横浜山下公園を舞台に5月11日、ワールドトライアスロンパラシリーズ2024横浜が開催され、定刻の早朝6時50分にスタートした。12回目となるこのパラトライアスロンのレースは、今夏にパリで開催されるパラリンピックに向けた予選のレースというにふさわしい一戦となった。ヨーロッパ勢が東京さえも通過点とした長い時間をかけて育成・強化され、格段にレベルが上がった様子が見受けられた。
女子PTS2は、ヘイリー ダンズ(USA)が優勝、日本の秦由加子が3位!
アメリカ勢もまた、敵が強ければ強いほど、より強くなるという結束した姿勢を見せてくれた。女子PTS2では、ヘイリー・ダンズ(USA)がスイムを11:49のトップタイムで終え、バイクは2位、ランは1位でトータル1:13:24のタイムで優勝した。
日本の秦由加子(キヤノンマーケティングジャパン・マーズフラッグ・ブリヂストン/千葉)は、手術後の回復が良い形に向かい今シーズンの好調ぶりを示し3位。いいコンディションでレースを堪能した。
この日の山下公園の天候は快晴で、気温は20.9度、水温は19.5度という申し分のない気候条件の下、レースが行われた。立位・座位・視覚障害のある22カ国から80名(男子42名・女子38名)の選手が、障害の種類と程度により男・女6クラスずつに別れ出場した。
女子PTVI(視覚障害)は、フランチェスカ・タランテッロが、女王スザナ・ロドリゲスを破り優勝!
女子では、PTVIクラスのフランチェスカ・タランテッロ(ITA)が、スイム、バイク、ランの全ステージを制しチャンピオンのスザナ・ロドリゲス(ESP)を破って優勝した。これによりフランチェスカはシーズンのレースで2勝を達成した。
フランチェスカはトライアスロンを始めて3シーズン目、それ以前は競泳の経験がある。世界選手権で過去4回金メダルの女王スザナ・ロドリゲスは、パリに向けて現れたライバルとの戦いの苦味を噛み締めた。
クリス・ハマー(PTS5-M)、デイブ・エリス(PTVI-M)が同タイムで優勝! 日本の佐藤は8位からパリを目指す
男子のクリス・ハマー(PTS5)とデイブ・エリス(PTVI)がトータル56:25の同タイムで、男・女パラトライアスロン全クラスで最も速かった。
男子PTS5クラスでは、スイム・スタートでトム・ウィリアムソン(IRL)が先頭に立ち、その後、クリス・ハマー(USA)がランでトップになり最終的にフィニッシュテープを切った。若い選手がひしめくこのクラスでは、ステファン・ダニエル(CAN)が5秒差で2位に入った。T2まではダニエルがリードしていたが「ランが伸びず、ランでクリスに逆転された」と話していた。
冬季パラリンピック・クロスカントリースキーの日本代表でもある佐藤圭一は8位。二刀流は厳しくはないか?との質問に「厳しいかどうかより、日本からも夏も冬もいけるスター選手が生まれたらと願っている、仲間を増やしたい」と話していた。
男子PTVI(視覚障害)
男子PTVIは、最多のクラス9名が出場し、トップのデイブ・エリス(GER)が2位以下を1分以上離してフィニッシュした。日本の米岡聡(三井住友海上/東京)とガイドの阿部有希は、59:51(7位)と昨年より1分以上タイム縮めることができた。
セーヌ川で魅せる壮大なドラマの主役、アレクシ・アンカンカン
公式戦24連勝のアレクシ・アンカンカン(FRA)、「競争の中で勝ち続けることが重要なんだ。東京で得た金メダルをパリでも再び獲得する」と、自国開催となるパラリンピックへの意気込みを、英語は苦手と言いながらも日本人記者たちに伝えるため、英語で語ってくれた。
フランス国民からメダルへのプレッシャーを感じるか?と質問すると、「パラリンピックの魅力が理解されておらず、期待されるほどポピュラーではない」と冷静に分析する。「だからこそ、パリの大会を通じてこのスポーツを見れば、パラリンピック、トライアスロンが好きになるだろう」と、思いを語っていた。
座位PTWC、男子はスキパーが完封。木村はトラブルで7位「僕の日じゃなかった」
男子PTWCクラスは高速レースを展開した。57分38秒で優勝したヘールト・スキパー(NED)は「完璧なレースを実現した」と語っていた。2位のフローリアン・ブルングラバー(AUT)とスイム、バイクは拮抗していたがランで引き離し、フィニッシュでは1分以上離した。
日本の木村潤平(Challenge Active Foundation/東京)は、レース前に「今回の横浜はどのクラスも世界選手権メンバーが集まっている。横浜で表彰台に上がる選手が、間違いなくパリの表彰台に一番近い選手だ」と話し、狙っていたレースだったが、スイムでアクシデントがおき7位に終わった。「ウエットスーツが剥がれてしまって抵抗のあるまま泳いでいた。こんなトラブルめったにない。”僕の日”じゃなかった」と悔しい気持ちを語った。
女子PTWCでは、4位までが激しい競い合いを展開したが、最終的にバイクでタイムを縮めたローレン・パーカーH1が2位以下を1分半離してフィニッシュ。2位〜4位は僅差だった。
ロシア、ウクライナ、イスラエルのアスリートが出場
3月に、IOCはウクライナへ侵攻したロシア、ベラルーシなどの選手へも個人の資格での出場を認めた。「異なる政治的意見を持つことは許される」とし、オリンピック憲章の原則に従い全ての選手への競技参加の権利を守る姿勢を示した。今大会では、アンナ・プロトニコワ (AIN/RUS)が個人資格で出場し、ビタ・オレクシウク(UKR)、そして、ガザへの侵攻を続けるイスラエルからアタリア・ネボ(ISR)も出場した。
ビタ・オレクシウク B1(UKR)は、PTVIで7位だった。キエフにとどまり、週6回の練習をこなして参加してきた。
「今日のレースは、スイム、バイクは悪くなかったがランがともかく悪かった」と自己分析していた。ロシアの参加については、「ロシア選手が参加することは世界にとってよくない」と答えた。キエフでの練習は、警報とロケットに怯えて大変危険で思った通りの練習ができないと語ったが、やはり外の世界にでて活動するダイナミズムがトライアスロンの魅力だと語っていた。
女子PTS4、谷真海が復帰
女子PTS4は、ケリー・エルムリンガー(USA)が1:10:52のタイムで優勝。東京大会出場後、競技から離れていた谷真海(東京都トライアスロン連合)は今シーズンから復帰、1:15:03で5位でフィニッシュした。
今年パリ大会があることと、PTS4のクラスが復活し、選手が増加したことなどが理由だ。「もう一度中に入って頑張りたいと思った」と笑顔で話した。1月から、北京2008オリンピック日本代表・庭田清美氏をコーチに心強い支援を手に入れ練習を始めていた。
9月1日、2日に行われるパリパラリンピック・トライアスロンに向けて、ヨーロッパ勢、そこでの表彰台を目指す国々の意気込みが感じられる横浜での大会だった。タイムでは立位・座位・視覚障害の各クラスで個々の強みや技術を活かしてぶつかり合い、どのクラスにも優勝の可能性があると思わせる競争の魅力がある。パリパラリンピックへの予選の終盤と言うにふさわしいレースで、すべての選手にとって有意義なものとなったことは間違いない。
(取材編集協力・校正=地主光太郎、木下未希 写真=秋冨哲生、山下元気)