関連カテゴリ: サッカー, ブラインドサッカー, ブラインドスポーツ, 取材者の視点, 国内大会, 夏季競技, 新着, 日本選手権, 東京, 観戦レポート — 公開: 2023年2月14日 at 11:19 PM — 更新: 2023年3月2日 at 10:33 AM

パペレシアル品川が初優勝。第20回アクサ ブレイブカップ ブラインドサッカー日本選手権全40試合が終幕

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ブラインドサッカーの日本選手権の決勝ラウンドが開催され、パペレシアル品川が初めて参加22チームの頂点に立った。予選ラウンドから2054名の観客が試合を観戦、コロナ前の第18回大会の1975名を上回る集客にもなった。

シャーレ、トロフィーを掲げて喜ぶ品川のメンバー 撮影:秋冨哲生

 2月11日(土)町田市立総合体育館(東京都)で第20回 アクサ ブレイブカップ ブラインドサッカー日本選手権 決勝ラウンドが開催され、908名の観客が集まった。決勝戦は、パペレシアル品川が川村怜のゴールでたまハッサーズを1−0で振り切り、設立4年で初の日本選手権優勝を成し遂げた。準優勝はたまハッサーズ。3位決定戦はfree bird mejirodaiの10番目のキッカーがPKを決めてコルジャ仙台ブラインドサッカークラブを下し3位となった。
 個人賞は、準決勝ラウンド以降の成績を元に、川村怜がMVPに、ベストゴールキーパー賞に藤原幸紀(パペレシアル品川)が選出された。得点王は3点を獲得した川村怜と、後藤将起(A-pfeile広島BFC)が獲得。チームのために献身的なプレーで貢献した選手に贈られる敢闘賞であるアクサジャパン賞は黒田智成(たまハッサーズ)に贈られた。

3位決定戦 free bird mejirodai vs コルジャ仙台ブラインドサッカークラブ

スコアレスでPK戦へ、10人目のキッカーでmejirodaiが制す
 
 スタメン全員が日本代表強化指定、ユーストレセンメンバーのmejirodaiに対して、仙台は、三人でしっかり守備を固め、ピヴォの齋藤陽翔が攻撃を担う。第1ピリオド開始早々にその齋藤がオープニングシュートを放つ。その後も齊藤は積極的にmejirodaiのボールホルダーにアタック、相手陣に押し返すシーンもあった。

攻め込む仙台 齋藤陽翔(背番号11)と止めようとするmejirodai 北郷宗太(背番号15)、鳥居健人(背番号11) 写真:秋冨哲生

 一方、GKから前線へのパスを起点に攻めるmejirodaiも、体育館のはねる床やいつもより走るボールに手こずりシュートまで持ち込めない。仙台はキーパー 佐々木智昭の効果的なコーチングで堅い守りに徹したのに対して、mejirodaiはアタッキングサードでサイドチェンジなども交えて攻撃に変化をつけるも結果につながらない。第1ピリオド10分に鳥居健人が入ると、シュート数は増えたがスコアレスで前半を終える。
 第2ピリオド開始から仙台は更に守りに重点を置き、mejirodaiもなかなか決定機を作れない。12分には鳥居がドリブルで抜け出しキーパーと1対1になるもシュートはしっかりヒットせず。結局、スコアレスで第2ピリオドも終わる。

 mejirodaiにとっては、準決勝に続くPK戦となった。ブラインドサッカーのPK戦は3人制で、3人で決着がつかない場合、4人目以降サドンデスで決着がつくまで続く。園部、鳥居、丹羽で決着がつかなければ、北郷、永盛が続く順番だ。滑る床でボールの設置を繰り返したり、なかなかボールが枠に飛ばなかったりしたが、 2巡目の最後のキッカー、永盛楓人が左アウトサイドで「得意なところを狙った」ボールがキーパーの逆を突き、ゴール。mejirodaiが長いPK戦に終止符を打った。

キッカーはmejirodai 永盛楓人(背番号5)、GKは仙台 佐々木智昭(背番号39) 撮影:秋冨哲生

 試合後、mejirodaiの山本夏幹監督は「人もボールも流動的に動いてゲームを優位に進めていくことが実践でき、お客様にブラインドサッカーの魅力を伝えられた」とポジティブだった。ただ、流れの中で得点ができなかったことについて、「フィニッシュが課題」と反省し、鳥居も「チームでつないで最後のところで決められなかったのが悔しい」とコメントした。mejirodaiにとっては消化不良な試合だったことが伺える。予選でスコアレスドローに終わったA-pfeile広島BFC戦と同様、引いて守備に専心する相手に対してどう戦っていくかは、mejirodaiにとって一つの課題だろう。

決勝戦 パペレシアル品川 vs たまハッサーズ

背番号5番同士の戦いも、2人目3人目が光った品川に軍配上がる。

 たまハッサーズにとっては6年ぶり5回目の優勝の、パペレシアル品川にとっては初優勝のチャンス。品川の川村や佐々木ロベルト泉は、前所属のAvanzareつくば時代に決勝で2度、たまと対戦している。パペレシアル品川設立後は、公式戦で3度の対戦、2勝1分けで品川が勝ち越している。日本代表に多くの選手を送り込んでいる両チーム、まさに手の内を知るもの同士の戦いとなった。

競い合う左 たま 黒田智成(背番号5)、右 品川 川村怜(背番号5) 撮影:秋冨哲生

 第1ピリオドは、たまの攻撃の中心選手黒田が、品川の川村と中盤で激しくボールを奪い合うことが多い展開となった。たまは何度かフリーキックを得るも、なかなかいい形でシュートに結びつけられない。一方品川は左に張り出した森田翼と、右に張り出した井上流衣にセンターの川村の3人で積極的にたまのゴールにアタックをかける。

シュートを放つ品川 森田翼 撮影:秋冨哲生

 結果、品川がシュート本数ではたまを上回る展開となる。12分、コーナーキックを獲得したたまは、黒田がドリブルからふわりと品川の壁となった選手の背後に落ちるボールをあげ、自らそのボールをヘディングで受けてシュートを放つという「二次元のブラサカに三次元をもちこんだ(本人談)」プレーを披露するも、シュートはヒットせず得点に結びつかなかった。黒田は「胸トラップからのシュートをイメージしたが、体育館でバウンドが高くなってヘディングになってしまい後の処理が難しかった。狙っていたプレーではあったが、ミートが難しかった」と振り返る。
 その直後の13分、右サイドのこぼれたボールを抑えようとする黒田より先に川村がボールを奪い、そのまま右サイドを上がってペナルティーエリア 外からシュート。田中章仁が一度はブロックするも、こぼれたボールを川村が体を入れて自分の前におき、相手から遠い左足で素早くシュート。ボールはそのままファーサイドネットに突き刺さり品川が先制した。試合後、黒田は「自分のミス」と反省し、田中は「一度止めたことで油断してしまった」と悔やんだ。

田中章仁(背番号7)をかわして左足でシュートを打つ川村怜 撮影:そうとめよしえ

 第2ピリオド5分過ぎから、たまはフィクソの田中を左アラにあげて黒田、日向の日本強化指定の3人が攻めあがるフォーメーションにチェンジ。しかし、準決勝ラウンドの屋外人工芝の環境と違い、あまりチームとして練習できない体育館という環境もありスムースにシュートに持ち込むことができず1-0のまま試合終了となった。

 試合後、品川の小島雄登監督は「準決勝ラウンド後、4回体育館練習を入れて決勝に備えた」「体力面で負けず、インテンシティ高く、前から追いかけて戦うことを意識した」と試合プランを明かした。来年に向けては「更にレベルを上げていきたい」と語った。
 川村は、「20回という節目の大会で、3人で創設して4年目、失敗もあったが色々チャレンジしてたものが形になってうれしい」と喜びを表した。「アクサの社員の一人として優勝して、社員の方に活力、ブラサカの魅力を届けたかった。決勝にこれたのも、優勝できたのもうれしい」「次はやはりパリパラリンピックの出場権を、頼もしい仲間と一致団結してとりたい」と代表での抱負も語った。

指示を伝えるパペレシアル品川 小島雄登監督 撮影:秋冨哲生

コロナ禍を乗り越えてパリパラリンピックへ

 この第20回大会はコロナ禍以前の18回大会(2019年開催)以来の一般客に開かれた大会となった(22年1月の19回大会は事前申込に限定)。予選からの4会場(成田会場堺会場浜松会場、町田会場)であわせて2054名の観客が試合を観戦し、第18回大会の1975名を上回る集客となった。参加チーム数も22チームとコロナ前の状況にもどった。このモメンタムをこれから地域リーグ、LIGA.iとつなぎ、更なる発展を期待したい。仙台の監督佐藤暢も語っていたが、競技の普及が発展に向けての大きなポイントとなる。佐藤監督によると、「東北地方ではここ5、6年普及に注力しているが、現在、仙台とガルハ青森以外のチームが現れていない。また、青森と仙台の距離は東京と仙台の距離と同じでなかなか簡単に練習試合ともいかない」そうだ。引き続き協会や各チームの普及活動に期待したい。

選手のプレーに魅入る観客 撮影:秋冨哲生

 そういった普及を後押しする意味でも、日本のブラインドサッカーの次の大きなマイルストーンは自力でのパラリンピック出場である。パリパラリンピックに参加できるのは8カ国。開催国のフランス、欧州選手権準優勝のトルコ(優勝がフランスだったため繰り上げ)、アフリカ選手権優勝のモロッコ、アジア選手権優勝の中国の4カ国は既に出場が決まっている。残り4枠のうち1枠はパラパンアメリカン競技大会2023(23年10-11月)で決まる。最後の3枠は8月にイギリス バーミンガムで開催されるIBSA 男子ブラインドサッカー世界選手権 2023にて、出場権を得た国を除いた上位3カ国に与えられる。日本がパリ行きのチケットを手にするには、16チームが参加するこの大会で、まずはベスト8に残ることが必須であろう。是非、選手たちに次なる目標に向かって進んでもらいたい。

ブラインドサッカーがごく普通に街の風景となるように。 町田マルイにて筆者撮影

(写真取材・秋冨哲生、そうとめよしえ 校正・中村和彦、佐々木延江)

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