Tokyo 2020, イベント, インタビュー, 卓球 — 2020年12月26日 at 8:28 PM

自ら大会を主催。舞台裏で人々の思いに触れた26歳の、2021年への決意~パラ卓球・岩渕幸洋

岩渕選手
2020年11月23日 IWABUCHI OPEN 写真・山下元気

11月23日、東京パラリンピックに内定しているパラ卓球日本代表・岩渕幸洋(協和キリン/クラス9)が自ら主催したイベント「IWABUCHI OPEN」が東京・練馬の中村南スポーツ交流センターで行われた。

自らも含め、新型コロナウイルス感染拡大の影響で試合の機会が奪われているパラ卓球選手たち。”真剣勝負”の場所を作り、パラ卓球の魅力を多くの人に知ってもらいたいという思いで開催。NECの協賛のほか、自らクラウドファンディングのページも立ち上げて資金を募った。

イベントには岩渕のほか、齊藤元希(東京国際大学/クラス4)、中本亨(ドマーニ卓球クラブ/クラス5)、垣田斉明(熊本八代市役所/クラス10)のほか、健常の卓球トップ選手の松平賢二(協和キリン)、吉村真晴(愛知ダイハツ/選手兼任/パラ卓球アンバサダー)が登場。
松平は車いすに乗って、吉村は左腕を固定してパラ選手とのエキシビジョンマッチを行うと、その難しさに叫び声を上げる場面もあった。
また、齊藤と中本、岩渕と垣田による5セットマッチの真剣勝負も行われた。両試合フルセットにもつれ込む接戦となり、観客も息をのんで観戦した。

車いすで齊藤元希(東京国際大学/クラス4)とのエキシビジョンマッチに臨んだ松平賢二(協和キリン) 写真・山下元気
車いすで齊藤元希(東京国際大学/クラス4)とのエキシビジョンマッチに臨んだ松平賢二(協和キリン) 写真・山下元気

イベント後の囲みで松平は、「選手が自分でイベントを開催する心意気や行動力を、僕自身も見習わないといけない。日本卓球リーグで選手会の代表として試行錯誤しているので、参考にしたい。また、岩渕選手とも一緒にいろんなアイデアで卓球全体を盛り上げていきたい」とコメント。オリ・パラの垣根を超えて、岩渕の思いがたくさんの心を動かしたようだ。

大会を取材した岩渕に、今回のイベントの手ごたえや今後に向けた思いをインタビューした。

本番の空気を楽しんでもらうため。オリ・パラの垣根を超えた真剣勝負

垣田斉明と岩渕の対戦
垣田斉明(熊本八代市役所/クラス10)との真剣勝負に挑んだ岩渕。息をのむ接戦に、雄たけびが見られた 写真・山下元気

ーーイベントは大盛況に終わりましたね。
岩渕:最初は手弁当で行う予定だったものが、NECさんに協賛していただいたり、クラウドファンディングでたくさんの方に支援していただいて、本当に感謝しています。選手の真剣勝負を多くの方に見ていただきたかったので、実現できて嬉しいです。

――確かにパラ選手同士の試合は2試合ともフルセットマッチ。見ている方も手に汗握りました。
岩渕:今までのイベントだと、例えば1セットだけというようなエキシビジョンになりがちですよね。それもワイワイできて楽しいんですけど、緊張感のある試合も見てもらいかったんですよ。健常のトップ選手である松平さんや吉村さんに試合前にしっかり解説をしてもらいながら、試合中はちょっと解説を抑えめにしてもらって皆さんに試合に集中してもらう、というバランスも共有できたので、イメージ通りに近いイベントになったのではないかと思っています。

ーー岩渕選手は垣田選手と戦い、フルセットのデュースに持ち込んで勝利しました。振り返っていかがですか。
岩渕:イベントの進行のことも考えながら試合に臨んだので、最初はちょっと緊張してしまいましたね。入りがよくなかったし垣田選手もすごく仕上がっていたので、ペースに乗せてしまいました。でも、ラケットの裏面(表ソフトラバー)をフォアにしてのレシーブなど、練習してきたことが勝負所で生かせたので、試合を通して成長できたと思っています。

ーー岩渕選手の地元・練馬で出来たことも大きいですよね。
岩渕:コロナ禍以前もパラ卓球の国内大会は年間2つくらいで、しかも関西での大会なので、地元で見てもらえる機会は本当に貴重でしたね。今後は地元に限らず、いろんなところでこういった形のイベントを開催したいですし、今回のようにライブ配信も同時に行うことで、卓球の魅力を広めていける可能性を感じています。

人のつながりと、継続的な発信。自ら大会を立ち上げた理由

関係者や来場者に感謝を述べる岩渕 写真・山下元気

ーー今回の構想はどのようにして立ちあがったのでしょうか。
岩渕:2年前に、同じこの体育館で立位の選手の有志で大会を行ったことがきっかけです。次は車いすの選手にも協力してもらって、多くの人に見てもらいたいという思いを当時から持っていましたね。

ーーNECが共催になった経緯を教えてください。
岩渕:NEC所属の上原大祐さん(パラアイスホッケー日本代表)に相談したことがきっかけですね。東京パラリンピックがゴールじゃなくてスタートだという僕の思いに共感していただいて、NECさんとしての協力をいただけることになったんです。

ーー「IWABUCHI OPEN」という名前もすごくキャッチ―です。このアイデアは?
岩渕:上原さんですね。「ぶっちゃん(上原から呼ばれているあだ名)の名前つけたらいいんじゃない?」みたいな感じで決まったんですけど(笑)、みなさんに覚えてもらいやすかったのでよかったです。

ーーNECの協賛がありながら、クラウドファンディングでも自ら支援を募ったのはどうしてですか。
岩渕:全てをおんぶに抱っこではなく、自分でもできることはしようと思ったからです。たくさんの人に支えていただくことで人のつながりができますし、クラウドファンディングの返礼にパラ卓球体験や講演会を入れることで、継続的に発信ができるんじゃないかと考えました。

舞台裏で感じた人々の思い。「金メダル以上」に改めて込める決意


インタビューに応じた岩渕 写真・山下元気

ーーこれまでたくさんのイベントに”出る側”でしたが、自ら作ってみていかがでしたか。
岩渕:1つのイベントを作ることが、こんなに大変なんだということを感じました。東京パラリンピックの開催に向けて、不安な世論や意見も耳にします。ただ、イベントの開催を信じて準備をしてくださる人や、開催を信じて待ってくださる人がいることも改めて感じました。そういった皆さんの為に、僕自身が信じてやらないといけないということを、開催する立場になって考えさせられましたね。

ーー岩渕選手は、いつも「金メダル以上」を公言していますよね。
岩渕「金メダル以上」というのは、金メダルを取るだけでなく、競技の注目度が高まり、パラスポーツの魅力が広く認知されることが目標だという意味でいつも言っています。今回のイベントは、その「以上」の部分のきっかけになったと思っています。「IWABUCHI OPEN」は今回の1回きりで終わるのではなく、継続して裾野を広げていきたいですね。

ーー2020年ももう終わりです。どんな1年でしたか。
岩渕:忙しい時になるかなと思ったら、想定外の1年になりましたね。東京パラリンピックで一世一代の試合をする年のはずだったんですけど、このイベントが最初で最後の国内の試合になったことが不思議な感覚でもあります。

ーー2021年はどんな年にしたいですか。
岩渕:人生で一番忙しい年にしたいですね。東京パラリンピックで金メダルを取って、世界中にパラ卓球の存在をとどろかせたい。そして、金メダリストとして紅白歌合戦の審査員席に座りたいな……「紅組も白組もどっちも素晴らしいですね」ってコメントをするのがひそかに夢です(笑)

吉村真晴(愛知ダイハツ/選手/パラ卓球アンバサダー)とのエキシビジョンマッチ 写真・山下元気
齊藤元希と対戦した中本亨(ドマーニ卓球クラブ・クラス5) 写真・山下元気
写真 注目の大学生・齊藤元希。”いやらしい”プレーで松平賢二を苦しめた 写真・山下元気
インタビューの風景 写真・山下元気

(校正・佐々木延江 写真・山下元気)

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