関連カテゴリ: ジャパンパラ, ジャパンパラ水泳, 国内大会, 夏季競技, 新着, 東京パラムーブメント, 横浜, 水泳, 観戦レポート — 公開: 2023年9月19日 at 11:53 PM — 更新: 2023年9月27日 at 10:37 PM

ありがとう、山田拓朗!ラストレース終え選手らによる引退セレモニー。ジャパンパラ水泳最終日

知り・知らせるポイントを100文字で

パリパラリンピック、杭州アジアパラに向けて勢いを見せるジャパンパラ水泳3日目。山田拓朗は、20年になる競技活動にピリオドを打つ。メインの50m自由形には多くの山田を慕うパラスイマーたちが参加し、山田への感謝と労いをこめて泳いだ。

杭州アジアパラ、パリパラへ勢いみせる最終日

横浜国際プールで3日間にわたり開催された「WPS公認ジャパンパラ水泳競技大会」は9月18日、最終日を迎えた。2日目に引き続き南井瑛翔(近畿大学)が大会2つ目のアジア記録を100mバタフライで樹立したほか、日本記録3、大会記録5が更新された。3日間の決勝でアジア新5、日本新12、大会新23がマーク、1年後のパリパラリンピック、1ヶ月後の杭州アジアパラ競技大会に向け日本代表選手が勢いを見せた。

男子100mバタフライS10を終え、アジア記録を更新した南井瑛翔(近畿大学/右)、久保大樹(クボタロジスティクス/左) 写真・秋冨哲生

杭州アジアパラについて上垣匠日本代表監督は「地元開催の中国が圧倒的な力を持っている。我々はチャレンジャーのつもりで世界の壁が中国であることをあらためて認織して、パリにむけて再度そこから学びたい。金メダル20個以上、全体で50個のメダルを目指す」と話した。

そして、この日の50m自由形を最後に20年の競技人生に幕を引く山田拓朗(NTTドコモ)のラストレースがあった。ラストミックスゾーン・インタビュー、大会終了後に行われた、選手らによる引退セレモニーを追った。

山田拓朗の引退

2003年に日本代表として初めてアジアユースパラ(香港)に出場後、アテネ(2004年)、北京(2008年)、ロンドン(2012年)、リオ(2016年)、東京(2021年)とパラリンピック5大会に連続出場し20年間、パラリンピックの成長とともに挑み、リオで銅メダリストとなった山田拓朗(NTTドコモ)が、自身の競技への取り組みにピリオドを打った。
9月1日のFacebookに、「つぎのジャパンパラで引退します」と書き込んだ山田。ついに迎えたラストレースの50m自由形には山田と共に泳ごうと普段より多くの選手がエントリーしていた。

男子50m自由形S9決勝のスタート前の山田拓朗(NTTドコモ) 写真・秋冨哲生

予選はコンバインド(全クラス同時)で行われ、11組、1レーンを全盲の木村敬一(東京ガス)が、8レーンを山田が泳ぎ、木村が大会新記録、山田は27秒10で泳いだ。
決勝はクラスごとに行われ、5組・S9クラスは4レーンを山田が、5レーンを後輩の岡島貫太(日本福祉大学)が泳ぎ、岡島が26秒71の自己ベスト、山田は27秒03でレースを終えた。

男子50m自由形S9、ラストレースで競い合う山田拓朗(奥)と岡島貫太(手前) 写真・秋冨哲生

「記録的にはもう少し早いタイムで泳ぎたかったけど、すべてを出し切った結果だった。岡島選手が自己ベストだったので、よかった。僕がもうちょっと速く泳いでいたらもうちょっと出たかもしれないので申し訳ない」ラストレース後のミックスゾーンに現れた山田はいつものレース後と変わらない冷静な感想で後輩の自己ベストを讃えた。

ーーラストレースの雰囲気は?

「応援の方がたくさんきてくれて、ラストレースでもうちょっと緊張するかなと思ったんですが、緊張というかフワフワした感じでしたね。まあでも、楽しくは泳げた。東京パラリンピックも無観客でしたし、なかなかこれだけの人が自分のレースを見れくれる中でやるっていうこともあまりなかったので、はじめての経験。いままでのレースにはない雰囲気だった」

ラストレースを泳ぎ終え、観客に手を振る山田拓朗 写真・秋冨哲生

ーー引退の経緯は?

「肩と腰の痛みが1年以上消えない。たまに首を痛めて、継続したトレーニングや試合のパフォーマンスが難しくなり、モチベーションの維持も難しくなってきた。シンプルに、体力とモチベーションの限界という感じです」

ーーチームメイトへの想いは?

「彼らは世界レベルで戦える選手なので行けるところまで行ってほしい。僕は競技には出なくなるけど、友達というか友人関係は変わらない。応援していきたいなと思います。アスリート委員会にも入って来年からYouTubeのレース解説担当などで来ることもあると思います」

ラストレース後のミックスゾーンでインタビューに答える山田拓朗 写真・秋冨哲生

ーー鈴木選手が山田選手にいじられないよう頑張るって言ってましたが・・

「鈴木選手は昨日メキシコのCamacho選手に負けて、メダルなしだったってみんなでいじっいたんです(笑)。鈴木選手と代表デビューの同期なので、本当に長く一緒でしたから、みんなが厳しく言えないところを期待も込めて僕が唯一の代表同期として言える。長いですけど、頑張ってほしい」

ーーS9の後輩については

「貫太は今日僕より速かったのでもうあんまり教えることはないですけど。長くやってきて、感覚的に得ていく技術とか教えられるものは惜しみなく伝えていきたい。S9のクラスは世界ランクも派遣標準も高く設定されているので代表になってパラリンピックで勝負する機会を得るハードルが高い。少しでもそういう選手が後輩から出るようにサポートしたい」

男子50m自由形S9表彰式。優勝・岡島貫太(日本福祉大学)、2位・山田拓朗(NTTドコモ)、3位・千葉龍成イーハトーブSC) 写真・秋冨哲生

ーー第2の人生は?

「まだはっきり決まったものはないが、まずは所属の社員として。アスリート委員として。コーチ資格はもってないのでコーチングに関わることはしばらくない。個人的にアドバイスできることはあると思うので、そういった声掛けとか。アスリート委員として大会とかパラ水泳を盛り上げていく取り組みをみんなで考えていきたい」

ーー思い出のレースは?

(少し考えて)
(銅メダルを獲得した)リオのレースは特別嬉しかった。いつもと違うという点では、今日のレースも特別だったと思います。

2016年9月14日、リオパラリンピック50m自由形S9予選4位で決勝進出した山田拓朗選手の泳ぎ 写真・西川準矢

ーー「オリパラの垣根をこえる」取り組みは?

「小さい頃から、人との出会いと運に恵まれ、障害をもって生まれたけどスイミングクラブの選手コースに入って、ずっと健常の世界のトップの人たちとトレーニングを積んできた。パラの世界でそういう道を辿る選手ってすごく少ない。生まれつきの障害ですけど、健常のスイマーたちが辿っていく道を同じようにたどった。他にあまり例がない、この経験はすごく特別だったと思う」

ーー20年間でのパラ水泳の環境の変化は?

「東京パラに向けて急速に変わったが昔は昔のよさがあった。恵まれていないからこそ、選手たちが工夫したりとか、もっともっと活躍したいというハングリーなところも強かった。もちろん環境が良くなれば、高いパフォーマンスが出せる可能性が高いと思いますが、いろいろその時期によって良し悪しはあったと思う。今は本当に昔からは考えられないぐらいいい環境で競技ができているので、それに甘えず与えられた環境で自分の最大のパフォーマンスを出すことを意識してほしい」

 アスリートたちによる山田拓朗引退セレモニー

大会終了後、横浜国際プール正面玄関前の広場では、鈴木孝幸(GOLDWIN)、木村敬一(東京ガス)らが企画した引退セレモニーが行われ「拓朗さん!ありがとう」と書かれたTシャツを着たアスリートや関係者が集まった。胴上げや花束贈呈、Tシャツへのサイン会などが行われ、日が暮れるまで、山田の選手としての最終日をともに過ごした。

山田拓朗の胴上げ 写真・秋冨哲生

「盛大に祝ってもらって、念願の引退ということで、本当にいろんな仲間に支えられて長く競技を続けられました。今日は後輩の貫太が自己ベストを出してくれました。もうあと任せたという気持ちで、気持ちよく引退できるところです。もう二度と泳ぎたくないというくらい、全てを出し切った。悔いなく終わることができたと思います。ありがとうございました」

最終日、山田への思いを込めて50m自由形を泳いだチームメイトたち

鈴木、同期デビューの仲

男子50m自由形S4の表彰式で鈴木孝幸(GOLDWIN) 写真・秋冨哲生

鈴木孝幸(GOLDWIN)は、50m自由形に出場、メキシコから来日した同じクラスのCamacho Angelと競った。
「思ったよりいいタイムが出て良かった。予選を泳いでいる感じより決勝では体がうごき調子がよかった。思い切って腕をまわそうと意識した。ここまでいい状態でレースを迎えることが少ない」とレースの感想を話した後、山田の引退について「彼は同期で、2003年からいろんな国際大会に出場してきた。レースで大会に一緒に参加できないのはさびしいですけど、死ぬわけじゃない。どこでも会える。パラ水泳でできた友達の一人、これからも継続してつきあっていきたい」と話した。またこれからどう泳ぎたいか記者に問われると「山田に笑われないように、いじられないように泳ぎます」

木村「厳しさを一番知る選手」

男子50m自由形S11決勝のスタート前。山田のラストレースに向けあつらえたメッセージTシャツを着た木村敬一(東京ガス) 写真・秋冨哲生

木村敬一(東京ガス)は、50m自由形と100mバタフライに出場、今後この2種目でパリを目指す。「(山田と)予選から同じ組で泳ぐことはなかったので、すごく貴重な機会で嬉しくて、思いっきり泳いだら大会新が出てしまって山田選手より目立ってしまいました。寂しいです。綺麗に世代交代されたし、残された選手として山田選手が作ってきた道をさらに太くしていきたい。パラ水泳の最先端を走ってきたと思う。今でこそ、強豪大学に入るとか、企業がつくとか、有名なコーチが教えてくれるとかいう選手が増えてきましたが、どれをとっても最初を走っていました。国内で競技人口少ないなか、彼はずっと世界と闘ってきた。一番パラ水泳の厳しさを知っていて、彼から水泳の厳しさを教えてもらった。あまりプライベートで遊んだりしないけど、ご飯は一緒に食べてました。水泳はやりきったと思うんで、好きなことをやってほしい。(自分は)山田選手に頑張っているところを見てほしい」と話していた。

富田「障害の特性活かした人間になる、背中をおしてくれた」

男子50m自由形S11決勝のスタート前、(山田の)名前が呼ばれた時から涙がとまらなかったという、富田宇宙(EY Japan) 写真・秋冨哲生

3日目は50m自由形のみに出場した富田宇宙(EY Japan)。競技後、「(自由形の)泳ぎ分けが課題だった。スピードを出す50mではひと掻きで水をたくさんとらえなくてはいけない。400mでは持久力をだす泳ぎで、泳ぎ分けをしていく。アジアパラでは100m平泳ぎ以外のすべてに出場します。5日間、気持ちも体も維持してベストパフォーマンスを絞り出すことが重要になる。練習のレベルをあげて5日間戦い抜きたい」と、アジアパラへの意気込みを語り、続いて山田の引退について思いを語った。
「僕が初めて強化選手になったとき既に山田選手は世界で活躍していた。僕は働きながら水泳をやっていたが、(山田選手は練習に専念し)世界でスイマーとしてインパクトを与えていた。技術も人柄もよく、自分より若いけど尊敬し、憧れていた。彼のように自分の障害を活かして世界で活躍するようなパラリンピアンになりたい、そういう風に僕の背中を押してくれた。同じプールで競い合う機会がないことは寂しい」と、山田が出場するということで50mに出場したと明かした。

<3日目の新記録>
アジア新記録
南井瑛翔(大阪府・近畿大学) 男子100mバタフライS10 59秒84

日本新記録
Camacho・Angel(メキシコ) 男子50m背泳ぎS4 44秒83
田中映伍(神奈川県・個人) 男子50m背泳ぎS5 37秒56
山口尚秀(愛媛県・四国ガス) 男子50m自由形S14 24秒87

大会新記録
星泰雅(東京都・サムディ) 男子50m自由形S15 31秒67
古瀬千秋(埼玉県・JDSA) 女子50m自由形S15 29秒29
石浦朋美(東京都・伊藤忠商事丸紅鉄鋼) 女子50m自由形S11 30秒85
木村敬一(東京都・東京ガス) 男子50mS11 26秒51
木下あいら(大阪府・三菱商事) 女子100mバタフライS14 1分7秒32

<参考>
YouTubeライブ 
2023 ジャパンパラ 水泳競技大会 1日目
2023 ジャパンパラ 水泳競技大会 2日目
2023 ジャパンパラ 水泳競技大会 3日目

大会公式ページ/知って楽しいジャパラガイド
https://www.parasports.or.jp/japanpara/swimming/guide.html

(写真取材・秋冨哲生、校正・そうとめよしえ、地主光太郎)

この記事にコメントする

記事の訂正はこちら(メールソフトが開きます)