番外編 〜PM7:00 旭川空港にて 「スポーツは永遠、スポーツは平等」〜

飛行機の搭乗まで、30分ほど余裕がある。弁当でも買うか…と売店に並んでいたら、「お疲れさま」と聞き覚えのある声が。振り返ると、荒井監督が赤い顔をして立っていた。

選手のみなさんは旭川で一泊するが、監督は翌日がお仕事のため、一足早く帰京するそうだ。
望月と磯田は、地ビールをご馳走になりながら、監督とお話をした。少し酔っているせいか、監督はいつもより饒舌だった。
メモをとっていなかったので、憶えている部分だけを書くことにする。

話は、ブラインドのスキーヤーとガイドの話題になった。

 ― スキーヤーとガイドの信頼関係って、すごいんでしょうね。

本当に。2人はまるで音楽を奏でているようだね。あのリズムとスピードは、お互いを信頼しているからこそ生まれるものなんですよ。

 ― 大会も、皆さんの協力のおかげで盛り上がりました。

選手は、一人の力だけじゃなくて、協力してくださった皆さんの期待を背負って走らないとね。たとえば小林稔君(松本盲学校教諭)や深雪ちゃん(松本盲学校の卒業生)なんかは、松本盲学校の皆さんの分まで頑張らないと。この大会にも、「稔先生見たいにスキーをしてみたい」っていう生徒さんが、わざわざ松本から応援に来てくれていたんです。

 ― ソルトレークでは、選手全員にメダルが期待できますね。

本当はね、メダルを獲ることはそんなに簡単じゃないんです。でも、選手にいいイメージを持たせるのもわれわれコーチ陣の大事な役目ですから。常にいい所をほめてあげて、表彰台で自分の名前が呼ばれる姿をイメージさせようとしています。


そして、最後に聞きたくても聞けなかった質問をしてみた。大会前にこんな事を聞くのは失礼だと思っていたから、ためらっていたのだ。それは、小林深雪選手が「ソルトレークで国際大会にはひと区切りつけたい」と語っていることについてだった。

 ― 選手の中には、「国際大会はこれで最後にしたい」と考えている人もいるようですが…。

確かに、深雪ちゃん以外にも、そう考えている選手はいるようですね。彼らには仕事もあるし、家庭を持ちたいという人もいるだろうし、それはそれでいいと思います。
でもね、そういう葛藤を持ちながらも、誰でも、どんな状況でも自分の限界に挑戦できるのがスポーツなんだよ。
だから、スポーツは永遠だし、スポーツは平等なんです。


この2日後、荒井監督らスタッフと選手たちは、ワールドカップ参戦のためフランスへ旅立った。最後のお礼をした後、「次はジャパラで会いましょう」。そういって僕たちは監督とお別れした。



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