関連カテゴリ: IBSA, IBSA Birmingham2023, イギリス, サッカー, ブラインドサッカー, ブラインドスポーツ, ロービジョンフットサル — 公開: 2023年8月10日 at 8:03 AM — 更新: 2023年8月20日 at 3:23 PM

「ボールは見失っても相手のマークは外さない」 世界選手権へ挑むロービジョンフットサル日本代表

知り・知らせるポイントを100文字で

見えにくい、弱視のプレーヤーによるロービジョンフットサル世界選手権が8月13~22日、イギリス・ウォルバーハンプトンで開催され、日本代表は「切り替え0秒」を合言葉に世界に挑む。

「めちゃくちゃ鶏のように首、振ってました?」
8月6日、世界選手権前の最終練習が終わった後、ロービジョン(弱視)フットサル日本代表チームキャプテンでピヴォの岡晃貴(オカ)の言葉だ。
通常のサッカー、フットサルでも周囲の状況を把握するため選手たちが左右に首を振るのは見慣れた光景だが、網膜色素変性症で視野狭窄の岡は、左右のみならず上下に首を振り、狭い視野にボールを捉える必要がある
鶏のようだとは思わないが、ドリブルの際は足元のボール、進む方向と盛んに上下に首を振り進んでいく。

腰を落とし ボールを視野に収める岡晃貴(オカ・大会での背番号は8番) 写真・松本力

しかしプレーのなかで、いくら首を振って状況把握しようとしてもボールを見失ってしまうことも少なくない。同じく視野狭窄でチーム最年長41歳の辻一幸(カズ)も同様だ。そんな時は周囲の選手が『声』で教えてくれる。マイボールなのか相手ボールなのか、ボールはどの位置にあるのか。ピッチを12分割してナンバリングし、ボールの位置、あるいはパスを出す位置等を数字で伝えることもある。
マークすべき相手を見失いそうになった時、見失ってしまった時は、ピッチ上の唯一の晴眼者GKゴレイロの加渡主悟(じゅお)や細谷篤史(ほそ)が相手の位置を伝えてくれる。

練習試合中 ボールを凝視 味方選手を相手選手と誤認しボールを奪いにいく辻一幸(カズ・背番号12)相手選手のストッキングが同じ色だったことも関係していると思われる 写真・松本力

逆に視野の中心が白く濁って見えず、全体にも白い靄がかかっているように見えるレーベル症の岩田朋之(とも)、中澤朋希(ざわ)、竹内雄亮(ゆうすけ)のような選手たちもいる。彼らは顔を上下あるいは左右にずらし、見るべきものを視野に収めプレーする。ドリブルの際は前方を見て進めば周辺視野でボールを見ることができる。

ボールやマークすべき相手を見失った時、逆サイドのプレーが見えていない時は、周囲の選手や、比較的『見える』フィクソの赤崎蛍(けい)や大平英一郎(えいちゃん)、晴眼者GKの『声』が頼りになる。とはいえ赤崎も中央はみづらく、大平も全体がぼやけており背番号の見分けはつかず選手のフォルムや走り方でどの選手かを判断している。
『声』を出す側のGK加渡、細谷は、選手たちの見え方の違いを理解し、最適な声掛けを意識している。

竹内雄亮(ゆうすけ・背番号3)視野の中心が見えづらい(中心暗転)  写真・松本力
レーベル症 竹内選手の見え方  竹内選手提供
発症以前 サッカーのセンターバックだった中澤朋希(ざわ・背番号2)は 1対1の守備には絶対の自信を持っている 写真・松本力

ロービジョンフットサル(Partially sighted football)は、そんな見え方、見えにくさが様々な選手たちが、『声』で密なコミュニケーションを取って補完し合い、ゴールを目指すスポーツだ。アイマスクを装着してプレーするブラインドサッカー(全盲から光を感じられるB1クラス)と異なり、残された『見る力』を最大限活かしてプレーする。
「矯正後の診断で視力0.03まで、ないし視野5度まで」のB2クラスの選手が最低2名以上出場しなければならず、現在B2と想定されているのは岩田、中澤、竹内、篠瀬翔平(しの)、羽生健太朗(けんちゃん)。B3クラスは「矯正後の診断で視力0.1まで、ないし視野20度まで」の選手たち、岡、辻、赤崎、大平、角谷佳祐(かどちゃん)である。

通常のフットサルとルールが異なるのは、GKがペナルティエリアから出てはならない、GKからのボールがノーバウンドでハーフウェイラインを超えてはならないという2点のみである。GKの2人は飛び出せない、ロングボールを蹴れない投げられないことに、当初ストレスを感じたという。GKが飛び出してフィールドプレーヤーの裏のケアをすることができないため、『声』でフィクソの選手などへ、背後、裏の状況を伝えて守ってもらう必要がある。

GKゴレイロの加渡主悟(じゅお・背番号1) 見えにくい選手たちへの声かけと、自らのプレーへの集中の両立に試行錯誤を重ねてきた  写真・松本力
GKゴレイロの細谷篤史(ほそ・背番号13)自分が声を出し全員で守る、そして攻めることに競技の魅力を感じている  写真・松本力

現ロービジョンフットサル日本代表は、8月13~22日イギリス中部の都市ウォルバーハンプトンで開催される世界選手権2023に向けて、金川武司監督(フウガドールすみだでキャプテンとしてプレー、TOPチームのコーチ及び下部組織の監督を歴任)の元、2年に及ぶ練習を積み重ねてきた。

選手たちに指示を出す金川武司監督 写真・松本力

チームの合言葉は『切り替え0秒』。
フットサルにおいて極めて重要な攻から守、守から攻への切り替えを速くするためには、
「事が起きてから何かをやるのではなく、予測」が必要だと考えた金川監督は選手たちに、「試合のなかで予期せぬ状況がおきないよう」試合で起こりうる状況を事細かく選手たちに植え付けてきた。その際、晴眼者のサッカー、フットサルでは有効な作戦ボードは役に立たず、人を立たせて手をあげてもらって「敵が今ここにいます。状況はこうです」と少しずつ、選手たちの引き出しを増やしてきた。

比較的見やすいペットボトルを選手に見立てて戦術を確認する監督と選手たち 写真・松本力

「ボールをもらう前の体の向きをよりよくしていくことにより、見えやすくする」「それぞれの選手の見え方を把握し、見え方の凸凹をパズルにはめ込むような作業」もしてきた。
例えば赤崎はフィクソへとポジションを移し、声を出す側としての意識も高まっており、ピヴォへの縦パスも選手の『見え方』によって蹴り分けている。
これまで全ての国際大会に出場してきた角谷は「フットサル感が強くなってきた。」と新チームの成果を感じている。
大平も「(以前は)パスすらつながらなかった。それを考えるとゴールまで目指す形も作れているし、レベルは上がっていると思う。世界のレベルにやっと近づけた。戦えるくらいにはなったという実感はある」と語った。

赤崎蛍(けい・背番号10) 前回大会では6試合で7得点をあげた 写真・松本力
全ての国際大会に出場している角谷佳祐(かどちゃん・背番号7) 練習でも盛んに周囲の選手たちに声をかけていた 写真・松本力
大平英一郎(えいちゃん・背番号6)フィクソがメインポジションだが金川監督体制では前目のポジションもこなす 写真・松本力

ロービジョンフットサル日本代表は、2011年1月に初の合宿が行われ同年4月の国際大会に初出場、世界選手権ヘは2013、2017、2019年大会に出場、その他も合わせて計6度の世界大会に出場、28試合を戦ってきた。だが勝利したのは2015年IBSAワールドゲームズの韓国戦、2019年アンダルシア国際フットボール大会でのスペイン戦のみである。

今大会グループリーグで対戦する世界ランキング1位のウクライナとの歴代対戦は、2013年0-22、2015年0-8、2019年0-5、0-6。同じく対戦する世界ランキング4位のトルコは2011年0-9、2017年2-9、2019年3-5。
徐々に差は詰まってきているが、前回2019年大会ではトルコ戦では先制するも3-5と逆転負けを喫してしまった。当時キャプテンだった岩田は、集中力のなさ、勝っているなかでのゲームコントロールが課題だと感じていた。
そのゲームコントロールも、普段からゲームの時間帯や点差を想定することにより、試合の流れを掴めるよう練習を積み重ねてきた。

相手選手の存在を手で意識する岩田朋之(とも・背番号9) 前キャプテンとしてもチームを引っ張ってきた 写真・松本力

現キャプテンの岡は、前回大会(2019年)では選手の意識の低さも感じていた。
実際、中澤は「自分のために頑張っていた」だけだったが、その後、「自分のことを知りロービジョンフットサルを始めた子どもたちも増えた」ことから、「プレー以外の面でも引っ張っていこう」という気持ちが芽生えた。
赤澤は「日の丸を背負うという心構えができていなかった。責任をもって臨みたい」
というように気持ちの面での高まりも感じられた。

この数年でそれなりに見えていた右目も視力0.02まで落ちた、世界選手権初出場で最年少22歳の羽生健太朗は「ボールを見失ってしまうことはあるんですけど、前にいる選手に付いて相手のマークは外さない」つもりだ。

羽生健太朗(けんちゃん・背番号4)視力矯正ではなく眼球保護のためゴーグルを付けてプレー 写真・松本力
篠瀬翔平(しの・背番号11) 前回大会では初ゴールを奪った 写真・松本力

戦術、セットプレー等の動画のアップロードも献身的に担ってきた岡は、8月6日、世界選手権前の最終練習が終わった後に語った。
「やりきった。あとは試合でこれまでやってきたことをやるだけ」

「IBSA ブラインドサッカー・ロービジョンフットサル世界選手権 2023」参加国、試合日程は以下。

ロービジョンフットサル世界選手権出場国は7か国。*( )内は世界ランキング
グループA
イタリア(5)、スペイン(6)、イングランド(2)、フランス(-)
グループB
ウクライナ(1)、トルコ(4)、日本(7)
2位以上で準決勝進出

試合日程(時間はいずれも日本時間)
8/16(水)22:45 ウクライナ vs 日本 (グループ B)
8/19(土)22:45 日本 vs トルコ   (グループ B)
8/21(月)
20:00 順位決定トーナメント① 日本がグループB3位の場合 vsグループA4位
22:45 準決勝①   
25:30 準決勝②
8/22(火)
20:00 順位決定トーナメント② 日本がグループ B3位の場合 vsグループA3位
23:00 3位決定戦
26:30 決勝戦

「IBSA ブラインドサッカー・ロービジョンフットサル世界選手権 2023」配信アカウントで全試合配信。
IBSA 公式 YouTube チャンネル:https://youtube.com/@internationalblindsportsfe7490
*日本戦はJBFA公式YouTubeチャンネルにて、日本語実況付きでも配信される。
https://youtube.com/@JapanBlindFootballAssociation

尚、ブラインドサッカー協会では、ロービジョンフットサル日本代表、男子ブラインドサッカー日本代表、女子ブラインドサッカー日本代表の3カテゴリーが出場する世界選手権へ向けて、クラウドファンディングを行っている。
https://bit.ly/3XQAgbO

(写真協力・松本力 校正・佐々木延江、地主光太郎、そうとめよしえ)

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