パラフォトニュース
記事掲載日:2003/11/12

競技する環境・その2 技術役員:三井さん_001の2

9月21日 ジャパラ・レポート 
〜競技する環境・その2 技術役員:三井さん 選手の競技環境〜


トラックを見渡せる本部テント脇で競技を見守る三井さんは、関東身体障害者陸上競技連盟より技術役員(T.O)として参加している。「技術役員」とは、一般の役員とは違い、競技において、審判でも判断のつかない難しい場面を解決する「競技の裁判所」的な役割。
 三井さんはこれまで、陸上競技のコーチとして選手と一緒に海外の大会へ行き、さまざまな場面に立ち会ってきた。本誌では、釜山で行われたフェスピック(極東・アジア南太平洋障害者スポーツ大会)において審判員として参加していた三井さんに注目、インタビューした。その中で、「選手の競技環境」というキーワードが、三井さんの根底にあることを見つけ、共感した。今回の取材でも、「自分がそこにいることで、選手リラックスした競技をしてもらいたい。アテネでは、陸上の監督で参加する予定です。もっとも自分の力の発揮できるポジションと思います。ぜひ、日本代表選手たちのためにやっていきたい。」という。陸上という個人競技の世界の中で、「コーチ」という仕事を通して「チーム競技」をしているように見えた。三井さんは、来年のアテネパラリンピックでは、陸上競技の日本代表を率いる監督として参加が予定されている。

-----アテネまで1年を切りましたが、三井さんの周囲の選手の方々のご様子はいかがですか?
 「車椅子競技に関していえば、1年前よりはいいところまで仕上がってきている。意識をもって課題に取り組んでいるので、非常にいい形になってきています。」
 ジャパンパラリンピック陸上競技大会は、今回からIPC公認大会となり、国際標準記録が公示され、記録以上の選手が招集されている。日本にいながら、アテネを目指す選手の標準記録と向き合えるようになった。また、今回、アテネの組織委員会がオリンピックとパラリンピックを同時に運営することになり、国際情報などが掴みやすくなる可能性もあると三井さんはみている。

○陸上はオリンピックにもっとも近いパラリンピック?

-----パラリンピックの競技の中でも、陸上はもっともオリンピックに近い競技だと思いますが、今後オリンピック種目になるという可能性についてはどうでしょうか。
 「マラソンなどは時差スタートをしたり、できるところは一緒にできたらと思いますが、100パーセント一緒にやるというのは難しいでしょう。また、陸上は個人競技なので、一緒にやることがすべていいことではないと思います。競技をするスピードや、生活をするスピードがやはりぜんぜん違うと思うんで、障害をもっている人のほうが遅かったりしますよね。そこでストレスを感じるんだったら、あえて一緒にしないほうがいいなと、どちらがか犠牲になることもないし。
 それから、オリンピックがビジネス的になっているところで、パラリンピックはもっと純粋にスポーツの頂点としてある、それを考えたときに、あまり左右されないところで競技をしていく事ができるんじゃないかなと思います。パラリンピックのほうがスポーツを面白く観てもらえるんじゃないかな、人間の内面的なものとかもあるし。一人の選手としたら、華やかなところでやったほうがいいと思うんですけれども、べつに華やかにやりたいから出ているんじゃないし(笑)、そこにいくまで、ステータスを感じられる舞台に向かって競技をしていく楽しさがあると思います。だから、そこに観客がいたほうがいいんだろうけど、いなくてもやっぱりそこまで行けたということが大きいわけです。結果としてお客さんがいて、自分のやってきたことを満足のいく形でできたときに、オリンピックでもパラリンピックでも、同じようにパフォーマンスをする場があっていいかなと思います。」
 過去、障害者の陸上競技については、ロサンゼルスオリンピックから800mと1500mでそれぞれ公開競技として車椅子レースの選手が参加している。通常、公開競技で参加した種目は、つぎの大会で正式な種目になるのだが、パラリンピックの競技が正式種目にはなった例はまだない。今年は、パリの世界陸上でも車椅子レースのデモンストレーション競技で日本からは花岡伸和(T54・脊椎損傷)選手が予選を勝ち抜いて出場した。(今年、バルセロナで行われた水泳の世界選手権では、障害者部門が正式種目として開催されていたという。)

------どんな環境なら、いいと思いますか?
 「選手ひとりひとりが主役なので、そうなれるような環境であれば一緒にやってもいいんじゃないかなと思います。そこでやることによって、どっちかが主役でどっちかが引き立て役になるのであれば意味ないでしょう。オリンピックの選手と一緒にやって、健常の選手がメディアうけして、障害者のある選手は主役でなくなってしまって、"やってあげてるよ"、とか、"機会を与えている"ということになってしまうんであれば、単独でやったほうがいいんだろうし、それと同じで、パラリンピックの中でも障害の種類によって、どちらかかが引き立て役になるようなことであれば、無理にそんなことしないで、つねにやっている人は主役であってほしいし、本人たちの努力の姿っていうものが同じように評価されてほしいと思います。」


○障害のちがいはどう影響するか。

 最近になって、パラリンピックの選手が障害の種類を問わず申し合わせ、「パラリンピアンズ協会」(理事長:河合順一)が発足した。いよいよ選手のほうも自分たちで自分たちの環境づくりに取り組もうとしているようだ。しかし、パラリンピアンズといったとき、クラスとして出場停止となっている知的障害の選手は含まれるのだろうか? 今大会では、IPC(国際パラリンピック委員会)を自ら脱退した「ろう者スポーツ連盟」の選手や、シドニー以降出場が見合わされている知的障害のクラスも参加している。知的障害のクラスは、アテネでは公開競技としての参加が認められているが、参加基準・レベルの要求が厳しく、日本の中からは参加できる選手がいないと言われている。

------今大会では、知的障害の選手もいますが、身障者の場合の環境とはずいぶんちがうと思いますが・・。
 「知的障害の障害と言うのは、自己アピールがなかなかできないということがあって、回りの人のサポートが中心になっている。それは、本人が主役なのだけれども、つくりあげられたもので、自分たちは自己アピールがしづらい。いまの段階では上手く統合できていない部分ですよね。本人が主役である前に、それを自己アピールできる人もいれば、できない人もいる。どちらかと言えば、できない人のほうが多い中で、きちっと整理されないのはそこに行き着いちゃうと思うんですよね。知的でも自己アピールできる選手はどんどん自分でやっていますし。」
 

○雨の日対策は?

-------この2日間、見事に雨が降り、選手達は厳しい寒さの中で緊張感もあって、淡々と競技に打ち込んできたと思いますが、このように一人ひとりが取り組める陸上競技への選手のこだわりを感じました。
 「陸上競技はつねにどんな天気でもやる。タイムは落ちても、選手達にはそれぞれの自己ベストを出して欲しいし、運営サイドとしてはそこで雨だからということで、手抜きをするということじゃなくて。いろいろな問題があるとしても、選手が結果ベストを出せるようにすることが大事です。」

-------F1レースなども、雨の日対策でいろいろな工夫をすると思いますが、車椅子や義足のレースはどうですか。
 「選手ごとの工夫でそれぞれやっています。車椅子は、グローブに松ヤニを塗ったり滑り止めをしたり、雨に強い素材を使ってグリップ力をあげるなどしています。それの他とくにありません。車椅子もレインタイヤなどはないですし、義足もそのままです。」

○日本選手の課題

-------現状の課題は何でしょうか。
 「個人競技で人数が少ない、しかもクラスにわかれてしまう。ということで、身近にライバルがつくりにくい事です。障害者のスポーツ全体的にそうだと思いますが、そのため、どうしても海外へ出ていかないとつねにメンタル的な意識を高めていくと言うことがむづかしいと思うんです。見えない敵と戦っていかなければならない。強くなればなるほどそういうことが絞られてきてしまうんで、国内に同じようなライバルがいればそこで戦えるけれども、そうならないと非常に時間とお金をかけて、続けていくのがむづかしくなる。そういったところですね。」
-------アテネまでに海外遠征の予定は?
「全体では行かないです。国際車椅子スポーツ連盟のトラック大会が1月にオーストラリアであります。」


○選手選考の方法
-------アテネ選手はどのように決まるか。
 「IPCの参加標準記録をクリアすること。そうすれば、その後、参加割り当て数が来る。枠の範囲でオールジャパンを決める。選考期間内の大会のトータルの記録を並べて、上から平等に選んでいく。全て記録が中心、メダルが取れる選手を選んでいきます。」


○今後、どのようにされたいか。
-------活動資金をもっと充実させたい。競技団体のスポンサーをあつめて、選手一人の個人負担を軽減したい。より多くの派遣事業をしていきたい。いい選手を海外していきたい。お金がないから派遣できないっていうことをなくしていきたいなと思います。

-------ありがとうございました。


2003.9.21 町田市陸上競技場にて
パラフォト 佐々木延江

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