関連カテゴリ: インクルーシブ, コラム, 兵庫, 周辺事情, 地域, 夏季競技, 水泳 — 公開: 2015年6月8日 at 2:06 PM — 更新: 2024年12月10日 at 6:46 PM

神戸から、募集中! あなたの町でIPC公認・市民水泳大会を開催しませんか?

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一般のクラスから出場する藤原光里(16歳・地元神戸鈴蘭台高校)の飛び込み
一般のクラスから出場する藤原光里(16歳・地元神戸鈴蘭台高校)の飛び込み

 6月6日、7日。地域スイマーの登竜門として毎年行われ57回目となる「神戸市民水泳大会」(主催:神戸市水泳協会)で、障害のある選手の記録がIPC(国際パラリンピック委員会)公認記録として認定されることになった。
 IPC水泳部門(以下IPCスイム)が、地域大会の記録を公認していくパイロット事業として全世界に呼びかけ、日本身体障がい者水泳連盟を通じて、神戸市水泳協会がいち早くこの提案を受け入れ、一般市民の水泳大会がIPC公認大会となる初めての事例をつくった。

パラスイムの始まりは神戸から! 

 神戸は海外との交流の歴史ある港町で、スポーツも長期滞在する欧米の水兵さんたちの休暇の楽しみかたから広まったという。
 そんな神戸市が1989年にフェスピック神戸大会(*)の開催地となった。大会に向けた選手強化として、障害のある選手が神戸市民水泳大会に出場するようになり、フェスピック後も継続して出場している。当時すでに2000年シドニーパラリンピック、2004年アテネパラリンピックが見えておりそこへの強化も視野に入っていた。

「フェスピックのホストシティとなり、地元に強い水泳クラブがなくては!ということで、競技力向上のために障害者水泳クラブ『神戸楽泳会(こうべらくえいかい)』が結成されました。だから、神戸の障害者の水泳は、いきなり”パラリンピック競泳”から始まったんです」
 と話すのは、神戸楽泳会の創設メンバーでシドニーパラリンピック日本代表監督をはじめパラスイムの発展に欠かせない、櫻井誠一さん(日本身体障がい者水泳連盟常務理事・技術委員長)。

6月6日「800m自由形で自己ベストを更新した」と報告する鎌田美希と日本身体障がい者水泳連盟常務理事の櫻井誠一さん
6月6日「800m自由形で自己ベストを更新した」と報告する鎌田美希と日本身体障がい者水泳連盟常務理事の櫻井誠一さん

 神戸では、楽泳会のメンバーをはじめ、障害のあるスイマーが神戸市民水泳大会に参加するようになり、市民として水泳に楽しむ中で競技を目指す。フェスピックが終わっても、このスタイルを続け、今では当たり前となっている。
 その成果は、何よりも幼少期より楽泳会で水泳を始めたパラリンピアン山田拓朗が証明している。ほか、神戸や関西出身のパラスイムの選手は多く、選手の成長につれて、活動拠点や所属を東京にシフトしていくが、神戸の人々は、各地での日本の障害者水泳の基盤を作りにすすんで協力し、ビジョンを発信し続けてきた歴史と今がある。
 現在、6つの地域を軸に、障害者水泳の活動が行われている。2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けても、それぞれの地域とのつながりを深めながら進化し続けている。

昨年(2014年)仁川で行われたアジアパラ競技大会・競泳男子50M自由形S9で優勝した山田拓朗(23歳・NTTドコモ)この大会で4つの金メダルを獲得した。またこれまでにアテネ、北京、ロンドンと3つのパラリンピックにも出場し活躍している

障害者スポーツ政策の障壁を早期にリカバリーした、ホストシティ神戸

 欧米、南太平洋の国々の競泳大会は、障害者と健常者がつねに一緒にレースしており「障害の部」が設けられている。神戸市民水泳大会には「未登録」というカテゴリーがあり、障害のある選手のほか、日本水泳連盟(以下日水連)未登録の選手が参加している。これが海外の「障害の部」の役割になる。
 「未登録」といっても、日水連が障害の有無で選手登録を拒んでいる訳ではない。日本のスポーツは、長く健常者は文科省だが障害者のスポーツは医療や福祉の一環として厚労省に管轄されていた。海外のような統一組織がなく、地域においても、別々の競技団体で、大会も別々に行ってきた。それがふつうだった。しかし、障害者の権利や、スポーツとしての理解が深まり、従来のあり方への修正が求められ、昨年(2014年)、障害者のスポーツの強化について文科省に一本化された。
 しかし、当初の社会状況での考え方が、水泳をふくむ障害者の様々な文化活動の壁となり、時を重ねてしまい、スポーツの現場や競技団体に現在も影響を与えている。
 神戸がいち早く障壁のリカバリーに着手できたのは、まさに「フェスピックのレガシー」であったと言える。東京2020を機会にしっかりとビジョンとして位置づけ、あらためて取り組んでいく必要がある。

鎌田美希(奈良・高田高2年)の800m自由形
鎌田美希(奈良・高田高2年)の800m自由形

 パラアスリートの泳力強化策として「強化拠点等の整備」が行われている。もうひとつ重要な強化策は、障がいのある選手がパラリンピックや世界選手権、アジア大会など、より高い目標をもって取り組めるよう「競技の機会を準備すること」であるといえる。地域の大会で、障害者と健常者がともにスポーツできるようになることもその一つだ。とくに日本のパラリンピック強化対策は、発掘から強化までの課題をIPCや海外の競技団体からの情報をもとに共有している。つねに地域で、力を合わせて世界へ向かっていくことが必要になる。
 「ローカルを大切にして、グローバルに発想する力をつける!これからは地方創生が大事なんです」と、櫻井さん。パラスイムに関わる地域のスタッフとして、地域を世界に近づける役割も担っていると考えている。

神戸から、募集中! IPC公認の市民水泳大会を開催しませんか?

 「地域大会で、審判が選手の障害をわかっていればスムーズにすすみますが、知らないと反則にしてしまいます。今回、神戸市民水泳大会に出場した障害者選手は、IPCスイムに登録するパラリンピックを目指す選手で、運営はスムーズにすすみました」と、櫻井さんは説明する。
 水泳は、地域の中で比較的低年齢から参加するスポーツ。世界中どんな障害があろうと同じプールの中でレースを展開する巨大ネットワークでもある。しかし、日本のスタッフが日水連のルールだけで、障害者を含めたルールについて知らなければ、フェスピック神戸大会から神戸市で気づき、培われたような国際的な流れを知る機会の実現はなかなか難しいことだ。
 そこで、IPCの呼びかけというこの機会を利用すれば、選手の発掘、育成、強化をしていくためのまたとない機会となると同時に、地域の障害者理解、パラリンピック観戦への関心の高まり、日本のみで課題となっている「暗黒時代からのリカバリー」も同時に行える。一石二鳥〜十鳥にもなる。

6月7日 競技風景

 一般の大会に”未登録”で出場し、日水連のルールは適用できないが、IPCに登録している選手であれば、IPCの記録として残すことができるという仕組みの提案だ。この提案は、18ヶ月(1年半)を期限にテスト期間をもうけ、申請された大会の記録をIPC公認記録にしていく。日本身体障がい者水泳連盟として引き受け、今回まず神戸で開催した。
 「期間中にあと14の水泳大会をIPC記録認定大会として募集しています。手続きや、ルール運営のノウハウは全て日本身体障がい者水泳連盟がバックアップします!」とのことで、水泳に関わるスタッフにとって国際的なスキルアップの貴重かつ具体的機会となりそう。

鎌田美希(400m自由形のアジア記録をもち、アジアパラ・ベストユースにも選ばれた17歳。奈良・高田高2年年)と櫻井さん

 「長い間、日本のスポーツ教育は障害者と健常者を分けてきた。そのため、障害者のスポーツは地域でアスリートが育成されにくい状況にあった。その歴史が、一瞬で変わったりしないかもしれない、しかし、2020へ向かい、1年半ならどうか。市民大会でのIPC公認記録を増やすことは、そこに携わるスタッフの経験も増える、目に見える形での技術力の向上につながるだろう。
 これまで、代表選手の事前合宿だけで世界大会を戦ってきたが、これからは、地域での指導が進むことが世界への強化につながる時代になるだろう。フェスピック神戸大会のレガシーを次の目標につなげ、地域で合宿などを誘致するだけでなく、大会も開催してほしい。(IPC公認大会を)東京周辺でやっていただけると、東京圏の競技スタッフが増えるのでありがたい」と櫻井さんはいう。

<参考>
フェスピック (FESPIC Games) は現在「アジアパラ競技大会」がこの理念を引き継いでいる。アジアおよび太平洋地域の障害者スポーツの総合競技大会。欧米に比べて障害者アスリートの競技機会が限られていたアジア・太平洋地域でもパラリンピックをと、故・中村裕博士(大分中村病院)が提唱し1975〜2006年まで9大会がアジア各地で開催された。

・神戸市民水泳大会概要
http://www.kobe-sf.net/wp-content/uploads/2015/03/201503.pdf

・日本身体障がい者水泳連盟
http://paraswim.jp/

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