フレームとの対話 〜森井大輝選手(クラス/LW11)
笑顔が消えていた。彼の表情にいつもあるはずの快活な明るさがそこにはなかった。
2月15日から3日間、新潟県新井市にあるARAI MOUNTAIN & SNOW PARKでジャパンパラリンピックが開催された。この“冬の祭典”は今回で8回目を迎える。選手の出場受付や開会式が行なわれる初日を除いた2日間で、アルペンとクロスカントリーを競う。この地にしては珍しく、期間中の空は晴れ渡っていた。だが一見よろこばしい晴天も、チェアスキーヤー・森井大輝には皮肉に映った。
初日から違和感はあった。
「ここに来る2週間前にシートの背もたれを5〜10cm長くしたんです。それで滑り方が変わっちゃった」
脊椎損傷を抱える21歳の青年が初めてチェアスキーを手にしたのは4年前、長野パラリンピックの年だった。もともとスキーをやっていたこともあり、操るのに時間はほとんどかからなかった。山川洋・アルペンスキー監督が「これほど(重心の)バランスがいい選手は初めて」というほどのセンスの持ち主である。これまでの技術向上も順調そのものだった。だが、4年も経てば体のサイズも変わる。ソルトレークパラリンピックに向け、使い慣れた椅子の変更に踏み切った。「どうせ作り直すんだから、というノリで」背もたれの長さも変えた。ここに落とし穴が待っていたのである。
「いままではテコの原理で滑っていたんです。シートのへりの部分を利用して、そこを支点に足元で操作する要領で。でも背中の高い位置までシートがきてしまうとテコの原理が使えなくて、体全体でターンをしなきゃいけない。そんなの初めてですから戸惑いました」
ほんの数cmの誤差が、潜在能力の高い選手の計算を狂わせた。
得意とする大回転1本目、トップの谷口彰と3秒弱のビハインドで2位につける。一見すると好スタートに見えた。だが実際は思うようにマシンをコントロールできていなかった。「ノレてない」と思った。巻き返しを図るはずの2本目もタイムが伸びない。結局、1st Runより2秒縮めてゴールした谷口に対し、森井は逆転どころか自身の1st Runに5秒も及ばずフィニッシュ、トータルでトップに12秒以上の差を許し、2位に甘んじた。後ろをふり返れば3位の野島弘にも約1秒差まで肉薄されていた。
前日からの違和感を引きずりながら挑んだ大会2日目の回転でも状態は変わらない。1本目で3位につけるも、ほかの選手が2本目でタイムを縮めているなか森井は転倒、20秒以上も遅れをとった。LW11クラスに名を連ねる8人中7位、惨敗だった。たとえ1本目で転んだとしても、2本目で挽回してきたような、これまでの自分の滑りができなかった。
「初めてヘコみました。僕を選んでくれた監督やコーチ、代表に入れなかった他の選手たちにも申し訳ないです」
4年に一度の大舞台は目前に迫っている。落ち込んでいる暇はない。森井は日本代表選手団の結団式翌日から3日間、菅平でトレーニングをし、その後カナダで行なわれるワールドカップへと旅立った。パラリンピックを控え最後となるこの調整で、自分が思い描く滑りを取り戻せるかどうか。「できるなら(メダルを)持って帰りたい」という夢を胸に、国際大会初出場の若武者がソルトレークに臨む。
Text/Daigo Kumamoto
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