パラフォトニュース
記事掲載日:2004/05/04

アイススレッジホッケー世界選手権大会を振り返る(2)

<各国の戦いぶり>
 今大会には8カ国が参加した。プレス席から客観的に見たそれぞれの特徴などを簡単にまとめてみた。

photo◎ノルウェー:1位

 優勝最有力候補だったが、カナダとの準決勝では延長サドンデスまで持ち込まれるなど、全体的に締まりのない試合が多かった。しかし、ふたを開けてみれば全5試合のうち、完封勝ちが3回、あとの2試合で相手に与えた点数は1点ずつと、抜群の安定感を示した。体の大きさやボディバランス、華麗なハンドリング、正確なパスワークなどはピカイチ。ゴール前のディフェンスの壁は厚い。特に、キャプテンマークの3番・Rolf Einar Pedersenの攻守におけるマルチな動きがチームを引っ張った。チーム得点のほとんどを、彼を中心とした4番Tommy Rovelstad、7番Eskil Hagenとのコンビネーションから叩き出した。要注意のセット。独特のペースで淡々と試合を進めるスタイルは、先制点をあげ勢いに乗るタイプの日本が苦手とすることろかも。

photo◎アメリカ:2位

 ソルトレークパラリンピック優勝時の主力メンバーのほとんどを欠きながら決勝までコマを進めた潜在能力には驚かされた。23番Joe Howardのスピードと決定力は驚異。一見、Joeの独り舞台とも思えるが彼が走り込むスペースを作り出す周囲との連携は、さすがといった印象。今大会に限っては粗さも目立ったが、ガンガン前へ出ていく闘争心やパックへの執着心という点では、No.1だったのでは。トリノまでにどんなメンバー構成をしてくるか注目されるが、完全ではないチーム状況でも勝つことができるという自信にもなったのではないか。

photo◎スウェーデン:3位

 もっとも印象的な試合になったのが、初日のエストニア戦。3ピリ序盤まで2点のリードがありながら、5分間で一気に追いつかれ痛いドロー。まさかの結果に、選手はうなだれた。重量級のディフェンスを中心にガンガン攻めてくる以前のような恐怖感はなかった。しかし、21番Marcus Holmや8番Jens Kaskら経験豊かなプレーヤーの個人能力の高さとホッケーのうまさは健在。相手をスルリとかわす華麗なスレッジワークは見習いたい。スウェーデン国内には2つのスレッジチームがあるが、10代の若い選手が順調に育ってきている模様。2年後は若返りをはかり、さらなる強化をしてくるのは必至。

photo◎カナダ:4位

 ソルトレークパラリンピックに引き続き、世界選手権でも4位と低迷した。優勝候補だっただけに、今大会でトリノパラ出場権を獲得できなかったショックは大きいだろう。ただ、今大会は日本と同様に新メンバーで臨んでおり、もともと地盤が固いだけに修復の余地は十分にある。世界に誇る18番Billy Bridgesと27番Bradley Bowdenの最強コンビのプレーが若手の教科書的な存在になっている。またそれぞれのポジションどりがしっかりしており、リンクの使い方や相手の動きを止めるディフェンスのうまさなど、きっちりしたホッケーは、さすがアイスホッケーの国と痛感した。スレッジのチームは国内に70あるともいわれ、アイスマンとの交流も盛んだ。同じくパラ出場をかけてもう一度予選を戦う日本にとって、カナダの存在は驚異となるだろう。

photo◎イギリス:5位

予選は最下位通過だったものの、本戦で日本、ドイツに勝利した末の5位入賞は大きな意味を持つ。力で押していくよりも、じっくり粘ってゲームを進めるスタイル。個人の技術や戦略の面でライバルに劣る部分もあるが、6年ぶりの国際大会参加で日本をはじめ各国にその存在をアピールできたのではないか。今大会のキーマンとなったのが、ゴーリーの69番Philip Saunders。2回対戦した日本戦においては、トータル35本のシュートを浴びながら2失点に抑えるなど、チームを支えた。少し白髪が交じるくらいの年齢ながら抜群の集中力を見せた。トリノに向けた予選大会でも上位に食い込んでくるのではないか。

photo◎日本:6位

開会前の小木曽選手の登録抹消、加藤選手のケガによる途中離脱が残念だった。敗戦から得た課題や、上原選手や媚山選手ら世界選手権初出場組の経験が、代表メンバーにも所属チームにも活かされていくことを期待したい。今大会の全試合を観戦し、他の国と比べてみて改めて感じたことは、やはり日本は個人能力というよりも「集合体」として力を発揮できるチームだということ。全員で攻めるのか、キーマンを全員でフォローするのか様々な形が考えられるが、それが今はまだ未完成の状態。「日本の攻めの形」を早急に確立することが必要だ。それが出来れば、トリノでのリベンジも大いに可能。

photo◎ドイツ:7位

昨年秋、招待ゲームで来日したときより、ドイツチームの動きは格段によくなっていた。パスミスが多くゲームコントロールに不安を残すものの、ファールを恐れずにガンガン前に出て得点につなげるパワーには相手チームを圧倒するものがあった。5戦のうち優勝したノルウェーとの対戦以外は、いずれもシーソーゲームを繰り広げており、最後まであきらめない粘り強さに要注意だ。またその4戦ともポイントをあげており、いずれのシーンにも絡んだ20番Sebastian Kesslerを中心とした得点能力の高いチームということがわかる。

photo◎エストニア:8位

11番Imre Tiitsuと13番Maksim Vedernikovのコンビがチームを引っ張ったが、どんな場面でも的確にパスをつなぎ相手ゴール前に攻め込む組織力は影をひそめた。体の大きさを活かしたチェックやスピードが足りなかったのが悔やまれる。ただ、リレハンメル、長野、ソルトレークと過去3回のパラリンピックに出場している経験と実績もあり、このままでは終わるはずはない。もともと地力のあるチームだけに、どのように修正をしてくるか要注意だ。


【荒木美晴】

トップに戻る | 記事一覧に戻る | 記事目次に戻る

現在の位置:ホーム記事目次あらきのコラム > アイススレッジホッケー世界選手権大会を振り返る(2)