3月15日・競技5日目 シットスキー男女長距離
〜未来のパラリンピアンたちへ〜

僕が競技の記事を書くのも、今日で最後になる。

今まで計5回、ソルジャーホローに通って、強く心に残ったことがある。
それは、子供たちの応援がとても多いということだ。スタンドにも、コース脇にも、子供たちの方が大人の数よりもずっと多い。
レースが終われば、選手は子供たちに囲まれて、サインをねだられる。メジャーリーグの選手がそうであるように。

この子たちが、もし将来、失明したり、手や足が不自由になったら、パラリンピックを目指すだろうか。不謹慎かも知れないが、そう考えてしまった。しかし、そうならないとも限らない。この中から、パラリンピックアスリートが生まれるかもしれない。


そう考えると、未来のパラリンピアンたちへの道を示すことも、選手たちの大切な役割だと思った。有望な若手が育てば、レベルの底上げになり、自らのレベルアップにもつながる。障害を持つ人の楽しみも増える。競技者人口の少ない日本では、特にその必要があるだろう。選手は、自分1人のために滑るのではない。

パラリンピックも、残すところあと2日。今日は、シットスキー最後の競技、男子15km・女子10kmの長距離レースが行われる。
選手自身の「これから」と、日本のパラリンピック・クロスカントリー界の「これから」、その両方につながるようなレースを期待して、スタートを待った。天気は快晴。少し寒いが、雪質は最高だ。

このレースでは、男女ともLW10・11・12がコンバインドされた。今は国際的に、できる限りクラス数を少なくしてメダルのステータスを上げていこうとする動きになっている。そのために、クラス分けの新たな基準づくりを急ぐことが、13日のIPC総会で決定した。2003年の世界選手権からは、シット・ブラインド・立位の3種目それぞれで、金メダルは1しか出さない方針になった。また、クラス分けはより細かくなり、バイアスロンの競技数も増える見込みだ。

つまり、それだけ公平性と競技性が上がると考えていいだろう。深沢選手の例のように、直前でクラスが変更になるというようなトラブルをなくすためには、いいことだ。しかしその分だけ選手強化の必要性が高まるのも、また事実。バイアスロン用の銃の使用も含めて、日本にとっては課題になるだろう。



長田弘幸がスタートした。

いつものように、はじめから飛ばしてゆく。同じクラスで目標としていたスイスのフランコに、3周目までは勝っていた。しかしラスト1周で抜かされて、17位。同じLW10の中では、6人中4位だった。
今シーズンから新しく、かかとが上がる(スラップスケートのような)スキーを使用している。自分で改良したものだ。うまく乗りこなすために、紆余曲折があったと言う。スキーの性能を上げれば、それに合わせて滑りのレベルも上げなければいけない。長田は、その途中段階にある。


レース後は、晴れ晴れとした表情をしていた。自分の力を出し切った。応援してくれたみんなに感謝したい。
いつものようにそう語ったあと、最後にクロカンの魅力を問われて、こう答えた。

「競技は苦しいだけだけど(笑)、苦しいのは選手だけでいい。(車いすの人は)冬のあいだ閉じこもりがちになるので、ハイキングがてらできればいいんじゃないでしょうか。そんな楽しさを自分たちが伝えていかないといけない。あとは深沢さんに・・・。」

・・・そう言われて横を見ると、ゴールした深沢選手が泣いていた。

「自分が情けない」レースごとにそう語っていた深沢が、最後のレースでこみ上げるものを押さえきれないように、声を震わせていた。
「一生懸命やりました。応援ありがとうございました。」
そう言って深々と頭を下げた。


4年前の長野では、長田や久保田が、同じような悔しい思いをしている。クラス変更や両肩の痛みなどがあり、心身共に万全ではなかったはずだ。しかし本人も、見ている人間としても、それを理由にはしてほしくない。だからこそ、トリノで成長した深沢の滑りが見たい。



久保田とし子は、後半の強さが生きたレースとなった。1周目に4秒差をつけられていたロシアのイリ−ナを、後半逆転しての7位。体調を崩し、十分に練習をしていない。そんな中、代表にもれたご主人の亮一さんの分まで、気持ちで滑りきった。荒井監督も「イリ−ナに勝ったことは、大きな財産になる」と絶賛していた。


久保田は、日本人選手の中でいちばんレース後の表情がいい。順位がどうであれ、スキーを楽しんでいる気持ちが伝わってくる。
「公園とかでもできますので、こういう晴れた日に、自然と親しめるスキーのすばらしさを分かってもらいたいなって思います」
と、最後にすがすがしい笑顔で語った。


レース後、荒井監督にお話を聞いた。
これからの選手育成について、どうしても聞いておきたかった。未来のパラリンピアンを、どう育てていくのか。ずっと気になっていたことだ。

思わぬ答えが返ってきた。

「中高生を対象に、パラリンピックのジュニアのキャンプを計画していまして、スポーツを支援する財団の方へ申請しています。そうやってすそ野を広げていって、ジャパン・パラリンピックに選手を100人集めることが目標です。」

そこまで計画が進んでいたとは。昨年11月に日本障害者スキー協会が設立されたことが、大きく影響したようだ。これが実現すれば、競技人口の増加と選手のレベルアップの両方が、期待できる。

トリノを目指す、若い選手たちへひとこと、とお願いすると、
「今は、障害のある人もない人も、スポーツを楽しめる時代になっていますから、トリノうんぬんよりも、楽しみながら人と人とのつながりだとか、苦しさを学びとる中で、自分の夢を実現していってほしいと思います。」
と話してくれた。

その通りかも知れない。旭川のクロスカントリースキーフェスタには、200人の子供が集まった。しかしノルウェーなどでは、大会に800人の選手が集まるという。日本はまだまだ発展途上にある。少しづつでも、いい方向に向かっていってくれればいい。

レース後、久保田はこれからも楽しみながらレースを続けていくと語った。長田も、深ちゃん(深沢)と一緒に4年後を目指すと話した。
それに対し、このレースでも金メダルをとった女王・ミュクレブストは、「若い選手を育てたい」と引退を表明した。世界も、新しい世代の台頭を待っている。



男子シットスキー(3.75・×4周)

1位・SHILOV Sergey(LW10) ・・・・・・・・・・42:03.2・ロシア

2位・TERNTIEV Michail(LW10)・・・・・・・・・42:59.9・ロシア

3位・ANTHOFER Oliver(LW11)・・・・・・・・・・43:51.8・オーストリア

17位・長田弘幸(LW10)・・・・・・・・・・・・・47:07.0・日本

31位・深沢春二(LW11)・・・・・・・・・・・・・56:22.8・日本



女子シットスキー(3.3・×3周)

1位・MYKLEBUST Ragnhild(LW12)・・・・・・・・・33:43.8・ノルウェー

2位・TRYFONOVA Svitlana(LW11)・・・・・・・・・34:41.5・ウクライナ

3位・YURKOVSKA Olena(LW12)・・・・・・・・・・・35:25.6・ウクライナ

7位・久保田とし子(LW11)・・・・・・・・・・・・37:09.3・日本