Paraphoto 特定非営利活動法人 国際障害者スポーツ写真連絡協議会

9月24日 (08:52)

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納得いかない。でも、我々は全力で戦うしかない

なごやん

ウィルチェアラグビーの決勝ラウンド初戦、B組1位のイギリスと対戦した日本は、42-50 で敗れ、メダルの可能性が無くなり、5-8位の順位決定ラウンドに回ることになった。

試合前、再び、チームに激震が走った。チームのエースの一人で、世界的プレーヤーである #7 伊藤が、「持ち点」の再審査が難航し、点数がつけられない状態で、この最も重要な試合に出場ができなくなった。#15 川村も、再審査の結果、4.0点という超高得点に上げられてしまい、メンバーの組み合わせの関係で、ゲームに出ることができなくなった。

(「持ち点」に関してはこの記事『いきなりの大試練。「持ち点変更」』参照)

予選ラウンドの後、選手全員の持ち点が確定し、気持ちを新たに決勝ラウンドに臨めるはずだった。しかし、大会側の再審査の滞りで、試合直前にチームの要を失い、またしてもラインを組み直してこのゲームに臨まざるを得ない羽目に陥った。
#11 仲里は持ち点が大会前の審査で 3.0点に上げられたが、大会中の再審査で 2.5点に戻ることができた。しかし、ローポインターでスタメンの #5 荻野は 1.0点に上げられたままだ。
(公式スコアは #5 荻野は 0.5点、#11 仲里 3.0点になっているが、これはおそらく間違っている)

試合は、#3 福井 (2.0)、#4 島川 (3.0)、#5 荻野 (1.0)、#8 三阪 (2.0) でスタート。
直後から日本のターンオーバーが出て、イギリスの先制リードを許してしまう。#4 福井に変えて #10 佐藤 (2.0)を入れるが、バックピックもスクリーンのポジション取りでも勝てず、ディフェンスでほとんど点を許してしまう。
やはり、急造ラインのとても辛い面が、試合の最初から出てしまった。
2Q以降も、「#2 守/#9 田村/#8 三阪/#10 佐藤」や、「#2 守/#4 島川 /#5荻野 /#9 田村」という布陣などを組んでみるが、点差は5点、6点、7点と時がたつにつれ、じりじりと広がっていく。#4 島川と、イギリスの #8 Collins のボーラー同士の潰しあいがすごい。
結局、ほとんど良い時間帯を作れることなく、前半を 18-25 で終えた。

いつもの試合のように、選手は必死になって戦っている。だけど、うまくいかない。試合をやったことのないメンバーセット、タイミング、チームプレー・・・ うまくいかないが、必死に全力を尽くして戦っている気持ちがじんじん伝わってきた。
試合に出られない #7 伊藤と #15 川村はベンチでユニフォームを着ずに、じっとこの苦しい戦況を見守っている。
心中は、察するに余りある。

後半も、基本的に前半と全く同じ試合展開だ。3Q で差は 39-28 と11点差に開いてしまった。
#11 仲里は、4Qから #2 守 (1.5) / #4 島川 (3.0) / #5 荻野 (1.0) /#11 仲里 (2.5)というメンバーで出場した。#4 島川とのコンビで、アシストパスを出しあいながら、良いゴールを決めていく。しかし、イギリスにうまくボールコントロールをされて時間を使われ、差を3点詰めたが、結局 50-42 でタイムアップの時を迎えてしまった。
 

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両チームで健闘をたたえ合った後、#11 仲里と #9 田村が、その場で自分のジャージを脱ぎだした。見ると、#11 仲里は出場すらかなわなかった #7 伊藤のジャージを、#9 田村は同じく #15 川村のを、自分のジャージの下に着ていたのだ。
よく見ると、チームの全ての選手が、肩やテーピングの上に、#7 と #15 の番号を書き込んでプレーしていたのだ。

試合後、#11 仲里と #3 福井に話を聞いた。

#11 仲里は、

「悔しい。メダルゲームまで行きたかった。自分の持ち点は 2.5 に戻ったけど、もう少しゲームの中でやれるのではと思った。
 (#7 伊藤のユニフォームをつけてプレーして)今までこの12名でやってきたんで、仲間として一緒にやりたかったという思いを込めて、#9 田村と二人で考えて、ユニフォームをつけさせてください、とお願いした。
 (順位決定戦に向かって)とにかく勝ちたい。順位を一つでもあげたい。コートに出たら、そのために全力でプレーする。とにかく勝ちたいんです」
と力強く語った。
 

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出られなくなった #7 伊藤、#15 川村のユニフォームを
下に着てプレーした #11 仲里(左)、#9 田村)


キャプテンの #3 福井は、誠実な彼らしく、言葉を選びながら丁寧に話してくれたが、やはり言葉の端々ににじむ悔しさを、抑えることはできなかった。

- 残念な結果になってしまった
「悔しいです。本当に悔しい。でも、明日あさってと試合があるので、それに向かって、少しでも上位を狙っていけるように、気持ちを切り替えてやっていく」

- 今回、この持ち点再審査の混乱が起こったこと自体、チームには大きな不満があると思うが
「IWRF(国際ウィルチェアラグビー連盟)のルールに基づいた持ち点で、長い時間をかけてチーム作りを進めてきたのだが、今回突然、IPC (国際パラリンピック委員会)の基準で再審査を受けることになった。個人的には、平等性に欠ける部分があると思う。IWRF で(一定の条件を満たして)持ち点が確定している選手は今回再審査を受けない、という状況の中で、日本チームは全員が再検査を受けさせられた。審査者の意見にも納得できない部分が多い。しかし、審査した結果の点数に関しては仕方ないのかも知れないが、それならパラリンピックに参加する全員が審査を受けるべきではないのか。しかも、非常に海外経験の長いメンバー(主に#7 伊藤のこと)も再審査の進行状況の影響で今日出られなくなったのは腑に落ちない。できるだけ出られるように、日本選手団と協議しながら進めていきたい。」

- アテネに来てからこういうことになって、「時間がない」ことが一番苦しかったのでは
「(過去数年の代表合宿などで)今まで積み上げてきたものが、こういう形(直前の持ち点変更)でパラリンピックの本番で発揮するチャンスを奪われてしまったことが、とにかく悔しくてならない」

- 今日のイギリス戦では、特にディフェンス面で苦しかったと思うが
「組んだことの無いラインでのコミュニケーションが難しかった。また、ボールマンに対するカバーが遅れたというのはある。
それもこれも全て、これまでやってきた練習の成果を発揮する機会が与えられなかったからだ。我々はメダルゲームに絡んでいける練習をしてきたから、そこで作り上げたラインでさえゲームができたのなら、絶対にこんな結果、試合内容にはならないはずだ。
そんな中でも、今日の試合ではプレッシャーをかけられた状態でも得点できたし、機転の効いたいいプレーもいくつも出た。明日につながるだろう。」

- #11 仲里と #9 田村が、今日出られなかった #7 伊藤と #15 川村のジャージを着てゲームに出たい、と言ってきたことを聞いたときは
「本当にうれしかった。我々も、番号をいろんなところに書き込んで、一緒に戦う、という意志を持って臨んだが、結果は残念だった。しかし、彼ら二人(#7伊藤・#15川村)も、力を貸してくれてくれていたと思う。」

- 次に向けて
「5位から8位の間になってしまうが、5位を取るための戦いをする。持ち点のことでいろいろあったが、とにかく、我々にできることは、コートの上で全力を尽くして戦うことだけなのだから。明日は絶対勝つ。」

福井の言葉を聞いて、涙が出た。パラリンピックに出るチームを引っ張るキャプテンとして、本当にすばらしい人だな、と思った。

苦しい思いは、いつか報いられるはずだ。まず、ここアテネで、一つ勝つことだ。

力を出し尽くす。このことに尽きる。

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