半年ぶりにパラスポーツの日本選手権が帰ってきた。パラ陸上競技の日本一を目指す「第31回日本パラ陸上競技選手権大会」が5日、熊谷スポーツ文化公園陸上競技場(埼玉県)で開幕した。国内のトップ選手が一同に集い、2日間に渡りトラック8種、跳躍2種、投てき3種の計13種目で熱戦を繰り広げる。
コロナ禍での大会開催
5月30〜31日に開催予定だった本大会は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で9月へ延期され、無観客での開催となった。選手やスタッフ、報道陣には大会開催まで2週間の検温・体調管理シートの提出が義務づけられたほか、用具の貸し借りや共有の禁止、感染で重症化のリスクが高い障害の重い選手のメディア対応は行わないなど、厳戒態勢での開催となった。
日本パラ陸上競技連盟の三井利仁理事長は「五輪、パラリンピックを含め(新型コロナウイルス感染拡大下で)一発目の日本選手権。来年のパラリンピックを成功させるためのエビデンスを出す第一歩になる」と、感染予防策の徹底を改めて説明。無観客とした理由は「選手に競技に専念してほしかったため。クラスターを出すということだけはしたくなかった」と理解を求めた。
パラリンピックの「プレ大会」
昨年11月にドバイで開催された世界選手権で、日本選手団は金3、銀3、銅7個のメダルを獲得し、パラリンピック本番に向け弾みをつけた。コロナ禍で春以降予定されていた国内大会が軒並み中止・延期となる中、東京パラリンピック内定の選手たちは「プレ大会」として、それぞれのパフォーマンスを発揮する機会を得た。
女子走り幅跳びT11の高田千明(ほけんの窓口)は1回目の跳躍で4m46をマーク。自身が昨年刻んだ4m69には届かなかったものの、「今回の試合は今まで習ってきたことをひとつずつ噛み合わせるつもりで臨んだ。助走が左に逸れてしまうことが続いていたので、まずはしっかりと踏切の態勢に入ることを目標にしていた。踏み切った後の空中での動作が噛み合えば、まだ距離は出る」と手応えを語った。緊急事態宣言下の1ヵ月半は競技場が閉鎖し、夜間の公園などで練習を積んでいたという。不安定な練習環境の中「今日は他の選手の話も聞けて良かった」と、仲間との交流を喜んだ。
ドバイ選手権で金メダルを獲得した女子走り幅跳び T64の中西麻耶(阪急交通社)は5m70のビッグジャンプでアジア記録を更新。これまで通りの練習が叶わないコロナ禍の環境を跳ね返す強さだった。新たなコーチのもと、「練習の質は絶対に落とさない」と決めたという中西。2020年に照準を合わせてきた志を変えずに、自粛期間中も公園や河川敷でトレーニングに励んだ。「パラリンピックがないから(ピークを)変えるのではなく、大会があると想定してこのまま試してみたい」と走り続けた中西。「本当は(5m)80cm以上跳びたかった」と向上心をうかがわせる金メダリストは、逆境に負けない仕上がりの良さを見せた。
パラリンピック内定へ貴重な実戦
本大会は国際パラリンピック陸連の公認大会で、記録は東京パラリンピック出場選考に反映される。パラリンピック出場を目指す選手にとって、数少ない記録を刻む貴重な機会だ。男子5000mT54の樋口政幸(プーマジャパン)は10分35秒82でフィニッシュし優勝。目指していた10分は切れなかったものの、「楽しかった」と約10ヵ月ぶりのレースに表情は晴れやかだ。「持久力は去年より伸びていると思う。この暑さの中で走れて良い予行演習になった」とレースに手応え。
リオ大会後、手術を経て思うような走りができなかった3年間を振り返り「自信を無くしてしんどかった。今年に入って体調が戻ってきて、今はかなりポジティブです」と笑顔を見せる。再び自信を取り戻したベテランの躍進に注目だ。
昨年の雪辱を果たす選手もいた。男子やり投げF46の山崎晃裕(順天堂大学職員)は60mの大台を超えて自己ベストに迫る60m09の好投。「去年の自分とは違う」と強さを口にした。ドバイ選手権では、「自分の持ち味である振り切りの良さを生かせなかった」という山崎。「一度も忘れたことがない」という悔しさと向き合い、自粛期間中は冷静に自己分析した。
「初心に戻って、野球ボールや石を投げたりして腕をしっかり振れる練習をしてきました。腕のしなりを取り戻してきたので、本来の持ち味が出せていると思う」と胸を張る。弱点と向き合った時間と地道な練習が、力強い一投に結実した。
「第31回日本パラ陸上競技選手権大会」は、熊谷スポーツ文化公園陸上競技場で6日まで。好記録の朗報でパラスポーツ界を再び活気づけてほしい。
ーーフォトギャラリー
(編集・佐々木延江 校正・望月芳子)