マラソン, 取材者の視点, 車いすマラソン — 2018年11月8日 at 7:34 PM

坂道に耐える体力と戦略が、優勝への鍵。ニューヨークマラソン車いすの部で急成長する鈴木朋樹が6位。

by

11月4日に開催された米ニューヨークシティマラソンで、鈴木朋樹(トヨタ自動車)が男子車いすマラソンの部で6位の順位をつけた。若手ホープとして頭角を表す鈴木。ただ、今年のニューヨークマラソンは、悔しい6位になった。

この日は最高気温14℃の快晴で、マラソン日和。「風が強いと感じたけど、昨年より暖かくて良かった」と鈴木 (筆者撮影)

この日は最高気温14℃の快晴で、マラソン日和。「風が強いと感じたけど、昨年より暖かくて良かった」と鈴木。 (筆者撮影)

「ニューヨークは上り坂が多いコース。どうにかして先頭集団にいたいと思ったが、若手で一番早いダニエル・ロマンチューク(アメリカ)の仕掛けについて行けず、先頭集団から離れてしまった」。鈴木の口から悔しさがもれた。
ニューヨークシティマラソンは、スタテン島からマンハッタン島のセントラルパークまで、市内5つの橋を渡るハイレベルなコース。特に、スタート直後にやってくる最大高低差が約79メートルのべラザノ・ナローズ橋は、最初の難関だ。体力とともに、集団でのポジションどりなど戦略的要素が求められる。
「早い段階でダニエルが仕掛けて、それをマルセル・フグ(スイス)とデビッド・ウィアー(イギリス)が追い、5キロまでに3人の先頭集団になった。4位以下はそれに対応できなかったと思われる。橋の上りがきつく、実力差がはっきりと出るコース」。そうコメントを寄せてくれたのは、ロンドンパラリンピック5位(日本人2位)の花岡伸和さん。鈴木が初の日本代表経験となった2009アジアユースパラゲームズ東京に向けた強化から同じ競技の先輩として時に導いてきた。

鈴木は、第2集団でのレース展開を維持し、最終的に、アーロン・パイク(アメリカ)、クート・ファーンリー(オーストラリア)の3人が残った。「最後、体力を温存していたつもりだったが、上り坂で消耗していた。最後のスプリントで追い上げられず、結果6位だった」と悔しさを滲ませた。

順位を決める鍵となったのは、坂道でのレース展開。鈴木が課題としているのも、この部分だ。
「欧米のコースでは、上り坂が多いので、より意識しなくてはいけない。上るなかでも、場所によって速度を切り替える必要がある。ダニエル選手は、前半登っていたときの速度域と、後半で変化をつけていた。そうやって切り替えを早くして、集団を離していった」と分析。集団から抜けるためには、坂道に耐える持久力と、速度コントロールが必要になる。

下り坂での位置どりも重要だ。鈴木は「下り坂からのコーナーがあって、自分がびびってしまった。そうした場面では、第2集団で争っていたパイク選手、クート選手から離れてしまうこともあり、自分はコーナーが弱いと改めて自覚した」と振り返る。マラソンメジャーズに出場することで、コーナーやレース全体での位置どりを学んだという。

スイスでのワールドパラアスレティクスグランプリ大会でトラックを走る鈴木朋樹。今年6月3日撮影(花岡伸和氏提供)

スイスでのワールドパラアスレティクスグランプリ大会でトラックを走る鈴木朋樹。今年6月3日撮影(花岡氏より提供)

鈴木に期待されるのが、2020東京パラリンピックへの出場だ。鈴木はトラック陸上400〜1500M(T54)で勝負してきた。「あくまでメインはトラックレース」としながらも、「(マラソンの)準備はしていきたい。もし、マラソンでもメダルを取れる位置に行ければ、東京大会も出る方向で考えたい」と、マラソンでのパラリンピック出場の可能性を口にした。
そういう考えを持つきっかけは、国際大会への出場で海外選手と交流したこと。「海外の選手は、トラックもマラソンも、両方出場するのがごく普通。しかも、両方でメダルを取る選手がたくさんいる。世界を視野に入れるのであれば、マラソンも考えなければいけない」と海外選手からの刺激を語る。東京に向けては、「若い世代のレベルを上げていきたい。世界に追いついているだけではだめ。世界から一歩ぬけなければいけない」と未来を見据えた。

2週間後は大分へ

次のレースは、2週間後に迫る大分国際車椅子マラソン。車椅子単独のレースとして世界最高峰の格式をもつこの大会で、今大会に出場した選手の多くが大分へも挑戦する。昨年は天候で初めて中止という事態に見舞われたが、その前の2016年大会で鈴木は2位となりトップ参加を印象付けている。
また日本人上位3位は、来年のマラソンメジャーズへの派遣が決定する重要な大会でもある。鈴木は、「大分はフラットなコースなので、ニューヨークの戦略とはまた違う。山本選手、西田選手が強いと思う」としながらも、「位置どりの大切さなど今回のことを次に活かせる。あとはどれだけ先頭集団にいられるか、ラストのスプリントまで自分の体力を残せるか」と予想。
花岡さんは、「マルセル選手を中心にした展開になるのは間違いない。ただ、日本人争いにならず果敢にアタックして欲しい」と、海外選手との順位争いに期待を寄せる。数多くの海外でのレース経験を持つ日本の車いすマラソン。先人達の期待を力に、鈴木のさらなる成長を見守りたい。

今シーズン多くのレースに出場している鈴木。海外レースは「勉強になる。貴重な機会」と話す。(筆者撮影)

今シーズン多くのレースに出場している鈴木。海外レースは「勉強になる。貴重な機会」と話す。(筆者撮影)

(取材協力:レース分析・写真提供/花岡伸和、編集/佐々木延江)