関連カテゴリ: Tokyo 2020, オンライン観戦会, トラック・フィールド, 義足アスリート, 陸上 — 公開: 2021年9月2日 at 8:40 AM — 更新: 2021年9月9日 at 2:13 PM

義足エンジニア・遠藤謙による「東京パラ注目の義足アスリートの見どころ!(女性編)」

マルレーン・ファン ハンセウィンケル (オランダ、26歳)
彼女を初めてみたのは、リオパラリンピックの時でした。彼女はリオでは決勝に残り、13.64で7位の成績でした。
2016年リオパラリンピック100m決勝

2017年の世界パラ陸上選手権でも決勝に残り、13.64で7位となりました。いずれも成績は表彰台に届来ませんでしたが、彼女の走りはとても印象に残りました。

2017年ロンドン 世界パラ陸上選手権100m決勝

それは、彼女の片腕が義手だったからです。当時T44というクラスで走っていた彼女ですが、一緒に走っているのは片足下腿義足、両足下腿義足と下腿部の機能障害を持つスプリンター、つまり腕に障害を持っていない選手たちなので、腕がないことが大きなディスアドバンテージとなり得るのですが、スタート時には棒のような義手を使ってクラウチングスタートをし、走り始めたら棒をふってバランスを取りながら走っていました。実は、下腿義足の選手で腕もない中で世界レベルの大会に出る選手は珍しく、現在では日本で活躍する池田樹生選手くらいでしょうか。非常に不利な状況とも言える中、決勝に残ることがすごいと思っていました。しかし、彼女の場合はそれだけではありませんでした。

2018年のヨーロッパ選手権、彼女は3つの大きな変化を見せてくれました。一つ目は義手。これまでは棒のような義手を使用していたのですが、この時の彼女は棒のようなものがついておらず、義手といってもソケットだけをつけているような見た目でした。そのために、クラウチングスタートをせず、スタンディングの状態からのスタートへ変更しました。二つ目はスタートの時の足の位置。通常片足義足の選手はスタートする際に、健足側を前に、義足側を後ろにすることが多いのですが、彼女は逆に義足側を前にしてスタートをするようになりました。最後に義足のブレード。これまではOttobock社のsprinterを使っていましたが、今回彼女の足にはOssur社のXtremeを使用していました。走り出した彼女は、その大きな体を最大限にふり、ダイナミックに力強く地面を蹴っていました。そして、12.85という当時の世界記録を樹立し優勝しました。

2018年ヨーロッパ選手権100m決勝

腕がないけど頑張っているなと思っていた自分が非常に恥ずかしく思うくらい、彼女は輝いていました。私は池田樹生が腕がないことを言い訳にしているところをみたことがありません。彼女の存在が大きいからだそうです。僕が池田樹生が確実に今後速くなると思っているのも彼女のせいです。

その後も彼女は2019年ドバイ世界パラ陸上選手権では2位、2021年でも2位と世界トップレベルで競技し続けています。ちなみにこのクラスの世界記録、12.66は彼女が2019年に樹立したものです。

今年行われたヨーロッパ選手権でも非常に調子がいいところを見せてくれました。
2021年ヨーロッパ選手権

東京パラリンピックでも力強い走りを見せてくれることは間違いありません。今から楽しみです。

ソフィー・カムリッシュ|マルレーン・ファン ハンセウィンケル | フルール・ヨング| ベアトリス・ハッツ| キンバリー・アルケマデ

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