義足アスリート世界最速の称号は誰の手に? T63、T64の100m決勝解説

10秒ほどの短い時間に込められた走りの美学、それが陸上競技100mだ。パラリンピック期間も中盤を迎え、さらなる盛り上がりを見せているが、8月30日の今日は、義足のクラスの花形競技の一つ、最速決定戦である100mの決勝が行われた。

8月30日、東京パラリンピック陸上 T64男子100m決勝 写真・吉村もと

まずT63のレースでは、アントン・プロホロフ(T42、RPC=ロシアパラリンピック委員会)が序盤から先頭に立つ。その後ろをスコット・リアドン(T63、オーストラリア)とダニエル・ワグナー(T63、デンマーク)が追い、そのすぐ後ろにビニシウス・ゴンサウベス ロドリゲス(T63、ブラジル)、そしてレオン・シェーファー(T63、ドイツ)が追う展開となる。後半に入ると、世界記録保持者のロドリゲスとシェーファーがスピードを上げ、リアドンとワグナーをかわす。終盤ではロドリゲスがさらにスピードを上げ勝ちパターンに持ち込むように見えたが、プロホロフが逃げ切り、12.04で金メダル。ロドリゲスは12.05で2着。そしてシェーファーが3着となった。ワグナーは後半はスピードについていけず4着、前回大会同クラスの金メダリストのリアドンは5着に終わった。

T64の決勝でもドラマが待っていた。ピストルがなって飛び出したのはムロンゴ・メペムプロ(T44、南アフリカ)。そしてジャリッド・ウォレス(T64、アメリカ)とフェリックス・シュトレング(T64、ドイツ)が続いた。スタート10mですぐさまフェリックスが先頭に立ち、そのすぐ後ろを3連覇を狙うジョニー・ピーコック(T64、イギリス)が追う形に。そして少し遅れてシェルマン イシドロ・ギティ ギティ(T64、コスタリカ)が力強い走りで2人を追走する。後半に差し掛かると、スタートが難しいが後半に伸びてくる両足下腿義足のヨハネス・フロールス(T62、ドイツ)がスピードに乗り、先頭3人を猛追する予想通りの展開となる。4名はほぼ横一線でゴールに飛び込み、わずかな差でフェリックスが10.76秒で金メダル。2着に10.78でギティ。3着はなんと10.79秒の同タイム同着でフロールスとピーコック。少し遅れて、ムプメペロが5着、ウォレスが6着となった。

予選の走りから、先頭争いはシュトリング、ピーコック、フロールス、ギティの4人が有力と思われたが、レース展開はその予想通りに進んだ。予選では多少バランスを崩したピーコックが見事立て直し、トップ争いに絡んだ。フロールスはこの競技の世界記録を持っていたが、400mの競技の方にフォーカスしていたせいか、100mでは先頭に届かなかった。ギティは予選と同様力強い走りを見せつけ、今後の大会での活躍を期待させてくれた。そして、シュトレングは予選の仕上がりから優勝候補に躍り出て、その強さを見せつけてくれた。ムプメペロは予選から安定した走りで見事5着となった。ウォレスは予選全体8位と本来の走りが全くみられなかったが、決勝ではなんとか立て直し、6位に入った。

T64男子100m決勝レースを終えたジャリッド・ウォレス(アメリカ)とヨハネス・フロールス(ドイツ) 写真・吉村もと

前代未聞の一年延期となったパラリンピックに、調整に苦しんだ選手がたくさんいる。世界がこのような混沌にある中、この場で素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた彼らの努力に最大限の称賛を送りたい。そして、最後にこの場に立てなかった選手も含め、全てのアスリートに感謝の意をここに表したい。

フェリックス・シュトレング
「(金メダルをとった感想)とっても嬉しい。とても興奮している。パラリンピック史上で最も僅差での勝負に自分が1位になったことをとても誇りに思う。(勝因は?)昨日もそうだったけれど、非常にコンペティティブで、精神的にもいっぱいいっぱいだった。100mはスタートブロックを蹴って走るだけで、何をすべきかはわかっているけれど、失敗は許されないし、あっという間に終わってしまう。なので、気持ちを落ち着かせ、自分自身に集中していいレースをするための準備をすることが重要。今日自分はそれができたと思う。
(ヨハネスに勝ったことについて)とても嬉しい。ジョニー・ピーコックに勝ったことも嬉しい。彼が過去に成し遂げてきたことは本当に素晴らしい。パラリンピックに二度も勝っている。でも自分が準備ができていたことも知っていたし、勝てると信じていた。精神的にも集中していたし、ベストレースをする準備をしっかりできた。レースは完璧にはこなすことができなかったけど、とてもいいレースだった。過去二度パラリンピックに勝っているジョニーと、世界記録を持っているヨハネスに勝ったことを本当に嬉しく思うし、誇りに思う」

ヨハネス・フロールス
「(どのような気持ちでしょうか?)とても嬉しい。非常に僅差でベストレースだった。1位から3位までが3/100秒の中にいた。レースでやりたいことはできた。100mではメダルを取れたけれど、まだ400mが9月3日にあるので頑張りたい。(なかなか結果が表示されなかった時の気持ちは?)ハイサスペンスのような時間だった。でも走っている時に、自分の肩を前を走っているランナーに並べたと思っていたので銅メダルを取れると思っていた。長い時間待たなければならなかったけれど、前パラリンピック金メダリストと同じ銅メダルを貰えることは本当に嬉しいことだ。
(世界記録を出してからどういう改善をしてきたか)実は、この2年間は400mにフォーカスしてきた。スピードを保つ練習や、スタート、レース展開を改善してきた。(義足に関しては)2019年ドバイから同じものを使っている。うまく機能していると思うので、何も変更していない。このブレードは新しい技術ではないけれど、優れた技術者たちが組み合わせてくれて、自分には完璧にあっていると思う。(両足が義足だとスタートが遅いと言われているが?)両足義足にとって、スタートは非常に難しい。改善するために正しい角度でブレードを地面につかなければならないし、これはトレーニングでしか身につけることができない」

ジャリッド・ウォレス
「(レースについて)とても素晴らしいレースだった。歴史上初めてT64のクラスで走ることが信じられないくらい嬉しい。調子が悪く、レースでうまく走ることができなかったのが悔しい。表彰台には届かなかったけれど、ファイナルに残って走ることができたことは嬉しい。(遠藤謙がレースを見ていたけど)彼がやってきてくれたことを非常に感謝している。日本が第二のホームになったし、日本の国も人もとても好きになった。まだ3年後にはパリがあるので、もっと彼と一緒にやらなけれがならないことがある。
(トラックは走りづらかったか)いや、たくさん世界記録が出ているし、とても素晴らしいトラックだと思う。(ブレードはどうでした?)このブレードは素晴らしかった。僕もデザインしたから偏った意見かもしれないけれど、いいプロダクトだと思う。この数年かけて謙やXiborgや東レのサポートを得てできたブレードで走れたことは本当に嬉しい」

ジャリッド・ウォレス(アメリカ) 写真・吉村もと

<義足スプリンター観戦ガイド>
https://www.paraphoto.org/?p=29084

(編集・校正 佐々木延江、望月芳子)

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