関連カテゴリ: 体験会, 取材者の視点, 神奈川, 観戦レポート, 車いすツインバスケットボール — 公開: 2019年6月25日 at 11:15 AM — 更新: 2019年7月3日 at 6:13 PM

One for all, all for oneを貫いた美学の勝利:第32回日本車いすツインバスケットボール選手権大会

知り・知らせるポイントを100文字で

投稿はこちら(メールソフトが開きます)

令和元年6月22日(土)・23日(日)、東京都墨田区総合体育館に於いて、文部科学大臣杯争奪第32回日本車いすツインバスケットボール選手権大会が開催された。

前年度の勝者・神奈川JUNKS(神奈川県)が王座を守り通し2連覇。

佐々木操(3.5/上)のスピードのあるたくましい走り。後ろから深澤康弘(1.5/円内)

22日、まず岐阜エクスプレス(岐阜県)戦で92対37で圧勝。続いて翌23日、博多パトラッシュ(福岡県)戦は98対26で勝ち進み、決勝戦では宿敵Horsetail(東京都)と再び日本一の座をかけて対戦、65対55で神奈川JUNKSの大会2連覇が決まった。

優勝を長年逃してきた神奈川 JUNKS だが、昨年は念願の日本一に返り咲いた。その神奈川JUNKSにとって、王座を守り通せるかどうかの重大な試合であった。

Horsetailが先制点を決めると、神奈川JUNKSも追ってシュートを決めた。両者互角の戦いが繰り広げられ、追いつけ追い越せの試合が長く続いた。

中盤では10点ほど神奈川JUNKSが点差を広げたものの、しばらくするとHorsetailが追い上げて、観客も気を許せない試合展開に引き込まれた。

とは言え、Horsetailが神奈川JUNKSの得点を抜かすことはなく、後半は徐々に神奈川JUNKSとの差がつき始めた。

山口貴久(2.0/円外)はディフェンスに力を注いだ。ボールをつなぐためによく動き、よく走った

全体的に見るとHorsetailのシュート数は少なかったが丁寧にゴールができ、神奈川JUNKSはシュート数は多かったが上と円外シューターの成功率がいつもより下回っていた。

そこで神奈川JUNKSは、『円内シュートの徹底』で得点を確実に伸ばしていった。

伊東の力強いシュートはブロックも効果がない

神奈川JUNKSの円内シューターでは、深澤康弘(1.5)・岸本雅樹(1.5)・伊東良平(2.0)が確実なシュートを決めるが、今回の決勝戦では伊東が目を見張る大活躍を成し遂げた。

伊東は188cmの長身を活かして『上から叩き込むシュート』で確実にボールをゴールに押し込んだ。

伊東の『上から叩き込むシュート』。ゴールの中に手が入るほどしっかりシュートする。中央は岸本

ブロックするにも手が出ないほどの勢いがある。車いすツインバスケットボールの『ダンクシュート』と言えるだろう。

ディフェンスを徹底し、精度の高いパスワークでボールを確実に伊東につなぐ神奈川JUNKS。伊東がボールをキャッチするたびに観客から「おおっ!」とどよめきが漏れるほどであった。

伊東がシュートで得た点数は、65点中45点にも上った。

深澤や岸本のシュートが少なくなってしまったのはファンとして少し寂しい気もしたが、神奈川JUNKSとしては確実に得点を増やしてHorsetailとの点差を広げなくてはならないので、伊東にできるだけボールを回すことにしたのだろう。

キャプテンの橘内。ボールを伊東につなぐために全力を注いだ

シュートだけをクローズアップすれば誰の目にも伊東が映るが、伊東までボールをつないだ選手全員あってこそのこと。神奈川JUNKSのチームワークの素晴らしさを忘れてはならない。

この試合で伊東はMVPと得点王を、ベスト5には橘内祐太郎(2.0/円外)と佐々木操(3.5/上)が選ばれた。

神奈川JUNKSのキャプテン・橘内は、「追われるより追う方がいいよね」と試合の1ヶ月前に言った。キャプテンとして、大きなプレッシャーがのしかかっていただろう。それはキャプテンだけではなく、選手それぞれが感じていると思った。

しかし、「うちはノープレッシャーですよ!」と深澤が笑い飛ばした。

この言葉の裏には、優勝に甘んじることなく練習を積み重ねてきた自信が見える。優勝を手にしてからのこの1年間、彼らは変わりなく地道にきつい練習メニューをこなし続けてきた。

橘内も、追われるプレッシャーを感じつつも笑顔で話す横顔に、揺るがない力を感じさせていた。

優勝した選手とスタッフのハイタッチ。伊東はとびきりの笑顔を見せた。手前右から山口、伊東、深澤、橘内

伊東は決勝戦を振り返ってこう話した。

「良くてシーソーゲームの展開になると思っていたので、どのような状況においてもその場面に合った自分の役割を確実にやることは意識していました。例えばハイポインターにマークされても、自分が点を取るということは諦めずに狙い続けられたので、優勝に貢献できたのだと思います」

また、決勝戦はどの選手の走りも凄かった。

「オフェンス、ディフェンス共に、各個人がかなり走って連携できていたのではないでしょうか。プレー中はかなり冷静でいられたのですが、実は今は細かいことを覚えていないんです。走り疲れですかね? メンバー共に『勝つ』という執念が勝因ですね」

と、勝つためにそれぞれが自分のすべきことに徹し、全力を注いでプレーに専念したという。

円陣を組んだ手と手が心に響く。決して形だけではない。心から信頼し合い、2連覇達成への熱い想いが溢れていた

今年度の選手権大会は神奈川JUNKSにとって、まさに『One for all, all for one』であった。

「一人はみんなのために、みんなは一つの目的のために」

一つの目的、つまりゴールのために全員がそれぞれの役割をしっかり果たしていた。
車いすツインバスケットボールにおける美学を見せつけられた試合と言えよう。

<参考URL>

日本車いすツインバスケットボール連盟
http://jwtbf.com

神奈川ジャンクス
http://www002.upp.so-net.ne.jp/garakutatati/

車椅子ツインバスケットボール
http://www.rehab.go.jp/beppu/book/pdf/livinghome_no27.pdf

(編集・校正 望月芳子)


この記事にコメントする

記事の訂正はこちら(メールソフトが開きます)