関連カテゴリ: PYEONGCHANG 2018, インタビュー, スノーボード, 周辺事情, 観戦レポート — 公開: 2018年3月16日 at 1:07 AM — 更新: 2018年3月18日 at 7:52 AM

金メダリストの義足デザイナーは、ライバルをサポートしながら戦う――アメリカ代表の顔、Mike SCHULTZ

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スノーボードクロス(LL1)で優勝したMike SCHULTZ(アメリカ)の滑り (写真・堀切功)
スノーボードクロス(LL1)で優勝したMike SCHULTZ(アメリカ)の滑り (写真・堀切功)

「日本人の選手も僕の義肢を使ってくれている。とても嬉しいです!」

3月12日に行われた平昌パラリンピック・男子スノーボードクロス(SB-LL1クラス)決勝後のミックスゾーン。オランダのVOS Chrisを下して金メダルを獲得したMike SCHULTZ(アメリカ)はにこやかに話した。

彼は、義足のデザイナーでもあるのだ。今大会では開会式でアメリカ代表の旗手も務めている。

アメリカのミネソタ州に拠点を置く『BIODAPT, INC.』はスノーボードやモトクロス、ウェイクボードといったアクションスポーツを楽しむ下肢切断者の為に、義足のキットを制作、提供している企業だ。Mikeは同社のオーナーでもある。目的は、下肢切断者がスポーツや運動に参加できるように、高品質で多目的な義足を制作すること。

Mikeは昔、プロのスノーモービルレーサーだったが、2008年にレース中の事故で左脚を大腿部から失った。モトクロスやスノーモービルレースといったアクションスポーツを愛していた彼は、自身のものづくりへの関心を生かして、義足の制作を開始。2年間の開発を経て、様々なスポーツに対応できる膝部分のユニットが誕生した。エクストリームスポーツの祭典として知られるXゲームズにも“Adaptive”と呼ばれる障がい者部門があるが、その舞台でも彼の生んだ義足は多くの選手に使われている。

義足開発の背景についてMikeは「既存の義肢に満足できなかった。問題解決やモノづくりが好きなんです。だから、自分の義肢を作るのはピッタリでした」と話す。

BIODAPTの義足の一番の強みは、調節可能な範囲が広く、可動域が大きいこと。その為、スタンス(姿勢)によって微調整が可能だという。

同種目でメダリストとなったBrenna HUCKABYやNoah ELLIOTT、Keith GABEL(いずれもアメリカ)を始めとして、平昌の舞台でも多くの選手がBIODAPT製の義足を使用している。日本の小栗大地(三進化学工業/SB-LL1)もその一人だ。「大腿切断(LL1クラス)では(BIODAPTの義足を)使っている選手が多いと思うんですけど、一番使い勝手がいいのかなと思ってます」と話す。

こうした状況を受けて、Mikeは「世界中の選手が僕らのつくった義肢を使ってくれています。オーナー、そしてデザイナーとしては、選手の活躍を見ていると本当に作ってきて良かったと思う」と笑みを浮かべる。

冬季パラリンピックでの金メダル獲得を受けて、東京2020は? の問いに、現在36歳のMikeは「この3年半、色々なことを犠牲にして、努力を続けてきました。今日は最高の1日。誇りに思います。東京に向けて現段階では(選手としては)考えていないですね。もう若くありませんから」と苦笑い。

しかし、彼には夢がある。

「他のスポーツの為のデザインに集中します。今後に期待していてください!おそらく、もっとスキーに注目していくことになると思いますよ」

ミックスゾーンでのマイク (写真・吉田直人)
ミックスゾーンでのマイク (写真・吉田直人)

マテリアルスポーツの要素が強いパラスポーツにおいて、プロダクト開発は水面下で行われる場合も多い。それは、競技において少しでも高みを目指す姿勢の表れでもある。しかし、Mikeは自身の開発した義足をアメリカ代表選手に惜しげもなくシェアした。それはなぜなのか。

「僕の手でつくった物で他の人が目標を達成する。その手助けができるのは感慨深い経験です」

ライバルをサポートし、自身も戦う。そして、勝つ。この姿勢が、彼が旗手としてアメリカ代表の顔になった理由の一つでもあるのかもしれない。

Mike SCHULTZは、本日行われるスノーボード・バンクドスラロームにも出場を予定している。

(出典:BIODAPT,INC.)

取材協力:翻訳;田中綾子

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