「自分もいつか、世界の舞台へ」こどもスポーツ記者が見た、パラトライアスロン!

「おねーさん、記者の人?私の名前はね、小春っていうの!」

近づくとそう話しかけてきたのは、横浜市内の特別支援学校に通う、小学5年の黒野小春さん。

ポンツーンの前に設けられたキッズ取材エリア。黒野さんはその最前列という特等席だ

ポンツーンの前に設けられたキッズ取材エリア。黒野さんはその最前列でレースを目に焼き付けた

5月12日に開かれたITU世界パラトライアスロンシリーズ横浜大会。

近年、横浜トライアスロンでは、キッズプロジェクト「こどもスポーツ記者」として、パラトライアスロンを取材する子供を募集し、ニコンの一眼レフカメラを持って取材してもらうという取り組みが行われている。昨年からは障害のある子供たちも参加している。

この日は、障害のある子供5人を含む17人が集まった。その中でもひときわ明るく、よく話す黒野小春さんの姿が印象に残っている。

「小春はね、生まれつき歩けないの。取材してくれるの?なんでも話すよ!」と黒野さん。先天性の二分脊椎症という障害で、母が妊娠7か月の時に障害が判明した。普段から車いすでの生活を送っている。

黒野小春さん。”アナ雪”のデザインを車いすのタイヤに施すほどの大ファンだ

黒野小春さん。”アナ雪”のデザインを車いすのタイヤに施すほどの大ファンだ

テニスをする父の影響で、車いすテニスを楽しんでいる。スポーツ好きな家族で、自宅ではサッカーJリーグやバスケットボールBリーグを観戦しているが、障害のある選手のトライアスロン(=パラトライアスロン)、しかも世界大会を生で観るのは初めてのことだった。

撮影エリアから見える風景。後で会うことになる宇田秀生(PTS4)がレーススタート地点へ向かう 写真・山下元気

撮影エリアから見える風景。後で会うことになる宇田秀生(PTS4)がレーススタート地点へ向かう 写真・山下元気

パラトライアスロンは、レーススタートの朝が早い。こどもスポーツ記者は、6時半からのレースに合わせて取材エリアに入らなくてはいけない。競技はスイムから始まる。キッズ記者のために設けられた取材エリアは、スタート地点へ向かう選手を一番近くで見られる、特等席だ。

撮影エリアから見える風景。後で記者会見で質問することになる日本代表の円尾敦子とガイドがバイクで走る 写真・そうとめよしえ

撮影エリアから見える風景。後で記者会見で質問することになる日本代表の円尾敦子とガイドがバイクで走る 写真・そうとめよしえ

黒野さんが一番驚いたのが、バイクだった。想像よりもはるかなスピードで駆け抜ける。

沿道での撮影。表情は真剣そのもの

表情は真剣そのもの。「迫力があって、小春の想像と全然違う!」

母・真紀さんのサポートを受け、違う角度からの撮影も。

母・真紀さんのサポートを受け、違う角度からの撮影も。

さらにこの日、嬉しい場面があった。こども記者は、レースを終えた日本代表の宇田秀生(PTS4・滋賀県トライアスロン協会)にばったり遭遇することができたのだ。

子供たちが一斉に、「お疲れさまでした!」と、声をかけると、宇田選手は喜んで、一緒に記念写真を撮ってくれた。

「宇田選手はすごくイケメンで、小春のタイプだからいっぱい撮っちゃった」と大興奮。

「宇田選手はすごくイケメンで、小春のタイプだからいっぱい撮っちゃった」と大興奮。

この日、黒野さんがシャッターを切った回数は2700回にも及んだ。

午後にはこどもスポーツ記者のための記者会見が行われ、日本からは、車椅子男子の木村潤平(PTWC・社会福祉法人ひまわり福祉会)、視覚障害のある円尾敦子(PTVI・アルケア・グンゼスポーツ)、イギリスから立位のジョージ・ピースグッド(PTS5)の3人が出席。子どもたちは1人ずつ質問した。

左から木村(PTWC・社会福祉法人ひまわり福祉会)、円尾(PTVI・アルケア・グンゼスポーツ)、ピースグッド(PTS5・イギリス)

左から木村(PTWC・社会福祉法人ひまわり福祉会)、円尾(PTVI・アルケア・グンゼスポーツ)、ピースグッド(PTS5・イギリス)

黒野さんのメモ。4つの質問を用意していた。

黒野さんのメモ。4つの質問を用意していた。

黒野さんは4つの質問を用意していた。結局選んだのは、円尾選手への次の質問だった。

「トライアスロンをはじめたきっかけはなんですか?」

円尾敦子は、「マラソンをしていた弟が病気になってしまったので、一緒に走ろうということではじめました。もともと自分はそこまでスポーツが好きではなかったので、いろんなことができて楽しいトライアスロンに挑戦してみたんです」

質問に答える丸尾選手。「優しかった」と黒野さん。

質問に答える丸尾選手。「優しかった」と黒野さん。

自分とは違う障害の円尾選手「見えないのに、速く走れてすごい。ならば自分も!」と、世界で戦うパラアスリートに刺激を受けたようだ。黒野さんは自分の夢を次のように語ってくれた。

「テニスで世界の舞台に立ちたい。(車椅子テニス世界チャンピオンの)上地結衣ちゃんと対戦したい!」と。車いすテニスの4大大会で優勝を重ねる上地結衣は、自分と同じ二分脊椎症。同じ障害で、同じ競技ということもあり、黒野さんの目標になっている。

こども記者が取材した記事は、新聞となり、完成次第、市内の小学校に配られる予定になっている。

去年こどもスポーツ記者に参加した障害のある子供の中には、この経験がきっかけで、アクアスロンに挑戦した女の子もいたという。
スポーツは、子供が夢をもつきっかけになる。国内で行われる世界大会は、通用では会うことのできない選手をみる機会。目の当たりにできる大きなチャンス。こども記者だけでなく、多くの子供たちに触れてほしい。私たちメディアも、どんどん発信していかなければならないと強く感じた。

記者会見を終えて、「緊張した」と振り返る黒野さん。大きな夢が叶いますように。

記者会見を終えて、「緊張した」と振り返る黒野さん。大きな夢が叶いますように。

<参考>
世界トライアスロンシリーズ横浜大会組織委員会事務局ホームページ・キッズプロジェクト
https://yokohamatriathlon.jp/wts/kidsproject.html

(校正・佐々木延江)