関連カテゴリ: IBSA世界選手権, Tokyo 2020, ブラインドサッカー, 夏季競技, 観戦レポート — 公開: 2014年11月22日 at 1:00 PM — 更新: 2021年9月6日 at 1:55 AM

勝敗のゆくえ中国に、日本はベスト4進出逃す 〜ブラインドサッカー世界選手権・準々決勝〜

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現在の守備力がその当時あれば、悲願のパラリンピック出場権を獲得することができたかもしれない。だがその守備力をもってしても、次なる壁を越えることは出来なかった。
11月16日より東京の国立代々木競技場フットサルコートで開催されている世界選手権大会で注目を集めている、ブラインドサッカー日本代表のことである。

中国選手と球際で争う黒田智成

2011年12月、震災の爪痕が大きく残る宮城県で開催されたロンドンパラリンピックのアジア予選。日本代表チームはイランを相手に前半終了時点で0-0、そのままのスコアで試合が終わればパラリンピック出場が決まる状況まで持ち込んだ。しかし後半の25分間に2失点、パラリンピック初出場の夢は断たれた。当時コーラーを務めていた魚住稿が翌年監督に就任、その時の悔しさをバネにチームのベースを堅守速攻に置き守備力強化を図ってきた。実際、今大会でその成果は遺憾なく発揮され、グループリーグ3試合の失点はわずか1、しかも流れの中からは一切得点を許さず、グループリーグの2位突破を決めた。

PK戦を前にして円陣を組む選手たち
PK戦を前にして円陣を組む選手たち

今大会ベースにしている基本システムは1-2-1。最後尾には不動のDF田中章仁が入り、2列目の中心は成長著しい加藤健人、そしてもう一人は日本のエース黒田智成。
ボールを奪うと切れ味鋭く巧みなドリブルで持ち上がりフィニッシュまで持ち込む。守備に重心を置く場合は屈強な佐々木ロベルト泉が黒田に代わって入る。トップには川村怜が入り、ドリブルでボールを運び相手ラインを下げさせる。キャプテン落合啓士もトップに入り魂を注入する。彼らフィールドプレーヤーの4人が強固なダイヤモンド型のブロックを作り相手選手の前に立ちはだかる。そして相手選手の動きに合わせ、(GKや監督の声を元に)ブロックごと左右上下に等間隔でスライドする。
視覚情報がないなかで相手との距離感や味方同士の距離感などを等間隔に保つことなど一朝一夕に会得できるものではないだろう。積み重ねてきた練習量と質を彷彿とさせる。こういった組織としての守備力アップはもちろんのこと、個々のレベルアップも目覚ましかった。
対戦相手と比較して非力に感じることも多かったGKも佐藤大介が大きく成長、フィールドプレーヤーとの連係も含めて頼もしい守護神へと変貌した。また若さを感じることも多かった加藤健人はチームの大黒柱となった。

PK戦で狙いを定める佐々木ロベルト泉
PK戦で狙いを定める佐々木ロベルト泉

そして迎えた準々決勝の対戦相手は、強豪中国。過去8度対戦し1度も勝ったことはない。先発はGK佐藤大介。フィールドプレーヤーはDF田中章仁、2列目に加藤健人と佐々木ロベルト泉。トップには川村怜が入る。グループリーグ3戦全てに先発し、初戦のパラグアイ戦で殊勲のドリブルシュートを決めた黒田智成はベンチスタート。日本は守備力の高い佐々木ロベルト泉を先発に起用し、先ずは守備重視でゲームに入っていった。
立ち上がり中国は、個人技に優れた背番号7の選手が一人でボールをキープし、ドリブルからシュートの機会を窺い、再三CKのチャンスを得る。日本は攻め込まれているように見えるが、プラン通りの試合展開、組織化された守備で得点を許さない。
そして前半の半分ほどが経過したところで、川村に代えエース黒田が投入され1トップに入る。グループリーグでは前線の川村、あるいは落合が前線の汗かき役として走り回り2列目の黒田がボールを奪ってカウンターという攻撃パターンが多くみられたが、この交代は守備に重心を置きつつ黒田の得点力に期待が込められた。しかしなかなか決定機を作ることができない。

後半に入ると日本は前半同様黒田をベンチに待機させ、勝負の機会を窺う。中国は攻撃力のある6番と7番の両選手を同時にピッチに送り込み、前がかりとなり日本陣内に攻め込んでくる。しかし日本は集中した守備で中国に得点を許さない。日本も後半9分再び黒田を投入し中国ゴールに迫るものの得点を奪うまでには至らない。両チーム得点のないまま時間が過ぎ試合はそのままPK戦へ。

PKを阻止するGK阿部尚哉

PK戦を見据え途中出場したGK阿部尚哉が見事なセーブで中国選手のPKを阻止したものの、サドンデスまで持ち越された勝負の行方は中国にもたらされた。その結果日本は目標としていたベスト4に進出することは出来なかった。

直近のアジアパラ競技大会(仁川)のリーグ戦でも、中国相手に引き分けに持ち込んでいることを考えると、決勝トーナメントでもある今大会ではもう一歩踏みこんで、もっと攻撃に重心をおいた、点を取りに行く勝負の時間帯があっても良いように思えた。しかし日本は終始守備に重心をおいた失点しないサッカーを続けた。魚住監督によれば「ピッチコンディションが悪く、ドリブルが足に着かずルーズボールとなる可能性が高いため」リスクを追って前がかりにする判断が出来なかったようだ。前日の雨の影響がかなり残っていたのだろうか。

点を取られなければロンドンパラリンピックに行くことができたアジア予選から3年。魚住ジャパンは、守備に重きをおいた試合では、強豪国からも点を取られないチームへと成長した。チームとして確実に1歩、進んだと言えるだろう。しかしながら「点を取らないと勝てない」のがサッカーだ。
そのためには今後、魚住監督が言うように「守備も攻撃も厚みを増していく」必要があるだろう。幸い今大会には順位決定戦があと2試合残されている。そこであと“半歩”進んだ日本代表チームを是非みてみたい。

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