横浜から世界へ。第27回日本知的障害者選手権水泳競技大会フォトレポート!

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横浜国際プールで23年の歴史のある「日本知的障害者選手権水泳競技大会」が今年も開催。メインプール廃止案が心配されるなかで、世界を目前にした障害のあるスイマーたちの現在をレポート。

パリパラリンピックまで2ヶ月を切った6月30日、「第27回日本知的障害者選手権水泳競技大会」が開催され、知的障害、身体障害、聴覚障害(デフ)のある346名の選手が出場した。

パラリンピック初出場を控える木下あいらが女子800m自由形で9分38秒66のアジア記録を樹立した。その他、山中優希が男子1500m自由形で17分14秒9のアジア新記録、ダウン症クラスの森下綾子が女子200mバタフライで3分19秒39のVirtus世界新記録を突破するなど、注目すべき成果があった。また、日本新記録が7、大会新記録が26樹立された。

山口尚秀パラ2連覇への挑戦

山口尚秀(四国ガス)は、2019年のロンドンでの世界選手権・男子100m平泳ぎS14で世界記録を樹立し、以後も自身の記録を更新し続けている。東京2020パラリンピックでも世界記録を更新し、パリでの2連覇を目指す。
昨年末、イギリス代表チームの合宿に参加し、この6月はオリンピック競泳の鈴木聡美との合同練習にも挑戦。本大会では100m平泳ぎでシーズンベストを記録した。

男子100m平泳ぎS14で世界記録を持つ山口尚秀(四国ガス)は1分3秒42の好タイムで泳いだ 写真・秋冨哲生
100m平泳ぎを終えた山口。タイムを確認する 写真・秋冨哲生
インタビューで記者たちの質問に応える山口尚秀(四国ガス) 写真・秋冨哲生

「パリパラリンピック本番のレースのイメージを意識して取り組んでまいりました。先日、オリとパラとの共同練習をした。オリとパラになるけれども、同じパリという舞台で競技をする者として、お互いにベストパフォーマンスを発揮していけたらいいと思います。鈴木選手は何より平泳ぎの大ベテランで、体重移動も非常に上手ですし、一つ一つ細かい部分を意識している。オリンピッククラスの選手が日頃から取り組んでいることを改めて認識した。自分の強みは力強いキックなので、その強みを生かしつつ課題を意識していきたいです」と語った。

木下あいら、アジア新記録更新

コロナ明けの2022年ジャパンパラ競技大会に初出場し、次々と日本記録を塗り替えた木下あいら(三菱商事)は、昨年初めての海外遠征(シンガポール)、世界選手権(マンチェスター)アジアパラ(杭州)へ出場。世界記録1つ、今大会の800m自由形を含めアジア記録3つを数え、世界へのスピード感のある成長を見せた。

女子800m自由形を泳ぐ、木下あいら(三菱商事)アジア記録(9分38秒66)を樹立 写真・秋冨哲生
インタビューで木下は「やっぱり200m個人メドレーの背泳ぎと平泳ぎが一番の課題なのでそこを頑張りたいです」と意気込みを伝えた。 写真・秋冨哲生

ダウン症クラス・森下綾子の世界新記録

ダウン症は、パラリンピックにはクラスがないが、知的障害の国際大会であるVirtusグローバルゲームズで2019年から2つのクラスが開催されている。日本でも2021年から日本知的障害者水泳連盟の主催大会で実施されている。

ダウン症クラス・森下綾子(おともだちS)200mバタフライでVirtus世界記録(3分19秒39) 写真・秋冨哲生

知的機能発達の遅れに加え運動機能障害を伴うダウン症は、知的障害の選手と同じクラスで競うことは不利だった。国内でクラスが実施されることで、ダウン症の選手はようやく世界への道が開かれた。

昨年からの世界新記録・アジア記録を樹立した、(左から)森下綾子、芹澤美希香、木下あいらに、日本知的障害者水泳連盟・佐野和生会長(右)よりトロフィーが贈られた。 写真・秋冨哲生

身体障害・聴覚障害の選手の活躍

この大会では、パラリンピックを目指す身体障害(肢体不自由・視覚障害)、デフリンピックを目指す聴覚障害の選手も貴重な公式レースの機会として出場している。

パリパラリンピックに向け順調な窪田幸太

生まれつき左腕に麻痺があり右腕だけで泳ぐ窪田幸太(NTTファイナンス)は、2度目のパラリンピックに出場する。メインの男子100m背泳ぎを1分6秒73の好タイムで泳いだ。

100m背泳ぎ S8に出場した窪田幸太(NTTファイナンス) 写真・秋冨哲生

「狙っていた6秒台がでてよかった。今やっていることをあと2ヶ月弱このままやっていく。2週間後のインクルーシブ大会でまた6秒台を出したい。パリではメダル争いになると思う。しっかりやっていきたい」

大学生で初出場した東京パラリンピックでは5位。社会人となり安定した競技環境を得て練習に励んでいる。昨年は世界選手権(マンチェスター)、アジアパラ(杭州)に出場し競いあう楽しさを満喫している。
6月に入り、オリパラの日本代表が使用できるNTC(ナショナルトレーニングセンター)で合宿生活を送って今大会を迎えた。共に励む日本代表の齊藤元希や木村敬一らとの交流が心地よい時間となっていたようだ。

東京2025デフリンピックを目指す茨隆太郎

感音性難聴の茨隆太郎(SMBC日興証券)は、男子400m個人メドレーに出場。2021年のカシアス・ド・スル(ブラジル)でのデフリンピックで日本選手団の主将を務め、金メダル4つ、銀メダル3つを獲得した。引退を表明していたが、東京2025デフリンピック開催決定を受けて競技に復帰し、再びトップを目指している。

400m個人メドレーを泳ぐ茨隆太郎(SMBC日興証券) 写真・秋冨哲生

パラ水泳が横浜で成長

1998年に開業した横浜国際プールで、2001年から開催される日本知的障害者水泳連盟(佐野和夫会長)主催のこの大会には、毎年300〜400名の障害(知的・身体・デフ)のある選手が出場している。


一方、パラリンピック水泳で日本代表チームを主管するのは、身体障害を統括する日本パラ水泳連盟(河合純一会長)で、1991年に始まった日本パラスポーツ協会と身体・知的・デフの組織が共催する日本最高峰の「ジャパンパラ水泳競技大会」が、2016年より横浜国際プールで開催されるようになった。
このジャパンパラ水泳競技大会は、国内のパラ水泳で唯一、国際大会と同じ予選・決勝形式で行われており、開催まで500日となった東京2025デフリンピックに出場する聴覚障害の選手も含めて、横浜国際プールは世界の舞台へ障害のある選手を送り出す重要な拠点となっている。


<参考>

日本知的障害者水泳連盟HP
https://jsfpid.com/


日本パラ水泳連盟HP
https://paraswim.jp/



日本デフ水泳協会HP

https://www.deafswim.or.jp/

ジャパンパラ水泳公式HP
https://www.parasports.or.jp/japanpara/swimming/

横浜インクルーシブ水泳大会開催案内:7月13日(土)・14日(日)
第3回横浜インクルーシブ水泳へ!パリ出場選手を応援、観戦しよう!

「嘆願書」記者会見記事(7月1日):横浜国際プールの存続を!国際都市横浜で、インクルーシブスポーツ推進の危機
https://www.paraphoto.org/?p=40857

パラフォト「水泳」記事カテゴリー

https://www.paraphoto.org/?cat=82

(校正・地主光太郎)

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