関連カテゴリ: アンプティサッカー, サッカー, リモート取材, 中東, 切断者, 国際大会, 新着, 観戦レポート — 公開: 2022年10月10日 at 11:20 PM — 更新: 2022年10月20日 at 12:32 AM

アンプティサッカーワールドカップ WAFF World Cup 2022 開催国トルコの優勝で閉幕。日本は11位、今大会の経験を次回の糧に

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アンプティサッカーワールドカップは10月9日に決勝戦が行われ開催国トルコがアンゴラを破り優勝、日本は11位に終わった。ノックアウトステージでの日本戦全4試合を詳しく観戦レポートした。

目次

2022年9月30日から10月9日に、世界アンプティサッカー連盟(WAFF)が主催するWAFF WORLD CUP 2022(アンプティサッカーワールドカップ2022トルコ大会)がトルコ共和国イスタンブールで開かれ、24か国が参加した。決勝戦は地元トルコとアンゴラで争われ、トルコが4−1で勝利。スタジアムに駆けつけた3万人のトルコサポーターを歓喜の輪に包んだ。
日本代表は、グループステージを3戦全勝、Bグループ1位でノックアウトステージに進出したものの、ラウンド16でタンザニアに敗れ、9−16位順位決定トーナメントへ。アメリカに勝利したものの、イングランドに敗北、最終戦のコロンビアには勝利し日本の最終順位は11位となった。

ラウンド16 タンザニアに1−3で敗北

ベスト8進出をかけたノックアウトステージ ラウンド16 タンザニア戦の先発は以下の通り、DF2:MF3:FW1のフォーメーションで臨んだ。
DF右 萱島比呂(5番/FC九州バイラオール)
DF左 川西健太 (3番/関西 Sete Estrelas)
MF右 エンヒッキ松茂良ジアス (10番/FC ALVORADA)
MF中央 松崎佑亮 (13番/TSA FC)
MF左 秋葉 海人 (9番/FC ALVORADA)
FW 金子慶也 (8番/AC Milan BBee千葉)
GK 上野浩太郎(1番/関西 Sete Estrelas)

カウンターからの秋葉の攻めやFKなどで度々シュートを狙うも決められずにいた日本。近藤碧 (7番/関西 Sete Estrelas)や後藤 大輝 (11番/ガネーシャ静岡AFC)の選手交代を行うなど攻めの姿勢を見せた。

萱島ジャンプシュート
ロフストランドクラッチを使ってジャンプし豪快にボレーシュート萱島(5番) 写真提供・松本力/日本アンプティサッカー協会

しかし、前半20分にタンザニアSALUM RASHID BAKARI(21番)の直接FKがゴール左隅に決まり1点を先制されてしまう。攻守の激しい入れ替わりの中で前半26分にPKを日本が得る。これをエンヒッキ松茂良ジアスが慎重に決め、1−1の同点で前半を折り返す。後半も両チームの攻撃をお互いのGKがセーブして譲らず、試合は延長戦に突入した。
試合が動いたのは延長後半1分。タンザニアSHEDRACK HEBRON SEMBELE(18番)の右サイドからのキックインを、GK上野が上に弾きゴールマウスに吸い込まれ、タンザニアに2点目が入る。(アンプティサッカーではキックインからの直接ゴールは得点として認められない。)さらに延長後半8分、GK上野からエンヒッキ松茂良へのゴールキックをタンザニアALFAN ATHUMANI KIYANGA(10番)が猛然とカットし、角度のないところからシュート。ディフェンスに当たりオウンゴールで失点した。日本は1−3で負け、今大会の目標であったベスト8に届かず、9−16位順位決定トーナメントに回ることになった。

応援団に挨拶をする日本選手たち
敗戦の悔しさを胸に日本サポーターに挨拶をする選手たち 写真提供・松本力/日本アンプティサッカー協会

前鼻啓史監督は「ベスト8以上に日本代表チームを導くことができなかったという慚愧の念に堪えません。選手の若さや経験を補う方略や術数に決定的な欠落があったことは否めません。至上命題であったミッションを4年後に持ち越しにしてしまった且つ、選手・スタッフたちの努力を結果に結びつけさせることが出来なかったわたしの責任は非常に重たいものです。多くの声援に応える最上の姿勢は、結果を出すことに他なく、自信と自負を取り戻す唯一の手段に変わりありません。選手たちの底力を増幅し、より多くの方々に日本代表チームの強さと勇姿を届けていけるように全身全霊で取り組んで参ります」と語り、目標であったベスト8に届かなかった思いを抱えつつもポジティブに進んで行こうとする姿勢を示した。

9−16位順位決定トーナメント初戦 アメリカ に4−3で勝利

これまで出場したワールドカップ戦績最高位が10位の日本。今大会でそれ以上の9位になるにはもう一戦も負けられない9−16位順位決定トーナメント。初戦はアンプティサッカー発祥国であるアメリカとの試合、日本の先発は、タンザニア戦から2人入れ替え、近藤と後藤が入るグループステージメキシコ戦と同様の布陣、
DF 右・萱島比呂/左・川西健太
中盤 右・近藤碧/中央・エンヒッキ松茂良ジアス/左・秋葉海人
FW 後藤大輝
GK 上野浩太郎
が出場した。フォーメーションはDF2:MF3:FW1。
試合開始直後の前半1分、後藤のポストプレーの落としから、エンヒッキ松茂良がスルーパスを出し、秋葉がダイレクトで蹴りこみ、先制点が日本に入る。

秋葉シュート
シュートを決め喜ぶ秋葉(9番) 写真提供・松本力/日本アンプティサッカー協会

前半11分にはエンヒッキ松茂良が壁3枚の上を超え、ゴール右上に突き刺さる芸術的なFKで2点目。しかし、前半17分、アメリカJovan Booker(23番)のシュートをGK上野がいったん弾くが、走り込んできたNicolai Calabria(10番)にゴールを決められ、1点を奪われる。そしてここから勢いを取り戻したアメリカが攻めるが、前半21分、中央萱島からのパスをゴール右で待ち構えていた後藤がダイレクトでシュートして3点目。前半は日本が3−1とリードして終了した。

後藤シュート
後藤(11番)のシュート 写真提供・松本力/日本アンプティサッカー協会

GKを長野 哲也(15番/FC ALVORADA)に交代して後半開始。アメリカの攻撃が続く。
後半18分、アメリカCalabriaのパスをJason Evans(37番)が1トラップして強烈なシュートを放ち、GK長野は反応するも点を取られてしまう。そしてさらに後半26分、アメリカCalabriaの直接FKが金子に当たってサイドネットへ、3点目を許してしまう。このまま3−3で延長戦に突入した。
延長前半は、アメリカの優勢な時間が続くも日本が凌ぐ。延長後半1分、萱島のシュートをGKが弾いたこぼれ球をエンヒッキ松茂良がシュート、貴重な4点目が日本に入る。

ヒッキと抱き合って喜ぶ萱島
4点目を決めたエンヒッキ松茂良(10番)と抱き合って喜ぶ萱島(5番) 写真提供・松本力/日本アンプティサッカー協会

ここからは日本が押し気味に試合を進め、4−3で試合終了。日本は12位以上が確定した。

後藤は、「昨日自分たちの壁を越えられず悔しかった気持ちがまだ整理出来ていない人もいる中でもUSA戦でしたが、それはそれとして、しっかり延長戦でも勝ちきった。これは選手たちの成長だと思います」と素直な思いを語った。
前鼻啓史監督は「ベスト8進出をかけた試合で敗退した精神的なダメージを未だ払拭できていない中、同じ苦境下にあえぐアメリカ代表との試合は正に意地と意地のぶつかり合いでした。幾度も試合の主導権が入れ替わる中で試練に打ち克った記録的な試合として日本代表チームそのものの経験値の底上げにつながった貴重な試合でした。失策や失点に矛先の焦点が向きやすいものですが、重要なことはチャレンジの過程での失敗に臆してはいけないこと、失敗を糧に同じ過ちを繰り返さないことが進化を重ねていく上で重要な秘訣だと思います。強豪を相手に得点を量産できるチームへと変貌を遂げた事実を冷静に見つめて、次の目指すべき道を切り啓く必要があります」と語った。

9−16位順位決定トーナメント第2戦 イングランドに0−2で敗北

9位を目指す日本にとって負ける訳にはいかない次なる相手イングランド戦、日本の先発は、
DF 右・近藤碧/左・萱島比呂
中盤 右・金子慶也/中央・川西 健太/左・秋葉海人
FW 後藤大輝
GK 上野浩太郎
が出場した。フォーメーションはこれまで同様のDF2:MF3:FW1。
前半は、攻守入れ替わりが激しい時間が続き、お互いチャンスを作るものの点を取ることができなかった。

近藤ドリブル
ディフェンスをする近藤(7番) 写真提供・松本力/日本アンプティサッカー協会

前半23分、萱島のペナルティエリア内におけるハンドがイングランドにPKを与えてしまう。それをJamie Tregaskiss(10番)が強烈に決めて、イングランドに先制される。その直後の前半25分、秋葉がGKからファールを受け、日本にPKが与えられるも、キッカー萱島がゴール右に外し得点にはならなかった。前半アディショナルタイムに、萱島がGKへのファールでこの試合2枚目のイエローカードをもらいレッドカードで退場となる。日本はここから一人少ない6人で戦うことになった。
後半序盤は日本に対してイングランドの攻勢が続く。後半7分にはなんとか同点に追いつくべくエンヒッキ松茂良が投入された。

ヒッキドリブル
後半から出場し攻撃するエンヒッキ松茂良(10番) 写真提供・松本力/日本アンプティサッカー協会

GK上野が守って何とか凌いでいたものの、後半16分。Tregaskissからのパスをゴール左でDavid Tweed(7番)がダイレクトで折り返し、Rhyce Ramsden(11番)が合わせてゴール、2点目が入る。ここから日本も反撃するが、後半19分にエンヒッキ松茂良からのパスを受けた近藤がシュートするもGK正面、後半25分にはエンヒッキ松茂良が直接FKを蹴るもディフェンダーに阻まれるなど、得点には至らなかった。試合は0−2で日本が敗れ、最終戦は11位決定戦となることが決まった。
前鼻啓史監督は、「イングランド戦はPKでの失点とともに人数的にもビハインドの状態となる中で、チームとしてできることが限られたゲームとなり、我慢を強いることを基調としながら機を見ては敏に力を発揮するという厳しい世界の舞台でまた一段タフになることを考えさせられた貴重なゲームだったと思います。苦しいことや試練が続いていくことがW杯の醍醐味です。国内では決して味わうことがないような屈辱感、敗北感、劣等感等に苛まれることもありますが、止まることや匙を投げ出すことは決して許されません。上手く落とし所を設けながらも進み続けることが求められます」とワールドカップで勝つこと、連戦することの難しさを語った。

11位決定戦 コロンビアに3−1で勝利

イングランドに敗れ、11位決定戦に臨むことになった日本。最終戦を勝利で終わりたい日本の相手はグループステージでも戦ったコロンビア。先発メンバーは、
DF右 高橋 良和(4番/FC ALVORADA)/左 細谷 通(6番/FC ALVORADA)
MF右 エンヒッキ松茂良ジアス/中央 遠藤好彦 (2番/FC ALVORADA)/左 秋葉海人
FW 後藤大輝
GK 長野哲也
とここ3戦と比較するとベテラン勢が多く出場する布陣となった。フォーメーションはこれまで同様のDF2:MF3:FW1。

最終戦先発メンバー
最終戦の先発メンバー 左から遠藤、秋葉、後藤、高橋、細谷、エンヒッキ松茂良、長野 写真提供・松本力/日本アンプティサッカー協会

前半4分、秋葉が左サイドをドリブルで進みクロスを入れ、後藤がダイレクトでシュート。GKの股を抜き先制点。前半20分、エンヒッキ松茂良の直接FK。GKがセーブしたこぼれ球を秋葉がシュートするも決まらず。逆に前半23分、コロンビアJosé Suárez(7番)のキックインのボールにGK長野が触れてしまい失点(アンプティサッカーではキックインからの直接ゴールは認められていない)、1−1の同点に。直後の25分、日本は絶好の位置でFKのチャンスを得ると、エンヒッキ松茂良が、壁を越えゴール右隅に吸い込まれるシュートを決めた。嫌な流れを断ち切る素晴らしいゴールで日本が2-1と勝ち越した。

ヒッキドルブル
日本の攻撃を支え鼓舞し続けたエンヒッキ松茂良(10番) 写真提供・松本力/日本アンプティサッカー協会

後半6分には、エンヒッキ松茂良が右CK、GKが弾いたボールに反応した秋葉がグラウンダーのシュートで左隅にゴール。試合の行方を決定付けた3点目が入る。この後、コロンビアの攻撃が続くも、若手とベテランをミックスしたメンバー交代など積極的なベンチワークも冴え、3−1で日本が勝利した。これで今大会の日本は11位が確定した。

全試合戦い終わった後の日本選手団
全試合戦い終わった後の日本選手団 写真提供・松本力/日本アンプティサッカー協会

遠藤キャプテンは「前日のイングランド戦では、勝負の世界は何が起こるかわからないとは言え、不運が重なり、敗戦しました。その悪い流れを断ち切る為、最終戦を前に、選手全員で話し合い、各々ができる事に取り組み、チーム一丸で臨みました。予選で戦ったコロンビアも「同じ相手に2度は負けたくはない」という強い気持ちで臨んで来ましたが、相手の良い所を抑え、勝ち切ることが出来ました。毎戦、多くの方に観戦して頂き、エネルギーをたくさんもらいました。本当にありがとうございました」と語った。

遠藤キャプテン
最終戦でキャプテンマークつけた遠藤キャプテン(2番) 写真提供・松本力/日本アンプティサッカー協会

前鼻啓史監督は「W杯の最終戦となったコロンビア代表との一戦ですが、試合前からコロンビア代表チームも最終戦を何としても勝利で飾ろうと意気込む姿勢が強く、難しい試合になることを想定し我々も準備に取り掛かりました。勝敗の明暗こそ別れてしまったものも最後まで戦い抜いた両チームの選手たちに心から敬意を表します。様々な葛藤と向き合いながら戦いきった日本代表の選手たちを心の底から誇らしく思います」とコロンビア戦を分析した。さらに「今大会は11位の成績で大会を終えることとなりました。前回のメキシコW杯2018大会よりも競技成績が「ランクダウン」となったことについて重く受け止めています。この事実について取り繕うような言及は致しません。「良い試合をしても結果が伴わなければ見向きもされない」ということが現実のものとなってしまい忸怩たる思いでいっぱいです。多くの批判やご指摘に背を向けることはなく、次のエネルギーへと変えていけるよう努めてまいります」と総括した。

最低でもベスト8の目標を掲げていた日本が、前回2018年メキシコ大会より1つ順位を下げ11位で終えた。しかし、プロリーグを持つ強豪トルコで開催された大会で、初参加の若手と日本を牽引してきたベテランによるチームジャパンが世界に挑んで得た経験は何事にも変え難い。これから各地域のアンプティサッカーに大きな影響を与え、さらに、次回ワールドカップでの成長につながっていくことだろう。

また今回、全80試合がYouTubeでライブ配信されたことについて、前鼻監督も「本大会は日本代表戦のみならず多くの試合を皆様にご観戦いただくことができました。”障がい者サッカー”という枠を完全に凌駕したアンプティサッカーの世界をさらに拡張していける」と日本戦への応援だけに留まらないアンプティサッカーの魅力を伝えることができたと感じたようだ。トルコのアンプティサッカーには、障害者サッカーの枠を超えた多くの熱い声援があった。戦う切断者が繰り広げるポジティブで挑戦的な魅力のあるスポーツであることをあらためて証明した大会だったといえるのではないだろうか。

日本の試合結果
グループステージ vsドイツ3−0 vsコロンビア3−1 vsメキシコ2−0
ノックアウトステージ ラウンド16 vsタンザニア1−3
9−16位順位決定戦初戦 vsアメリカ4−3
9−16位順位決定戦第2戦 vsイングランド0−2
11位決定戦 vsコロンビア3−1 

最終順位(ノックアウトステージ進出国) 
優勝 トルコ 
準優勝 アンゴラ 
3位 ウズベキスタン 
4位 ハイチ 
5位 モロッコ 
6位 ブラジル 
7位 タンザニア
8位 イタリア 
9位 イングランド 
10位 アルゼンチン 
11位 日本
12位 コロンビア 
13位 ポーランド 
14位 イラン 
15位 アメリカ 
16位 メキシコ 

ワールドカップ戦績
2010年 アルゼンチンワールドカップ 15位
2012年 ロシアワールドカップ 12位
2014年 メキシコワールドカップ 11位
2018年 メキシコワールドカップ 10位
2022年 トルコワールドカップ 11位

(写真提供:日本アンプティサッカー協会 編集:中村和彦、佐々木延江)

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