔候補が台頭

若手選手の経験の場ともなった今大会。育成選手として日本代表入り間もない宮食行次に着目した。男子日本代表スタッフも成長株と推すプレイヤーである。

競技歴は浅い。2017年12月に行われた選手発掘事業の『ユースキャンプ』に参加し、ゴールボールと出会った。当時は盲学校の理療科に在籍しており、翌年(2018年)の国家試験(あん摩マッサージ指圧師、鍼師、灸師免許)に向けて勉学の最中にあったが、資格取得後に上京。現在は都内の企業でヘルスキーパー(マッサージ師)として勤務し、午後2時半の勤務終了後はゴールボールの練習に打ち込む日々を送っている。ユースキャンプに参加したきっかけは、別競技である『フロアバレーボール』(視覚障害者と健常者が一緒にプレイできるように考案されたバレーボール)の全国大会に参加した際、声をかけられたことにあった。

決勝のタイ戦で相手に与えたペナルティスローを止める宮食行次

決勝のタイ戦で相手に与えたペナルティスローを止める宮食行次

「僕は、ずっと野球やソフトボールをやってきたので、メンバーの足りない部分を補い合える団体競技が好きで、ゴールボールにも同じ魅力を感じました。個人的にも、スポーツには生涯関わっていきたいと思っていたのですが、去年から始めたばかりのゴールボールでこの場(日本代表のコート)に立てていることは、1年前は想像もできませんでした」

当初はウィングでプレーしていたが、182cmの恵まれた身長を生かした守備の強化を念頭に、昨夏の合宿を機にセンターでもプレーするようになったという。サイドポジションとは異なり、センターはディフェンス時に両サイドへのケアが求められる為、上背のあるプレイヤーは守備範囲を広くとることが期待できるのだ。

「センターは楽しいですね。ゲームメイクする立場でもあり、守りながらも得点できることが理想です。自分の強みはバウンドボール(球をバウンドさせて相手ディフェンスを越える投球手法)でもあるので、ディフェンスをしながらも、時折グラウンダー(地を這う球)の合間にバウンドボールを投げて、相手ディフェンスのタイミングをズラす。そんなことができるセンターになれたらと思っています」

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チームメイトの田口は、センタープレイヤーとして宮食の競争相手ともなるが「(宮食は)柔軟性がある。本当に刺激になっています。負けないように頑張らなくては」と評価する。

宮食は幼い頃から野球を続けてきた。高校からソフトボールにシフトし、社会人になった今でも続けている。網膜色素変性症を患っており、医師からは「よくやっていたね」と言われたそうだが「小さい頃からやっていたので、あまり見えない中でも感覚でプレーしていました」と笑う。ポジションはキャッチャー。培ってきた配球の感覚が、ゴールボールでも生きているのだという。

最終的にはセンターとして「両サイドの選手に配球の指示を出せるようになる」のが理想だというが、「正直まだ、そこまでの余裕はないですね。今はボールを止めるのに必死で」と、まだ経験不足な面も否めない。しかし「今は辻村や山口に引っ張られているセンターですけど、ゆくゆくは2人を引っ張っていくセンターになりたい」と続けた。

経験は浅いが、意志は他の代表メンバーと軌を一にする。

「チームの目標が2020年に金メダルを獲るということ。それしか掲げていません。男子は世界のレベルは高いですが、日本のメンバーは若く、伸びしろもあると思います。チーム力を生かした細かい技術で、海外の球の速さや高いバウンドボールにしっかり対抗していきたい。女子代表に負けず、2020年にテッペン獲るぞ、という気持ちです」

地力を蓄え続けるゴールボール男子日本代表に、楽しみな若手選手がまた一人加わった。

ゴールボール男子代表は今季、5月のスウェーデン遠征を経て、12月のアジア・パシフィック選手権へ照準を合わせていく。

大会閉幕後の様子

大会閉幕後の様子

(取材・文・写真:吉田直人 校正・佐々木延江)

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