2022年8月13日(現地時間)、デンマークのHerning(へルニング)にあるSutteri Ask Stadiumで、2022年馬術世界選手権のパラ馬術団体戦2日目が行われ、団体メダルが決定した。7位までの国は、2024パリパラリンピックの出場権も与えられる。
今回は前回大会より4か国多い18の国と地域 (スペイン、日本、ポーランド、カナダ、スウェーデン、オーストラリア、ノルウェー、オーストリア、ブラジル、アイルランド、フランス、イタリア、ドイツ、ベルギー、イギリス、アメリカ、デンマーク、オランダ)が団体戦に参加している。
グレードⅢ、地元デンマークの2人馬が高得点
このグレード、優勝争いをするオランダ、イギリス、デンマーク、ベルギー、ドイツ、アメリカ、それぞれの国から代表が出場。
2番手に登場したのは地元デンマークのKarla Dyhm-Junge&Miss Daisy(牝/12歳/DWB)。途中の停止、後退でやや減点があったものの全体的には安定した演技で73.294%を記録。デンマークチーム2人馬目として上々の成績を残した。
続いて9番手にアメリカのRebecca Hart&El Corona Texel(セン/13歳/KWPN)が登場。アメリカチームのアンカー、団体成績を少しでも上げるスコアを目指す。調子が上昇中のこのコンビ、最初の演技項目から7点以上の好評価。常歩項目で数か所6.5点がつくも最後の停止は2審判が9点をつける完成度。74.706%の高得点でグレードII、Beatrice De Lavalette&Sixth Senseの73.235%を上回り、アメリカの団体成績を1%以上伸ばした。
12番手には日本の最終演者、稲葉将&Exclusive(セン/13歳/KWPN)が登場。惜しくも途中のターンオンザホンチス(後肢旋回)で乱れて5審判から4点がつくも、全般的には6.5点から7点がつく上々の演技。最終的には61.294%を記録した。
この時点で日本の全人馬の演技が終了。宮路選手のスコア(53.294%)がドロップスコアとなり、団体成績190.492%で、前回の2018年トライオン世界選手権時の団体成績189.324%を上回る記録を残した。
稲葉 将
「世界選手権自体は2回目、前回は自分が馬に乗り始めてすぐであり、本当に何もわからない中での参加でした。その後去年の東京パラと、いろんな経験をさせてもらいました。代表選考の時から良いスコアが出ない中、この舞台に立て大舞台を経験でき、そして他の選手や他の競技を見られ、更に馬場馬術の選手から応援を頂いたりと、本当にこの場に来られて良かったです。今回の内容を振り返り、もう一回イチからしっかりとやっていきたいと思っています」
その後14番手に登場したのはイギリスのNatasha Baker&Keystone Dawn Chorus(牝/11歳/ハノーバー)。イギリスのメダルの可能性をかけて演技を開始。前半は最初の2項目で6.5点がつくなど伸び悩むが、その後常歩のセクションで8点がつく演技を見せ2倍係数の4湾曲ではM審が8.5点をつける上々の演技。最終成績は73.676%で最後のグレードV、Sophie Wellsコンビにメダルの望みをつないだ。
16番手には、デンマークこのグレード2人馬目でエースのTobias Thorning Jorgensen & Jolene Hill(牝/14歳/ダッチウォームブラッド)が登場。個人競技金メダルコンビらしく、中盤の常歩箇所で9点が複数つく演技。最後の総合観察では2審判が9点をつけるなど、成長を見せ、最終成績79.265%を記録し、デンマークチームのスコアに貢献した。
最終演者は個人競技7位、オランダのLotte Krijnsen&Rosenstolz(牝/16歳/オルデンブルグ)。最初の入場こそ4点から6.5点まで評価がばらつくも、その後は安定して7点以上の評価が続く演技。最終的には71.412%を記録し、オランダチームに貢献した。
経路図 https://jrad.jp/wp/wp-content/uploads/2022/04/Ind_3.pdf
グレードⅢ フリースタイル進出人馬
Tobias Thorning Joergensen & Jolene Hill(デンマーク)
Rebecca HartEl & Corona Texel(アメリカ)
Natasha Baker&Keystone Dawn Chorus(イギリス)
Karla Dyhm-Junge&Miss Daisy(デンマーク)
Lotte Krijnsen&Rosenstolz(オランダ)
Emma Booth&Furst Deluxe(オーストラリア)
Roberta Sheffield & Fairuza(カナダ)
Chiara Zenati & Swing Royal IFCE (フランス)
https://results.hippodata.de/2022/2124/docs/r_pd_qualification_for_freestyle_grade_iii.pdf
グレードⅢリプレイ https://www.youtube.com/watch?v=odcePIkhcZs
グレードV、トップスコアはベルギー。団体戦はオランダが連覇達成
団体戦最終競技はグレードV。上位の国のうちオランダ、デンマーク、イギリス、ベルギー、ドイツが最後に1人馬このグレードに残しており、まだまだ順位はわからない。アメリカはすでに4人馬の演技が終わり、225.335%を記録。メダル圏内に入るか、緊張しながら結果を待つ。
2番手に登場したのは地元デンマークのNicole Johnsen & Moromax (牡/13歳/TAF)。メダル圏内に残るため、チームメイトKarla Dyhm-Jungeコンビの73.294%以上を目指す。途中常歩ピルエットで1審判が5.5点をつける評価もあったが、全般的には7点を超える採点が多い演技。最終成績は73.310%で、わずかに団体スコアを伸ばした。この時点でデンマークはアメリカを上回る合計229.751%。息をのみながら残りの演者の結果を待つ。
Nicole Johnsen (DEN)
「チームの一員でいられることがとても嬉しいです。今日は個人戦の演技よりもよい演技ができたので、良かったと思います。私はチームの最終演者でしたが、先に演技した仲間が高得点を収めていたので安心してスタートできました。今日は楽しめました。馬もよく自分から従順に前に進んでくれました。自国で大きな歓声を浴びながら演技できたことは、なんだか夢のようです」
続いて4番手に登場したのはベルギーのKevin van Ham&Eros Van Ons Heem(セン/13歳/KWPN)。最初の停止から8点がつく演技をしたが、途中移行やピルエットで惜しい減点。71.881%を記録し、チームメイトのBarbara MInecciコンビの69.176%を上回る。ベルギーチームの最終成績は残るMichèle Georgeコンビに望みを残した。
5番手に登場したのはオランダのエース、Frank Hosmar&Alphaville N.O.P.(セン/17歳/KWPN)。すべての項目で7点以上を獲得し、75.786%の高得点を挙げた。これによりオランダのメダル獲得は決定、何色になるか期待しつつ後続の人馬の演技を見守る。
9番手に登場したのは個人競技銀メダリスト、イギリスのSophie Wells&Don Cara M(セン/13歳/NRPS)。チーム内の最高成績76.190%を収めたが団体成績ではアメリカにわずかおよばなかった。
11番手に登場したのは個人競技金メダリスト、ベルギーのMichèle George&Best of 8(牝/12歳/ハノーバー)。銅メダルに届くかというこの日のトップスコア、78.405%の高得点を挙げたが団体成績はわずかにアメリカ、イギリスに届かなかった。
6人馬を残し、この時点でメダルが確定。優勝は前回の世界大会に続き、オランダ。銀メダルは開催国デンマーク。銅メダルは接戦の末、アメリカが獲得した。約2%の差で4位はイギリス、約0.2%の僅差で5位はベルギーだった。
Frank Hosmar (NED)
「とても楽しかったです。途中もう少し押したいと思ったところもありましたが、減点になるのはよくないからダメダメ! と思い直しました」
Joyce van-Rooijen-Heuitink(オランダチームトレーナ/コーチ)
(スコアが発表されて歓喜の声をあげたことについて)「人生、こんなに大声で叫んだことはないと思います。厩舎でもきっと私の声が聞こえていたでしょう。何とも言えない気持ちです。2人馬はまだ経験が浅く、選手権でどのような結果が出せるかは未知数でした。SanneとFrankは期待通りでしたが、他の2人馬もよくやってくれました」
Anette Bruun(デンマークチーム監督)
「ほっとした気持ちです。ライダーたちは輝いていました。こんなに素晴らしいイベントで銀メダル獲得、最高の気持ちです。すごく接戦だったので金メダルの可能性もありましたが、それは次回にお預けです」
Kate Shoemaker(グレードⅣ、アメリカ)
「まるで雲の上にいるような気持ちです。東京に連れて行った馬とはだいぶ違う馬でこの大会に挑みました。目標はメダルではなく、パリの出場権獲得と来年の成長に向けた競技にしようということでした。でもこの結果は、アメリカのパラ馬術は正しい方向に向かっているという証拠だと思います。この若いチームで銅メダルを獲得するというのは素晴らしい気持ちです。届きそうで届かないものに向かって努力してつかんだ時、それはまたしっかりその瞬間を覚えておきたい、そんな気持ちになります」
Michel Assouline(アメリカチーム監督)
「初日から素晴らしい結果でした。トップの馬ではない馬を連れてきたのですが、この馬たちでパリの出場資格を取ることが狙いでした。一生懸命頑張ってきた結果、期待以上のものを得ることができました。ライダーのうち数名はまだコンビを組んで日が浅い馬に騎乗しましたが、期待以上の結果をだしてくれました」
団体戦の結果、上位7チーム(オランダ、デンマーク、アメリカ、イギリス、ベルギー、ドイツ、イタリア)が2024年パリパラリンピック出場権を獲得した。
日本は、2022年1月1日から2024年6月19日までの間にCPEDI3*以上の国際大会の団体戦または個人戦で64%以上の成績を収めることによってパリを目指す。今回の世界選手権で出場した4人馬はすべてこの条件をクリアしている。あとは2023年1月1日から12月31日までの間によい成績を収め続け、アジア地区トップの団体に選ばれてパリに団体出場する権利を獲得することを目指す。また団体の選考を逃した場合、アジア地区個人ランク3位までに入れば個人の出場資格が与えられる。
パラ馬術日本代表 監督 三木則夫
「今大会に4選手が団体を組んで参加することができましたが、決して満足のいく結果ではありませんでした。東京2020大会に向けて、JRA(日本中央競馬会)と日本馬術連盟のサポートをいただくようになり、パラ馬術の強化活動は飛躍的に向上しました。4年前のトライオン大会は、クオリファイ(出場最低基準の獲得)がやっとで、何とか団体を組むことができ、出場できたことを喜んでいました。しかし、今回は選考を勝ち抜いた選手を派遣し、より良い成績を目標に参加しました。今回出場した4選手はいずれも日本に拠点を置いており、国際大会に向けてヨーロッパでトレーニングと競技参加経験を積む中で、本場の技術や知識を吸収し、国際大会の雰囲気にも徐々に慣れてきています。東京パラリンピックをはさんだこの4年間で、日本選手は間違いなく成長したのですが、世界が前進するスピードも早く、その壁を感じる大会でした。
世界のトップ選手は70%台後半のスコアを出しており、自ら馬を調教しています。対して日本の選手は、今はまだヨーロッパの良質な馬に乗って、馬から教えてもらっている状況です。この先、日本が強くなるためには、次のステップに進むことが重要だと考えています。パラスポーツの特徴として、障害の程度や内容が個々に異なり、それは本人にしかわからないため、自分自身に適した乗り方、扶助の出し方、体の使い方を工夫し、確立していかなければならない難しさがあります。今大会では世界中の多くの選手の演技を見ることで、日本の選手が自分の乗り方を探るヒントを得られたことを期待しています。
日本のパラ馬術は発展途上です。競技力向上はもちろんのこと、国内での認知も重要です。これからも皆様のご理解、ご協力、そして応援をどうぞよろしくお願いいたします」
出場権獲得方法について、詳しくはこちら。
https://www.paralympic.org/sites/default/files/2022-07/Paris%202024%20qualification%20regulations%20July%202022.pdf
グレードV フリースタイル進出人馬
Michèle George&Best of 8(ベルギー)
Sophie Wells&Don Cara M(イギリス)
Frank Hosmar&Alphaville N.O.P.(オランダ)
Regine Mispelcamp&Highlander’s Delight’s(ドイツ)
Nicole Johnsen&Moromax(デンマーク)
Kevin Van Ham&Eros Van Ons Heem(ベルギー)
Lena Malmström&Fabulous Fidelie(スウェーデン)
Stine Skillebekk & Calique V(ノルウェー)
https://results.hippodata.de/2022/2124/docs/r_pd_qualification_for_freestyle_grade_v.pdf
グレードVリプレイ https://www.youtube.com/watch?v=tPEB0KjMRr0
グレードV経路図 https://jrad.jp/wp/wp-content/uploads/2022/04/Ind_5.pdf
競技結果
https://www.longinestiming.com/equestrian/2022/ecco-fei-world-championships-herning/resultlist_P2-V.html
(取材協力:一般社団法人 日本障がい者乗馬協会、JEF、画像提供:FEI、Herning World Equestrian Games Media Center Team、Sharon Vandeput、Jon Stroud Media 編集・校正:望月芳子、佐々木延江)