杭州から佐賀、そしてパリへ。「第40回日本パラ水泳選手権大会」で年内のレースが終了。パラ水泳に多様な魅力を求める声も

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パリへ向かう2023シーズンの公式レースが終わろうとするなかで、パラ水泳の多様な価値を模索する言葉が語られた。

100mバタフライS11、木村、富田

今年8月の世界選手権でS11(全盲)クラスに現れたウクライナのダニーロ・チュファロフが頂点に立ち100mバタフライのレベルを引き上げたことは記憶に新しい。アジアパラでは木村敬一(東京ガス)と富田宇宙(EY Japan)の二人も世界での勝負を意識したタイムで泳いでいた。

木村敬一

木村は、パリに向けてオリンピックメダリスト星奈津美氏をコーチに迎えて取り組み、アジアパラではキックのタイミングを遅らせて入ることに集中して泳いだ。キックを遅らせることで手が回ったときの体重と勢いをそのまま使い、掻いていない間も進む時間を増やす狙いだという。今大会では星コーチが公式戦で初めてタッピングを担当した。

タッパーデビューの星奈津美さんと木村敬一 提供・日本パラ水泳連盟

バタフライを終えた木村は、「アジア大会でキックのタイミングを遅らせるというのは上手くいって、今回はしっかりと胸を張りながら強い掻きができればと思っていたが、前半ちょっと力んでしまい(出来栄えは)4割ぐらい。体力的な部分は練習がつながっている。技術的な部分はもうちょっと時間がかかりそう。星コーチにとって今日は新たな挑戦だった。一緒に練習し、いつもタッピングに入ってくれている人が試合でも叩いてくれるのは一番良い形ですので、すごくありがたいと思う。パリではいい泳ぎを作り上げたい」と感想を述べた。

タッピングデビューした星奈津美コーチ 写真提供・日本パラ水泳連盟

50メートル自由形(ゴール)と100メートルバタフライ(ターン)でタッパーとしてデビューした星コーチは「バッチリ合わせてきてくれ、叩きやすかった。バタフライのタッチは健常で泳いでいても難しく5メートル手前くらいでこれは合わない、とか伸びるタッチになることもあり、最後までわからないので、どちらのパターンも叩く練習をしていたが、きっちり合わせてきてくれた」とデビュー戦の感想を述べた。木村の泳ぎについて問われると「4割っていう評価は自分に厳しい。意識して泳いで、スピードに反映させるのはけっこう難しいことで、時間もかかるはずですが、記録が遅いということはなく、さすがだなと思います。成長はめちゃめちゃ感じています。泳ぎの姿勢は上から見ればわかるくらい変わったと思います。今後については期待しかないです」と話し、木村の成長を讃えた。

富田宇宙

一方アジアパラ最終日、富田は中国選手のパワーに感じ入って「一昨年の東京パラリンピック以上に出してきている感じです。中国の本気の底力を見せてもらって、日本も負けじと強くなっていかないと行けないし、盛り上げていきたいです。どういった形で関わるか分かりませんけど、とにかくパラリンピックの価値をみなさんに届ける努力をしたいです」と語っていた。また「パリに向けて上り調子は間違いなく、ここからさらにハードワークを重ねてパリで十分戦えるよう、どうにか鞭打って頑張りたい。今回を通じて、僕の強みは、距離が長くなってきた時の最後のスタート、粘りだと改めて実感したので、磨いて世界に勝負できる武器にしたいと思っています」とも話していた。

杭州アジアパラでの富田宇宙 写真・中村 Manto 真人

佐賀での2日目、レースを終えた富田は「100mバタフライは50mのタッピングとのかねあいで1秒ロスしてしまった。50m自由形は26秒台後半で安定しているが26秒台前半へのブレーク・スルーがない」と、いずれも課題をもって終えた。

以下、富田の今年を締めくくるインタビューが印象に残る。

ーー大会の感想は?

「この大会にはいろんなレベルの障害者スイマーが集まるから、ファンがサインを求めてきたり、写真をとったりする機会がたくさんあった。そういう障害のある人を元気づけたり、勇気づけて、自分も頑張ろうって思えるのが一番嬉しい。この大会を通じて一人のパラアスリートとして頑張ることで皆さんに何かお届けできる、そう感じさせてもらった。ただそういうアマチュアスポーツ大会なので、出場する選手のための大会という面が強く、観にくる人をもっと楽しませる工夫が必要だと思います。まだまだ改善の余地がある」と、富田のプロデューサー的な視点が伺えた。

ーー2023年、東京大会以降の応援を感じたか?

「ぼくの水泳としては結果が出なくて課題との向き合いが苦しかった。パラスポーツ全体を見ると、課題を多く感じます。日本のパラリンピックムーブメントは東京以降縮小傾向にありますが、海外ではすごく評価が上がり、盛り上がりもみせている。ぼくもスペインに戻って練習しますが、根本的に原因があるなと感じている。
日本のスポーツやビジネスでも、認知的なマインドというか、結果を点で見るように教育されていて、頑張っている人が偉くて頑張ってない人が偉くないみたいな、そういう考え方に囚われているところが非常に多い。スポーツを見る時にも、ただ競争がはげしくて勝つのが嬉しい、日本頑張れ、日本が勝った、おぉーっ!ていうところにどうしてもフォーカスがいく。スポーツが持つもっと奥深い面白さ、点でなく線でみる選手の魅力だったりがなかなか認織されない。受け手の教育も、表現する側のリテラシーの面も海外と比べて課題を感じるところが大きい。構造全体を俯瞰した時、根底にある、日本人の考え方を変えていかないといけないと思って作戦を練っているところです」

ーー2024年はどんな年に?

「わからない。どういう形で関わっていくことが、一番皆さんのお役に立てるのか?わからないです。選手として臨むのがいいのか、別の形で何かお手伝いするのがいいのかを考えているところです。僕は一番いい方法を探しています。
パリへ出場したいとは思っています。3月、静岡で泳ぐところがターゲットです。そこでは自己ベストを更新したい」

S11の先輩である日本パラ水泳連盟会長の河合純一氏がかつて「アスリートの感性」という言葉を口にしていた。選手が持つ独特な個性のことをさすかと思うが、富田の話からふと思い出した。
富田は2017年メキシコシティの世界選手権(現地地震により日本は欠場)から代表活動が始まり、以降毎年のようにアジアパラ(2018年ジャカルタ)、世界選手権(2019年ロンドン)と本番大会に出場。コロナ禍での東京パラリンピック、2年続けての世界選手権、2度目のアジアパラと続き、そしてついにパリである。
ライバルの木村は北京、ロンドン、リオと時間をかけて成長してきたが富田は日本代表となると同時に木村と競うトップアスリートになった。短い期間での変化に富田はどう対応し、追い込みや休息など自分をコントロールする術を身につけたのか。そして、今後についてわからないとしながらも「何が一番か」を考えている。富田の「感性」はこの先どんな答えを導き出すのか。

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