わたし自身がスポーツファーマシストの資格を取得し、早4年以上になる。スポーツファーマシストになる前に、バンクーバー・パラリンピックのドーピングチームに参加して、パラリンピック選手や関係者とたくさん話して、パラスポーツにおけるアンチドーピングが選手の障がいレベルによっては密接で、薬物管理が重要だということを実感し、以前から注目していた。
海外生活でもあり、積極的に日本での活動は乏しいが、グローバルで物事を考える事の多い私はアンチドーピングの各国の活動について興味があり、取材を機会があれば取材している。
ここ数年、日本でもアンチドーピングの啓発活動がとても盛んになっている。
ドーピング検査で陽性と出る選手がパラリンピアンに少なからず多いというのも現状である。最近のニュースでは、ブラジルのパワーリフティングの選手がドーピング違反が陽性で処分された報告がある。
今回の取材先のイギリス・グラスゴーのトルクロス国際水泳センターで行われているIPC世界水泳選手権で、UKADによるアンチ・ドーピング啓発活動が行われていたのでお話を伺った。
どのような活動がされているか?
イギリスではUKADという機関がトーピング違反をなくすための活動をしています。
大まかに、四種類(アスリート、アスリートの家族ら、コーチ、アスリートをサポートするスタッフ)に教育が分かれている。
・アスリート本人へのドーピング薬物対策は、アスリートのレベルに合わせて教育がおこなれている。
・インターネットでも学習することができる。選手が自ら調べれるツールもリンクしてある。
・アンチドーピングのスペシャリストがいつでも相談できるようにしている。
今回のコンペティションでの活動は?
私たちのブースは大会期間中オープンし、実際にドーピング検査を行う検体の容器などの提示、イギリス国内で簡単に薬局で買える一般的なOTCの提示、UKADの活動冊子をディスプレイ。さらに、パソコンでドーピングに関するMCQ(多項式選択問題)ページをもうけ、チャレンジしてもらい、そのスコアに応じて景品(Tシャツ、スイムハット、ピンバッチなど)をプレゼントしている。
ブース周りの様子・・
相談をしてくるアスリートなど、各国の選手がブースを観に来ていた。
ちょうど私のいた時間はこの大会で勢いのあるウクライナの選手の団体が熱心にMCQをしており、訪ねてみると「アンチドーピング啓発活動に興味がある」と話していた。ウクライナでも選手への教育制度はあると言っていた。
さらに、今回日本障がい者水泳連盟の峰村史世監督にお忙しい時間を割いていただき、パラスイムのアンチドーピングの教育とスポーツファーマシストについて伺ってみた。
アンチドーピングの教育について
パラスイムでは、毎年、年に最低1度はアンチドーピングのについての講座が開かれている。強化合宿や選手のレベルに合わせて、レベルに沿った講座が開催されている。
スポーツファーマシストとの認知度とイメージ
スポーツファーマシスト自体は認知している。現状は、「いざ使用かと思う時、連絡がとれない」ことがほとんど。「スポーツファーマシストにどう連絡したらいいのかわからず、いつも困ってしまう」ことが多いということだった。
私は監督の意見と視点は十分理解でき、選手団からも必要とされているという状況がわかった。ドーピング防止に関して相談できる薬剤師が徐々に増えてきているのは事実だが、なかなか役割が浸透していっていないようだ。
スポーツファーマシスト制度をJADAと日本薬剤師会が共同で立ち上げて5年になるが、まだ歴史としては浅い。同時に、我々薬剤師のコミュニティーでも色々な意見交換がなされており、スポーツファーマシストの資格を持つ薬剤師がそれぞれ工夫を凝らして、アプローチもしている。競技によって禁止薬物が違うので、競技への特化性が散漫としているのが現状である。
ひとつ、日本語にも対応している世界水準のアンチドーピングツールが近年使えるようになっていることを以下にお伝えしておきたい。
・WADAの(ADAMS)アプリケーション(日本語対応)
・Global DRO(日本語対応)
また国内では全国の薬剤師会がドーピング防止ホットラインを設けている。
イギリス同様、ある程度の事は選手や関連スタッフが調べる事ができる。また、日本国内の一般的なOTCは情報をシェアしているので調べやすいと思う。
だが、サプリメントなどは本当に紙一重である。特に信頼性のないサプリメントの輸入は主成分しか書いてない事が多く(各々の規定がある為)情報不十分な事がある。例えば、あるサプリメントの主成分がドーピングリストに載ってなくても、実は少量のドーピング陽性薬物が入っており「うっかりドーピング」につながり競技停止処分になるアスリートもいなくはない。例として、以前パラリンピックで緑茶サプリメントに少量のドーピング陽性薬物が入っていて処分をされた選手もいた。
最後に、思うことは、東京で2020年にオリンピック・パラリンピックが開催されるにあたって、もっと実践的な改善ができないものかと思う。反面、情報が足りない部分もあると思う。
世界各国のパラ選手にインタビューしたり、試合を観戦取材する立場からではあるが、今後はパラスポーツそのものが健常者スポーツ並みにブレイクしてくると思う。
そんな中で、私が今できる事は、様々なスポーツ関連の形態、各国のドーピング活動のインタビューをし、観て、聞いたりして今後もアスリートを薬物違反から守る情報をシェアし続けていきたい。