関連カテゴリ: インタビュー, バドミントン, 取材者の視点 — 公開: 2019年6月9日 at 2:01 PM — 更新: 2019年6月11日 at 10:21 AM

東京パラ2020出場をかけて闘う~パラバドミントン、山崎悠麻~

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2020東京パラリンピックのメダル候補

パラバドミントンの山崎悠麻(ゆま。車いす:WH2)
インドネシア2018アジアパラ競技大会、 シングルス・ミックスダブルス3位、東京で行われた国際大会車いす女子(WH2)では単・複・混合複の3種目を制覇し、昨年は世界ランク1位となったベテラン選手だ。

2020東京パラリンピック(以下2020東京パラ)で競技として初めて採用されるパラバドミントンは、基本的なルールはバドミントンと同じ。しかし、障がいの内容や程度に応じた6つのクラス(車いす2クラス:WH1・WH2、立位4クラス:SL4・SL4・SU5・SS6)に分かれ、クラスによりコートの範囲が異なるなどの違いがある。2020東京パラでは、男子7、女子6、混合1の計14種目の実施が決定し、出場選手枠も計90選手(男子44、女子46)が割り当てられている。

2020東京パラに出場するためには、BWF公認の国際大会を転戦してポイントを獲得し、ポイントから算出される国際ランキングで上位に位置する必要があり、既にトルコ国際大会を皮切りに世界を転戦する戦いが始まっている。ポイント獲得のために、まずはポイントが2倍になる8月にスイスで行われるワールドカップへの出場が必須だ。
ワールドカップへの出場などを目指し、3月18日~3月22日に行われた強化合宿で、2020東京パラでメダル獲得の期待が高まる山崎悠麻に出場に向けた抱負などを聞いた。

合宿で取り組んだ課題

山崎にとって強化合宿で取り組む最優先の課題は、ダブルスで確実にポイントを取れるようになることだ。
「トルコの国際大会にエントリーしている選手リストを見る限り、各国本気でポイントを取りに来ており、ダブルスのポイント獲得が必要となっている」

そのため、練習ではできているが、本番ではできないところに取り組んでいるという。具体的には、フィジカル面の強化とチェアワーク・ラケットワークを磨くことにあるようだ。
「特に、チェアワークは玉(シャトルを指す)の精度が必要になるので四隅をしっかり狙って打てるようになりたい。これらのワークが上手くこなせるように道具にもこだわっていきたいと思っています。これ以外にも、手のケアは大切にしています。モチベーションを上げる目的ですが、ラケットを持って車椅子をこぐ時に爪が割れてしまうことがあるので、保護する目的もあります」
と素敵にコーディネートされたネイルを、笑顔で見せてくれた。

公開練習後、囲み取材に応える山崎悠麻(左。車いす:WH2)と里見紗李奈(右。車いす:WH1)
公開練習後、囲み取材に応える山崎悠麻(左。車いす:WH2)と里見紗李奈(右。車いす:WH1)

里見 紗李奈とのダブルスの取り組み

里見 紗李奈(さりな)とのダブルスについては、里見の状態を見てカバーに入れるようになることを意識して練習している。
「動ける選手なので、動きすぎることによって穴が出ないようにしていきたい。状態を見てきつそうな時に、”指示を出す”、”カバーに入る”、”立て直す”など、里見選手へのアプローチの仕方は一つ一つ気をつけて考えていきたいです。里見選手の経験がまだ浅いので、ミスが続くと緊張が出てきてしまったりとか、ドキドキしてしまったりするので、自分自身も勉強中ですが、声がけで何とかならないかなと思っています」
自身の経験を里見へのサポートにフル活用していきたい、という思いが感じられた。

公開練習中の山崎悠麻(車いす:WH2)
公開練習中の山崎悠麻(車いす:WH2)

里見選手に一番効果があると思っている声かけは、「前!」。
「『前!』って私が言ったら、里見選手がひたすら前に行く練習をしています。『私は後ろに行くから、里見選手は前で頑張ってね』と言うのを、『前!』の声かけでできることを目指しています」
この声かけは、山崎がほかの選手とペアで試合をした時に、隣で「頑張れ!」と言われると頑張ることができた経験から。
ただし、試合中に声が続かなくなって、声かけができなくなるのは避けなければならない。そのため、
「試合中は、“声出していこうね、一歩ずつ頑張って声出していこうね”という励ましが感じられるような、常に前向きな言葉をかけ続けられるように心がけたい」
と話す。

公開練習中の里見紗李奈(車いす:WH1)
公開練習中の里見紗李奈(車いす:WH1)

フラグシップ選手としての想い

里見は、山崎の所属しているNTT都市開発に4月から入社した。山崎は「ダブルスで頑張っていく」というアピールになると感じている。スケジュール調整する必要がなく、毎日ダブルスの練習ができることはレベルアップにつながっていく。
また、企業のフラグシップ選手としての自負もある。
「北京五輪の時に絶大な人気を誇ったバドミントンダブルスの『オグシオ』ペアのように、パラバドミントンを引っ張っていくとまではいかなくても、先導役のような存在になれたらいいと思います」

2020東京パラ終了後の気持ちと、周囲へ伝えたい言葉

2020東京パラの全試合が終了したあと、山崎はどうなっているだろうか?
「正直、結果による」
という。
3位の結果となった、昨年秋のインドネシア2018アジアパラ競技大会 が終わった後は燃え尽き症候群のようになり、「バドミントンを今はやらなくてもいいかな」と思う状況で、トレーニングのみ続けていた。負けて悔しい気持ちはあったが、一旦バドミントンをおいてフィジカル面を上げようと考えた。そんな日々を2週間過ごしたことで、「またバドミントンをやりたい!」と気持ちを上げることができた。
「東京パラ終了直後は、そういう思いが出てくるでしょうし、もちろん、終わったという安心感も出てくると思います」
「中国に勝ちたい!」という目標を掲げる今、それをクリアした良い結果になるよう、練習を重ねていくに違いない。

また、2020東京パラが終わったら、周囲の人たちには単純に「ありがとう」と伝えたいと話す。
「子どもも寂しがっているだろうし、主人も大変だし、おじいちゃん、おばあちゃんにもいっぱいサポートしてもらっているし、選手や会社、もちろんコーチなど、みんなにお世話になりながら何とかやり切れている状態なので、感謝の思いを伝えるだろうと思います」
競技と子育てとの両立は、現在模索中だ。今春、上のお子さんが小学校に入学し、下のお子さんも転園した。家族が新しい環境に移るというタイミングで、BWF公認の国際大会の転戦となるのだ。
”小1の壁(保育園のサポートがなくなり、小学校入学後に、母親が育児と仕事の板挟みになってしまうという壁)”は、山崎ならずともワーキングマザーが直面する課題である。転戦中のため、小学校の入学式に出席することができなかった。そういうできないものがある中で、「子どもとできるだけ関わっていきたい、時間があれば小学校の行事には積極的に参加したい」という強い思いがある。
「主人と休みが合わないので旅行という訳にはいかないが、近場でも良いから一緒に家族で楽しいことができれば嬉しい。楽しいことをしたい!」
と笑顔になった。

今後、8月のワールドカップ出場を目指し世界中を転戦するタフな日々が続く。そんな中で山崎が嬉しくなる時間をちょっとでも家族と過ごしながら、厳しいポイント獲得レースを乗り越え、2020東京パラの切符を勝ち取って欲しい、と切に願ってやまない。

[参考情報]
2019年5月までに行われたWBF国際大会結果

トルコ国際大会 WH2女子シングルス3位 山崎悠麻 / WH1−2女子ダブルス3位 里見紗李奈/山崎悠麻

ドバイ国際大会 WH1−2女子ダブルス優勝 里見紗李奈/山崎悠麻 / WH2女子シングルス3位 山崎悠麻

ウガンダ国際大会 出場せず

カナダ国際大会 WH2女子シングルス優勝 山崎悠麻 / WH1−2女子ダブルス優勝 里見紗李奈/山崎悠麻 / WH1女子シングルス3位 里見紗李奈

(写真:そうとめよしえ、編集・校正:望月芳子)

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