関連カテゴリ: ボッチャ, 国内大会, 夏季競技, 新着, 日本選手権, 東京, 観戦レポート, 重度障害 — 公開: 2024年1月22日 at 6:28 PM — 更新: 2024年2月15日 at 9:38 AM

ボッチャ日本選手権BC3は有田正行、一戸彩音が優勝 パリパラ出場への挑戦権を得る

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パリパラリンピック出場選手選考も兼ねたボッチャ日本選手権が開催され、遠藤裕美(BC1)、廣瀬隆(BC2)、杉村英孝(BC2)が出場内定。BC3クラスで優勝した一戸彩音、そして有田正行はパリパラ出場への挑戦権を得た。

今夏開催のパリパラリンピック日本代表選手選考会も兼ねた第25回日本ボッチャ選手権大会が、1月19日(金)から21日(日)までの3日間、東京都墨田区総合体育館で開催された。
既に⽇本が出場枠を獲得しているBC1/2チーム戦の代表選手として、BC1クラス女子で優勝した遠藤裕美(福島県ボッチャ協会)、BC2クラス男子優勝の廣瀬隆喜(西尾レントオール)、準優勝の杉村英孝(伊豆介護センター)の3人が、パリパラリンピックに出場することが内定した。

BC1/2チーム戦の代表選手として、パリパラリンピック出場が内定した杉村英孝(左)、遠藤裕美(中央)、廣瀬隆喜(右) 筆者撮影

遠藤裕美は藤井友里子(アイザック)との対戦となった決勝第2エンドで得意のロングにジャックボールを置き一挙に5ポイントを獲得、8-2で勝利し優勝。初のパラリンピック出場を決めた。

BC1クラス女子で優勝した遠藤裕美。右は準優勝の藤井友里子 筆者撮影

廣瀬と杉村の対戦となったBC2男子決勝も「ロング」が勝負を分けた。第3エンド廣瀬がエンドラインぎりぎりロングの位置にジャックボールを投げ場内を沸かせる。廣瀬は3投目をピタリと寄せ、場内はさらに歓声に包まれる。このエンドで4ポイントを加点した廣瀬が6-1と杉村に勝利、日本選手権4連覇を飾った。

BC2クラス男子で4連覇を果たした廣瀬隆喜 筆者撮影

現時点でペアの出場枠を獲得できていないBC3クラスは、男子が有田正行(電通デジタル)が、女子は一戸彩音(ポルテ多摩)が優勝し、パラリンピック出場枠をかけた国際大会へチャレンジする権利を得た。

12月開催のHong Kong 2023 Asia-Oceania Regional Championshipで銀メダルを獲得した高校生選手一戸彩音(ポルテ多摩)は、予選リーグ第2戦で敗退の危機に瀕したが、最終エンド最終投球でジャックボールにピタリと寄せる起死回生のアプローチショットでタイブレークに持ち込んで勝利。香港の大会同様、土壇場での強さを見せ準決勝に進出すると、準決勝では6-0、決勝は4-1と勝ち切り優勝、BC3クラス女子2連覇となった。

予選リーグ、土壇場でタイブレークに持ち込み、ガッツポーズの一戸彩音 筆者撮影

一方のBC3クラス男子は若手の台頭が目覚ましかった。
日本選手権は2回目の出場だが「100%優勝するつもりで来ました」という鵜川健介(サウスフィールドクルー)が、東京パラリンピック銀メダリストで前回大会優勝の高橋和樹(フォーバル)を予選リーグで3-1と破って準決勝に進出した。高橋との対戦が決まってから、「高橋さんのジャックボールの位置や、やってきそうな場所を練習」してきたのだという。
高橋祥太(わかば隊)も東京パラ銀メダリスト河本圭亮(トランコム)に、予選リーグで3-1と勝利し準決勝へ進んだ。
ベスト4は、鵜川健介、高橋祥太、黒木幸雄(日本福祉大学)の若手3名と、7年前に電動車椅子サッカーからボッチャへ競技転向した有田正行の顔ぶれとなった。

準決勝で対戦する有田正行(右)と黒木幸雄(左) 筆者撮影

有田は予選リーグ5-0、9-1と危なげなく勝ち上がると、準決勝では黒木幸雄と対戦した。
「凄い頭のいい選手なので1点ずつのゲーム。実力も差はなかったのでしんどい試合でした」と振り返った試合は、第1第2エンドと有田が着実に1ポイントずつ加点、黒木も第3エンドに1ポイントを返し2-1で迎えた最終エンド、黒木がロングを仕掛けてきた。
黒木の1投目がややずれたのに対し、有田は1投目をピタリと寄せる。その後黒木が5投目までてこずり、有田は4投目で自球をプッシュしジャックボールにピタリと寄せる。最後は黒木がプッシュしきれず、有田は2球を残し1点を追加、3-1で勝利し決勝へと進出した。

もう一つの準決勝は高橋祥太が鵜川健介を5-1と下し、高橋が決勝へ進んだ。
鵜川健介と黒木幸雄の対戦となった3位決定戦は、鵜川が第1エンド「相手が投げ切った時点で3点取ろうと考えて、思い通りにいった」と振り返るように、4,5,6投目で次々に自球をジャックボールに寄せて3点のリードを奪い、勢いづいた鵜川が7-2で勝ち切り3位となった。

3位決定戦で最終スコアを確認する3位の鵜川健介(左)と4位の黒木幸雄(右) 筆者撮影

決勝は、有田正行と高橋祥太の対戦。
第1エンド、高橋が6投目でジャックボールにピタリと寄せると、有田も6投目でしっかりと寄せ、1-1とポイントを分け合った。

ランプ越しに狙いを定める高橋祥太 筆者撮影

第2エンド、有田は投球直前にリリースポイントを変えるなど距離の調整に苦しむ場面も見られた。
「体育館の温度が上がっていたみたいで、アップコートでの距離が5~60cmは短くなっていたかな。ちょっと苦労しました」と有田はいう。
しかし6投目では自球をプッシュし寄せて2ポイントを加点し、3-1とリードを奪う。
第3エンドではさらに1ポイントを追加、4-1と差を広げる。

決勝。有田正行の指示でランプを操作する有田千穂 筆者撮影

逆転を狙う高橋は最終エンド、ややロング目にジャックボールを置くが、有田は冷静に対処、相手の球をヒットし弾き出してはピタリと寄せ、3投目も高橋の球に軽く当ててジャックボールにうまく寄せるショット。その後、高橋が投げ切ると、有田は3球を残して5-1と勝利、2大会ぶりの優勝を飾った。

優勝後は、妻でランプオペレーターの千穂と電動車椅子サッカー選手の頃からの習慣であるグータッチをかわす。SMA(脊髄性筋萎縮症)の有田にハイタッチは不可能だ。

優勝が決まり、グータッチを交わす有田正行と有田千穂 筆者撮影

「最後までわからない展開でしたけど、ボールや距離感、今回いろんなものに自信があったので全く負ける気がしませんでした」と有田は言う。
その自信は、千穂との共同作業で培われたものだ。
千穂は「今回の大会に関してはものすごくたくさん2人で会話を積み重ねてきました。ボールの研究も共通認識として、このボールをこういうふうにしよう。それが決勝のなかで発揮できたかな。ボールの成果が出たことはすごくうれしく思います」と語る。
ボールの軸や距離を何度も何度も確認するために、練習では2万歩は歩いたという。
有田も「細かいことでもプレーのことでも、共有して、しっかりと準備をして臨めた。オペレーターとのコンビネーションというか、そういうことも含めてすべてが優勝につながった」と優勝の味を嚙み締めた。

大会前日に行われた公式練習で、入念にボールの軸や床面等をチェックする有田千穂と有田正行 筆者撮影

細かいところまで追求し、負けず嫌いで、アスリートとしての資質を持っている有田正行、凄く伸びている一戸彩音と、ボッチャ日本代表『火ノ玉ジャパン』の井上伸監督が評する2人、そしてランプオペレータの妻・有田千穂、父・一戸賢司でBC3ペアのパリパラリンピック出場権獲得を目指すことになる。

<各クラスの優勝者>
BC1女子 遠藤裕美(福島県ボッチャ協会)
BC1男子 中村拓海(大阪発達総合療育センター)
BC2女子 蛯沢文子(NTTコムウェア)
BC2男子 廣瀬隆喜(西尾レントオール)
BC3女子 一戸彩音(ポルテ多摩)
BC3男子 有田正行(電通デジタル)
BC4女子 岩井まゆみ(あいちボッチャ協会)
BC4男子 内田峻介(大阪体育大学アダプテッド・スポーツ部 APES)

投球動作に入るBC4男子クラスで優勝した内田峻介 筆者撮影

(校正・佐々木延江)

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