選手支える「技術者たち」。義足や車いすの修理センターに、初の3Dプリンター導入

 選手村でいま最も「ホットな場所」として知られるスペースがある。パラリンピックに出場する選手たちが使用する、競技用の車いすや義足などのメンテナンスを行う「修理サービスセンター」だ。

オットーボック・ジャパン車いすエンジニアの中島浩貴さん。母国開催ということもあり、日本からは同社のほか義肢装具製作施設など全国から合計14名の技術者が参加している  写真・丸山裕理

 選手村ビレッジプラザの一角に構える700㎡のスペースには、ドイツの義肢装具メーカー、オットーボック社から集まった100名を超える技術者やスタッフたちが日々、車いすや義足、装具などの修理にあたる。自社の製品はもちろん、他社の製品も持ち込み可能で、競技で使用する機器のほか、日常生活用の車いすや義足など、なんでも無償で修理するというから驚きだ。8月15日のプレオープンから26日までに、すでに修理件数は805件。1日に80〜90件もの修理を受け付ける。

修理サービスセンター内部の様子  写真・Tokyo2020 提供

 膨大な修理やメンテナンスを受け付けるため、センターはいつも戦場だ。感染症対策のため、現在は関係者以外は修理センターへ立ち入りできないが、ライブ配信されたセンターの様子からは、忙しなく働く技術者たちの姿が伝わってきた。

 修理の8割を占めるのは、車いすのタイヤ。パンクやボルトの締め直しといった簡単なものから、試合中にダメージを受けたフレームの亀裂、輸送途中に破損してしまったホイールの修正など、さまざまなケースがあるという。難しいのは、他のメーカーのものや、技術者でも見たことがないようなオリジナル製品。細かなパーツには、規格品もあれば、選手一人一人に合わせて独自に作られたものもあり、替えの効かないものは、金属や板を削り出して、一から作ることもあるという。

初の3Dプリンター

 そうした中、今大会ではパラリンピック史上初めて「3Dプリンター」がテスト導入された。すでにアーチェリーで使用する指の保護カバーや、ハンドバイクで使用する小さな装具が3Dプリンターで形成されたという。3Dプリンターは層を重ねるようにして作られるため、製作までに数時間かかるのが課題だが、細かなパーツやオーダーメイドで作られた一点ものの製品など、技術者の手作業では限界がある製品も、3Dプリンターによって修理が可能になる。

3Dプリンターで作られた細かな部品。写真はアーチェリーで使われる指の保護具  写真・丸山裕理

 2012年ロンドンパラリンピック陸上100m、2016年リオパラリンピック走り幅跳びで、いずれも金メダルを獲得した元陸上選手のハインリッヒ・ポポフ氏は、「選手時代は、まず選手村に入って、宿や食堂の場所と共に、修理センターの場所を探したものです。ロンドン大会では、競技5分前に自分の義肢装具が壊れてしまった経験があり、技術者たちがいなければ、12年かけた競技が、本番5分前で終わってしまうところだった。選手のメンタルな部分で最も重要なサービス」と話した。

 技術者たちの支えなしに、アスリートの世界記録はないのかもしれない。「義肢や装具の問題によって、競技を諦めることがないように」。そう思いを込めて、影の立役者たちは今日も奮闘を続ける。

3Dプリンターのスキャナー。プリンター全体でも電子レンジほどの小ぶりな大きさだという  写真・丸山裕理
記者の質問に答えるハインリッヒ・ポポフ氏  写真・丸山裕理

(校正 望月芳子)

この記事にコメントする