パラフォトニュース
記事掲載日:2004/01/27

なんでもコラム<射撃> ビームライフルを体験

小雪ちらつく1月某日、京都を拠点に活動するある射撃クラブを訪れた。世界選手権出場選手や国体優勝選手、パラリンピック出場選手も排出する、1969年の創設の古豪クラブだ。

 射撃とほかのスポーツの違う点は、パワーやスピードが必要ないこと。むしろ、常に力を抜いて平常心を保たなくてはならない。なぜなら、ターゲットは、10m先の0.5mmや50m先の10.4mmの中心点。その小さな点に向けて銃を確実に固定するためには、ちょっとした体の緊張も許されないのだ。かといって、体力を使わないわけではない。競技によっては1試合で2時間以上もかかる場合もある。しかも規格で定められた分厚い革のキャンバスのコートの着用が義務づけられており、夏場は試合が終わった途端に脱水症状で卒倒する選手もいるのだとか。

 競技の魅力のひとつは、男女、年齢、障害の有無に関係なく始められること。競技を始めるには、銃の所持許可を取得しなければならない。同クラブは20〜60歳代の選手が参加しているが、その多くは社会人になってから始めたという。スタートの早い遅いにかかわらず、上を目指せるスポーツなのだ。

 ところで、銃の所持許可のいらない「ビームライフル」なら私でも撃てると聞き、さっそく体験してみることに。銃を構え、10m先を狙う。「リラックスして」というアドバイスに、ふとある場面を思い出した。

 それは、一昨年の釜山フェスピック大会。私は、郊外の射撃場で行われていた女子10m伏射決勝戦を取材していた。決勝戦は、横一列に選手が並び、一発撃つごとに順位が発表される。シーンと静まりかえる会場に「パン!」と乾いた銃声が響く。そのたびに、観客席からため息まじりのどよめきが。それが何度も繰り返される。見ているこちらが押しつぶされそうな、なんともいえない異様な雰囲気。横の選手や観客が気になったらその時点でアウト。決勝戦のプレッシャーは相当なものであることが、空気から伝わってくる。この時、まさに自分と戦っていたのが、寺井亜希選手。指が震え、引き金をひくことができないでいる。深呼吸し、何度も構えをやり直す。最後の射撃が終わった途端、会場は緊張の糸が切れたように、大歓声に包まれた。試合後、彼女は言った。「自分の心臓の音しか聞こえなかった」。想像を超えた集中力。寺井選手は見事に銀メダルを獲得したのだった。


photo さて、そんな究極の精神状態を保たなくてはならない射撃を、素人の私ができるはずもない。とりあえず、「銃の先に付いているマークと標的の中心の黒い点が重なるように」と、言われるがままに銃を構える。「ほんまにできんのか?」と心のなかでつぶやきつつ、ふーっと息を吐き呼吸を整え、目を閉じる。そしてもう一度照準を合わせると、不思議なほどビシッと収まって見える。「おおっ!?」。完全に力が抜けている状態。軽くタッチするように引き金を引くと、なんと10点が出た。その後も、8点から10点の間をウロウロ。
スタッフの方いわく、「素質がある。ビームライフル専門でぜひ初めてみて」。脱力する感じが私に合っていたのだろうか・・・。たしかに、的に当てる爽快感が楽しかった。


 いずれにしても、銃を構えて撃つなどめったに出来ないこと。貴重な経験となった。アテネパラリンピックでも、メダルが期待される射撃。もう一度、あの決勝戦の空気を味わってみたい。


【取材:荒木美晴】

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