Paraphoto 特定非営利活動法人 国際障害者スポーツ写真連絡協議会

9月20日 (09:24)

Paraphoto Article

いきなりの大試練。「持ち点変更」

なごやん

ウィルチェアラグビーの予選リーグ初戦、アメリカ戦。

日本のスタートメンバーを見たとき、「えっ?」と思った。

#3 福井、#5 荻野、#7伊藤、#8 三阪。

いつものスタメンである、エースの #7 伊藤智と、ボーラー(司令塔に近い役割)の #4 島川の二人が同時に出ていない。明らかにベストメンバーではない布陣だ。

最初は、相手が前回金メダルのアメリカということで、何らかのテストをするのか、とも思ったが、「いや、このパラリンピックの舞台の初戦で、そんなことなどあり得ない」、とその思いを打ち消した。もしかすると主力にけが人が出ているのか? とも思った。その後のメンバー交代で出てくるセットも、以前合宿を見学したときにも、あまり見なかったセットだった。

試合後に塩沢監督、主将の福井、そして #11 仲里に話を聞いてわかったことだが、アテネの現地入りしてから、障害の重度に合わせて選手に割り当てられる「持ち点 (classification)」が、パラリンピック組織委員会の審査を経て変更された、ということなのだ。

「持ち点」は、障害者のスポーツにおいて、とてつもなく大きな要素だ。

ウィルチェアラグビーでは、障害のレベル、つまり、車椅子の操作やボールを扱う能力によって0.5〜3.5点の7クラスにが分類される。障害が重いほど、持ち点は低い。そして、コート上の4選手の持ち点が合計は8.0点を越えられないルールになっている。

どのチームも、ベストメンバーや、相手チームのメンバーや試合展開に応じたメンバーの組み合わせパターン(「ライン」という)をたくさん持っていて、そのおのおののセットでチームプレイ、コンビの合わせるタイミングなどを練り上げている。たとえば、4人の持ち点が

A: 3.5/2.0/2.0/0.5
B: 3.0/2.0/1.5/1.5
C: 3.0/3.0/1.5/0.5
・・・

などのラインのパターンだ。
運動能力の高い人、つまり障害レベルの低い人が 3.5点 や 3.0点などの高い持ち点を持っているから、そのエースプレイヤーを入れるため、他のメンバーは点数の低い人を揃えなければならなくなる。逆に、障害が重く、持ち点が 1.0点、0.5点と低い人(ローポインター)の能力が高ければ、チームプレーに非常に幅が出てくる。

戦術面、技術面でも、持ち点が色濃く影響する。たとえばバックピックでは、持ち点の低いプレーヤー2人で相手のエース一人を押さえて動けなくしてしまえば、アウトナンバーされていても有利な展開になる。

持ち点の変更は以下の4人。
# 7 伊藤 2.5 → 3.5
# 9 田村 3.0 → 2.5
#10 佐藤 2.0 → 2.5
#11 仲里 2.5 → 3.0

特に、エースの #7 伊藤の持ち点が3.5点と、一気に1点も引き上げられてしまったのがとてつもなく大きい。これで、3.0点の島川と二人を同時に入れるセットが完全に組めなくなってしまった。

説明が長くなったが、ウィルチェアラグビーにおいて、非常に重要な要素なのでご容赦願いたい。

いずれにしても、日本チームは、このアテネの土壇場に来て、チームの基礎である持ち点が変わってしまい、ここまで長い時間をかけて練習を積み重ねてきたプレーパターン、タイミングの取り方などが、ほとんど使えなくなってしまう、と言う非常事態に陥ってしまった。

しかも、予選3試合中でできるだけ全選手を使って持ち点の審査員(Classifier)の審査を受けなければならず、それで審査員のOKが出ないと決勝トーナメントの3試合に進めなくなってしまうのだ。

このアメリカとのゲームでは、立ち上がりから激しいタックル、つぶしからやすやすとゴールを決められる。コンビの息が合わないところを突かれたターンオーバーやスティールも重なり、5分で 7-2 と離された。
#7 伊藤、#8 三阪を下げて #4 島川、#9 田村を入れ、多少コンビネーションがよくなってきて #9 田村が得点を重ねたが、それでも点差を詰めることができない。
 

photo

アメリカの当たりは厳しい


やはり相手はチャンピオンチーム。バックコートから中盤のチェックで、簡単にフリーの選手ができてしまい、短い時間でゴールを決めていく。日本はディフェンスでいい形を作れる時間もあったが、1回1回のオフェンスに非常に時間をかけてしまい、またターンオーバーも重ねてしまう。

#11 仲里も 3.0点に上がってしまったこともあって、プレー時間が 3Q の3分弱のみにとどまった。しかし、その短い時間の中で、持ち前のスピードで3つのきれいなゴールを決めた。

その後も様々なパターンのセットを出すが、結局この流れはゲームを通して変わらず、39-54 という点差以上に、内容の差が出てしまったゲームになってしまった。

塩沢康雄監督は「やはりここに来てのクラス(持ち点)の変更は大きく、ベストメンバーが組めず、難しかった。また、課題の立ち上がりでつまずいてしまったことで、ゲームの流れがつかめなかった。だが、新しいラインでも、対応ができる手がかりはつかめたと思うので、これからしっかりチェックして次に臨みたい」と話した。

主将の #3 福井は「今まで作り上げてきたラインで戦えないので、タイミングが難しく、苦しかった。審査結果は明日出ると思うが、ポイントが戻るわけではないので、今日の試合での修正点をきっちり出して、明日のオーストラリア戦に臨みたい。力も技術もあるわけだし、今日のゲームでも、ロングパスが出たり、相手にタイムアウトを取らせるようなディフェンスもできたわけだから、特にバックコートでのプレーのタイミングさえきちんと拾えれば、良い試合ができると思う。」と前向きな姿勢を見せていた。
#11 仲里は「パラリンピックのすばらしいコートでプレーできて感動した。アメリカ選手の当たりは力強く、また短い時間だったが、コートに出たときは自分の力を出し切ることはできたと思う。明日のオーストラリア戦へも気持ちを切り替えてがんばる」と力強く語ってくれた。

とにかく、こういうことになってしまったのはもう仕方がない。気持ちを切り替えて、新しいラインでのタイミングを掴むことから戦っていくしかない。

とてつもなく大きな試練だが、チャレンジあるのみだ。

 

photo

短い時間だったが、ゴールを決めた仲里


USA 54 JPN 39 - Final
試合結果 - athens2004.com
(BOX SCORE Play by Play など。PDFファイル)

記事に関するご意見・感想はこちらへ → info@paraphoto.org / BBS

2004
アテネ取材プロジェクト

競技 / 日程 / メダル情報

リンク

Okinawa Huirricanes

沖縄のウィルチェアラグビーチーム、Okinawa Hurricanes のオフィシャルサイトです。

たおやかなるアテネの空の下で

なごやん個人のアテネ現地観戦のブログです。

日本ウィルチェアーラグビー連盟

日本ウィルチェアーラグビー連盟

a-Link 1.00

ホーム > スタッフ > なごやん > 記事本文

パラフォトとはプレスリリース|メールマガジン|NPO活動への招待
ボランティア募集|活動スケジュール|リンク|BBSお問い合せ

Paraphotoに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。
2004 Paraphoto All rights reserved.