関連カテゴリ: 千葉, 夏季競技, 東京パラムーブメント, 水泳 — 公開: 2021年11月24日 at 2:25 AM — 更新: 2022年3月10日 at 9:57 AM

アフター東京のパラ水泳はどうなるのか?第38回日本選手権大会が閉幕。次世代組は来月アジアユースパラへ!

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第38回日本パラ水泳選手権大会が千葉県国際総合水泳場(習志野市)で開催され、348名(男子217、女子125)の障害のあるスイマーが参加。アジア記録1、日本記録11、大会記録46が更新された。

11月21日、大会2日目、50m自由形でスタートする日向楓(宮前ドルフィン)1日目の50m
バタフライでは、日本記録35秒37で日本記録を更新した。 写真/JPSF

約3ヶ月前、ここから27名が東京2020パラリンピックに出場し、金3・銀7・銅3の合計13のメダルを獲得、世界新記録1、アジア新記録4、日本新記録18を更新した。その東京パラが終わって、初のWPS(世界パラスイミング)公認大会は、パラリンピアンはもとより、パラ水泳で上を目指す多くの選手たちにとって、あらたな出発点となったようだ。



東京パラ金メダリストたちのいま

鈴木孝幸
東京パラで出場全5種目でメダル(金メダルを含む)を獲得したキャプテン鈴木孝幸(GOLDWIN)は、男子100m自由形S4を泳ぎ終えたあと「今回は東京パラを応援してくださった皆さんへのご報告という思いで泳ぎました。(パラスポーツの普及に向けては)自分自身がいいタイムで泳ぎつつ、報道の皆さんの力もお借りして(パラスポーツの魅力を)より多くの方にお届けしたい」と話し報道陣に協力を求めた。

11月20日、100m自由形を泳ぐ鈴木孝幸(GOLDWIN) 写真/JPSF

鈴木は、立候補したIPC(国際パラリンピック委員会)のアスリート委員に無事選出され、パラリンピック・ムーブメントの推進に携わろうとしている。
「まだ始まったばかりで前任者の引き継ぎが始まったところ。自分としてはクラス分けに携わりたい」と、意向を表明したという。


8月26日、東京2020パラリンピック・男子100m自由形S4で鈴木孝幸(GOLDWIN)がパラリンピックレコードで優勝。開催国に初めての金メダルをもたらした。 写真・秋冨哲生

鈴木は東京パラ前から「東京が最後のパラリンピックになると思う」と話していた。「(パリを目指さないとの)気持ちに変化はないが、大会に出場し、泳ぎながら(時期を)考えたい」と話し、その過程でパリ出場の可能性も生まれるのかもしれない。来年の世界選手権(6月・マデイラ)、アジアパラ競技大会(10月・杭州)出場を目指していく方向で、年明けにはイギリスへ戻り本格的な練習に復帰、3月の選考会へ出場を予定していることを明らかにした。

山口尚秀
男子100m平泳ぎS14で世界記録を樹立、金メダルを獲得した山口尚秀(四国ガス)が東京パラで刺激をうけた海外選手は、100m背泳ぎS14の金メダリスト、同じ年のベンジャミン・ジェームズ・ハンス(オーストラリア)だった。「健常者の全国大会で競えるタイムで泳いでいた」と、ライバルの目標の高さが印象にのこっていた。

11月20日、100m平泳ぎ 山口尚秀(四国ガス) 写真/JPSF

今大会では、東京で予選敗退の男子200m個人メドレーSM14の強化に取り組みながら、持続可能なコンディションを保つことを課題として3年後のパリへつながる6月の世界選手権を目標にしていた。

山口尚秀(四国ガス)に出場記念パネルが贈られた。 写真/筆者撮影

「自分は4泳法の切り替えが得意ではないが、改善することで世界でも通用する記録を出せるんじゃないかと思う」と話していた。
記者から、平泳ぎ以外の種目の可能性は?と問われ「予選、決勝と自己ベストを更新できた100mバタフライだと思う」と即答しながらも、「もしパラリンピックの種目が増え200m平泳ぎが加わるなら、100mと200mでもメダルを狙えると思います」と加え、平泳ぎに注ぐ情熱の熱さを改めて伝えた。

木村敬一
男子100mバタフライS11で優勝を果たした木村敬一(東京ガス)は、東京パラ後は取材や講演に多忙な日々を送ってきた。練習時間も週3〜4日と短かったことから出場種目は50mバタフライ、50自由形の2種目に絞った。

11月20日、50mバタフライを泳ぐ木村敬一(東京ガス) 写真/JPSF

「いろいろなところに呼んでいただきパラの話をしている。今回東京でたくさんの人に魅力を知ってもらえて、少しでも恩返しになればという気持ちで泳いでいます。今後の目標、トレーニング拠点などは何もきまっていません」1日目の50mバタフライを泳いだあと記者たちの前で語った。
東京直前に初の自伝「闇を泳ぐ-全盲スイマー、自分を超えて世界に挑む。」を出版。売れ行き好調で、第2版もすでに流通している。

パラリンピアンとともに切り開く、アフター東京2020

1日目の午後、東京2020パラリンピック出場記念品の贈呈と2021年度優秀選手賞授与式が行われ、3人の金メダリストをはじめ、富田宇宙、山田美幸など欠場の選手もいたがパラリンピックぶりに東京パラの代表選手たちが集合した。

11月20日に行われた、東京2020パラリンピック出場記念品贈呈及び2021年度優秀選手受賞授与式が行われた。 写真・筆者撮影

史上初の延期のすえ無観客で開催されたオリンピック、パラリンピックは、国際的に苦しい状況を乗り越えたアスリートたちの特別な経験として残るだろう。パラ水泳をリードするパラリンピアンに共通の経験がどのようにつながるだろうか。

クラス分けの影響

東京パラ代表に選ばれつつもクラス分けで出場を逃した久保大樹(KBSクボタ)と長野凌生(野村不動産パートナーズ)は、それぞれ新たなクラスでの歩みを始めた。
久保は50mバタフライに新たなクラス(S9→S10)で出場、28秒69でアジア記録を樹立した。
「この場に戻ることができた自分を褒めたい。S10はアジアで選手が少なく新記録を樹立できたが、泳ぎの課題は多くトレーニングが必要」と話した。久保が主催し、パラスイマーの魅力を伝える音声メディア「クボイス」の活動は、東京パラ代表選手をゲストに競技活動の内側から今後も発信を続けていく。

一方、長野は、S13(弱視)からS21(軽度の障害でパラリンピック参加資格のないクラス)へ変更となり、今後のカムバックは難しいという。
「(障害が軽いことは)生活面ではいいことだが、競技の世界ではパラリンピックをめざせないことは辛い」と心境を伝えた。競泳を続けるためにパラリンピック以外の目標へ、視野を広げようと考えているようだ。

東京パラ日本代表監督・上垣匠氏の談話

ーー大会振り返って

東京2020パラリンピック日本代表監督・上垣匠氏(6月5日パラ水泳日本代表推薦決定選手インタビューにて撮影) 写真・秋冨哲生

まず東京2020パラリンピックが無事に終わり高い評価をうけ感謝しています。メダリストと決勝に残れたがメダルへの距離がある選手がいる。2019年からパリへの強化をしてきたなかで、窪田幸太、荻原虎太郎などの選手が活躍をしてくれた。彼らがメダルにからめるかが今後のポイント。次世代の有望な選手を選択と集中でサポートしていきます。

ーー今後のサポート体制のポイントは?

東京パラに向けて、ブラインドS11の選手にパーソナルなタッパーをつけるという方針でした。S11以外にもパーソナルコーチに合宿、大会と協力いただいた。これまでNFのスタッフで運営していたところを、多くのパーソナルのスタッフにご協力いただいたのが東京大会でした。

今後パリを見据えると東京のような規模では拠点も含めて難しいと考えています。パーソナルの皆様と協力しながら、競技のできる環境を考えていきたい。パリにむけて一緒に向かっていきたいと考えています。

11 月21日、大会終了後のインタビューに応じる日本代表監督・上垣匠氏 筆者撮影

ーーアジアユースの選手への期待

(コロナ禍で)4年に1度のユース大会も1年延期になった。該当選手たちも東京パラをテレビでみて感じるところがあったと思う。とくに今回の大会をみると、多くの選手が自己ベストを更新している。彼らを、彼らの目標である、パリ、ロスにむけてより近く、現実的になれるところまで(大会が)伸ばしてくれるんじゃないかと期待しています。
強化指定選手に入れるよう努力が必要と思います。彼らの若さが次につながっていくことを期待しています。

ーー来年3月の派遣標準の方針は?
(世界選手権、アジアパラを見据えた強化指定選手、派遣標準はどのようになるのか。東京と同じ?さらに高いものに?)

選考方針を進めているところだが、これまでの傾向としてパラの翌年の世界選手権はレベルが少し落ちる傾向にある。前回(リオ大会後)2017年の世界選手権は(メキシコ地震があって延期になり日本は不参加)レベルは低くなっていた。その中で活躍したイタリアが東京でも躍進を遂げたという例があり、参考にしている。ただ、今回は前回とちがってパリまで3年しかないということも考慮にいれていく必要があるだろう。

アジアユースへ。次世代の活躍ぶり

12月2日〜6日、バーレーンで開催されるアジアユースパラゲームズにパラ水泳から19人の中学生、高校生が出場する。他の競技も含め40名の日本代表のほぼ半数が水泳からの参加である。

注目は、茅ヶ崎出身のS6クラスの田中映伍(17歳・男子・両腕欠損/神奈川県立二宮高等学校)、選手層の厚いS9クラスで挑む福田果音(15歳・女子・左前腕欠損/北九州市立吉田中学校)らが、今大会で勢いのある泳ぎを見せてくれた。

視覚障害では、2016年から大阪で水泳を始めた全盲(S11)の宮川珠和(13歳・女子/大阪シーホース・大阪狭山市立狭山中学校)のほか、弱視(S13)の小倉千佳(18歳・女子/東京4TC・筑波大学附属資格特別支援学校)は、タッパーの第一人者・寺西真人氏や同じS13のパラリンピアン辻内彩野とも交流をもって成長した。

知的障害クラスでは、2度目のアジアユースとなる北野安美紗(18歳・女子/ルネサンス登美ヶ丘)が出場。北野はすでにトップスイマーとして2019年パラ水泳世界選手権(ロンドン)にも出場し、力のある選手として期待されている。

2018年10月5日、ジャパンパラ水泳競技大会100m自由形(S14)表彰式。金メダルのミシェル アロンソ・モラーレス(中央)と、銀メダルの北野安美紗(左)と銅メダルの井上舞美(右) 写真・秋冨哲生

「東京パラをテレビでみて、世界のタイムが上がっていることに焦った。前回のアジアユースでは14歳は自分だけ、メダルはなしだった。リベンジしたいと思っていてその機会がもらえて嬉しい」と気合いにみなぎっていた。

パリ(2024)、ロス(2028)、ブリスベン(2032)に向けたパラ水泳の主役となる次世代スイマーとして、何人が、国際舞台へ初めの一歩となる成長を掴めるか。朗報が期待される。


<参考>
日本パラ水泳連盟/第38回日本選手権リザルト

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