関連カテゴリ: イベント, 夏季競技, 新着, 普及, 東京, 東京パラムーブメント, 馬術 — 公開: 2024年2月18日 at 12:29 AM — 更新: 2024年2月20日 at 9:21 PM

パラ馬術~第6回ホースメッセTokyo2024で普及活動~

知り・知らせるポイントを100文字で

2月10日~12日、JRA馬事公苑で開催された第6回ホースメッセTokyo2024で、東京パラリンピック出場のグレードⅡ、稲葉 将によるトークショー「パリパラリンピックに向けた取り組み」(主催:一般社団法人 日本障がい者馬術協会、以下JRAD)が行われた。

2月11日、第6回ホースメッセTokyo2024でトークショーを行うグレードⅡ、稲葉 将 撮影:秋冨哲生

 2月10日~12日、JRA馬事公苑で開催された第6回ホースメッセTokyo2024で、東京パラリンピック出場のグレードⅡ、稲葉 将によるトークショー「パリパラリンピックに向けた取り組み」(主催:一般社団法人 日本障がい者乗馬協会、以下JRAD)が行われた。

パラ馬術の基本について解説

 馬術競技は大きく分けて、馬場馬術、障害馬術、クロスカントリーなどを含む総合馬術の3つがあるが、パラ馬術は馬場馬術競技のみ。一般の馬場馬術と基本的なルールは変わらず、決められた経路(コース)をどれだけ馬と一緒に正確にきれいに回れるかを競う採点競技だ。
 パラ馬術の特徴のひとつは、各選手の障害を補う道具が使用されていること。手綱を口でくわえたり、長い鞭を脚の代わりに使用したり、と手足の不自由な部分を補うために適切だと事前審査により公式に認められたものが、競技会で使用可能となる。
 先天性の脳性麻痺で両下肢に麻痺がある稲葉の場合、足で馬に指示を出す代わりに鞭を使用しており、鐙のつま先にカップをつけ、踵もはずれないように固定している。
 鞭を1本使用するか、2本使用するかの本数や、鞭の長さは馬によって変えているが、初めて乗る馬など、やりすぎてしまうと馬が驚いてしまうこともあるので、反応を見ながら調整していく。
 そのほか、片手で馬を操る選手であれば、手綱をバーにまとめて片手で持てるようにするなど、選手それぞれが自分の障害に合わせて工夫している。

 稲葉が競技を続けてきて大変だったことは、試合で緊張するとそれが馬にも伝わり、馬も緊張してしまってなかなか練習通りにいかないことだ。練習でも、パートナーが生き物なので思い通りにならないこともある。でも、だからこそ、試合でいい演技ができた時や、いいスコアがもらえた時は、「一緒にやってきてよかった」と達成感が大きいという。

パリパラリンピックに向けて

 パラ馬術日本選手団は、パリパラリンピックの出場枠を獲得するため、アジアエリアで団体1位、個人で3位以内になることを目指して、昨年はいくつもの国際大会に出場した。その結果、FEI(国際馬術連盟)からの正式通達は3月だが、選手たちのカウントでは個人出場枠を獲得できる可能性が高い。具体的にどの人馬が日本代表になるかは、今年の成績も加味し、国内選考を経て7月上旬に発表される。
「急遽、2月17日(土)からカタールのドーハの大会に出場させていただくことが決まりました。その後は未定ですが、選考期間内にできるだけ多くの試合に出て、緊張感に慣れていきたいと思います」

 海外の試合でともに出場する馬は、JRADがオランダで借りているリース馬で、稲葉は昨年6月から乗っている。試合の少し前に現地入りして練習し、日本にいる間は別の馬で練習している。
 日本で毎日乗っている馬だと、「こういう場合は、こうなる」と稲葉と馬との間で約束事ができてくるが、接する時間が限られた馬だとそれが難しい。
「それでも、なるべく早い段階で僕の指示の仕方を馬に納得してもらえるよう、気持ちよく運動してもらえるように心がけています」
 そのためにはひたすら練習が必要だが、よくない指示を馬が覚えてしまわないように、正しい指示を短時間ではっきり伝えるのが大事だという。

 パラ馬術は障害が重い順にグレードⅠ~Ⅴまでのクラスがあるが、稲葉は昨年12月の大会のクラシフィケーションでグレードⅢからグレードⅡに替わった。運動としては、いずれも常歩(なみあし)と速歩(はやあし)で変わらないが、グレードⅡは常歩から速歩、速歩から常歩の移行がより多く、その正確性が評価される。
 グレードⅡの選手としてスタートを切ったばかりで、どんな演技をしたらいい点数に結びつくのか、まだ手探りの状態だ。ドーハの大会をはじめ、パリパラリンピックに向けて1つも無駄にできる試合はないので、次につながるきっかけになるようにしたいと考えている。
 代表に選ばれる自信を問われると、「あります」ときっぱり。
「東京パラリンピックは無観客でしたが、オリンピックやパラリンピックは普段馬術に興味のない方にも届けられるような大きなイベントだと思います。そこでいい点数を取るために、あと半年間頑張っていきたいと思いますし、実際に選ばれることができたら、また自己ベストに近い、それ以上の演技ができるように準備したいと思います」
 東京パラリンピックの大舞台で、70%超えと自己ベストを更新した稲葉。次回パリの代表に選ばれたら、どんなパフォーマンスを見せてくれるか楽しみだ。

熱心な聴衆を前に、パラ馬術のこと、パリパラリンピックへの意気込み、共生社会などについて語るグレードⅡの稲葉 将 撮影:秋冨哲生

パラスポーツの意義とダイバーシティ(多様性)

 稲葉は中学に入る直前にホースセラピーとして乗馬を始め、初めから競技選手を目指していたわけではない。東京パラリンピックの開催が決まったことなどがきっかけで、徐々にパラ馬術の世界に入っていった。競技を始めて一番よかったことは、目標ができたこと。そして、それをいろいろな人が支えてくれて頑張ることができている点だ。

 パラ馬術は、まだ多くの人に知られている競技ではない。だから、このトークショーのようなイベントや、トークショーを聴いた人々がSNSなどで発信し、「こんなスポーツがあって、こんな選手がいるよ」と情報を広めていくことが大切だ。
 そのため、稲葉は小学校や中学校でもよく講演をしている。自分の話がうっすら記憶に残り、あとから振り返って何かのきっかけになれば、と思うからだ。
 障害のある人は、たとえできることがあっても、周囲の人から「できない」と思われがち。しかし、「こんなことができるんだよ。あんなこともできるよ」ということを一緒に過ごしていく中でもっとわかっもらえれば、お互いに理解が深まり、より過ごしやすくなるのではないか、と言う。
「たとえば、階段よりはスロープの方が、障害者だけじゃなくて誰にとっても便利だろうと思います。だから、障害のあるなしではなくて、その人と接する中で、何か気づいたり、理解しあったりするのが共生社会につながっていくのではないかと思っています」

 同じ日の夕方には、インドアアリーナで「馬術競技を楽しく観る方法 ~馬場編~」と題した講習会があり、馬場馬術の選手、林伸伍と総合馬術の選手、佐藤賢希が馬場馬術の経路を踏みながら、審判の採点の仕方やコースを回る上でのポイントなどを解説。最後に稲葉も騎乗し、障害を感じさせずに馬を操る様子や、パラ馬術の採点の仕方は一般の馬場馬術とまったく同じであることを紹介した。
 まず知ってもらうこと、知ることの重要性を改めて感じた一日だった。

2月11日、第6回ホースメッセTokyo2024「馬術競技を楽しく観る方法 ~馬場編~」に登場したグレードⅡ、稲葉 将 撮影:秋冨哲生
グレードⅡ、稲葉 将「クラシフィケーションでグレードⅢからⅡに替わったことは、チャンスだと前向きに捉えている」 撮影:秋冨哲生

(校正:佐々木延江、田中綾子、撮影:秋冨哲生、取材協力:JRAD)

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