公開: 2026年10月13日 at 13時49分 — 更新: 2026年10月13日 at 23時38分

27年目のW杯初出場

知り・知らせるポイントを100文字で

電動車椅子サッカーのW杯「2026 FIPFA ワールドカップ アルゼンチン」が10月17日に開幕。大会には10か国が参加し、日本代表も参戦。永岡真理はこれまで幾多の落選を経て、初のW杯出場を果たす。

もう一人のなでしこジャパンがここにいる
電動車椅子サッカー選手永岡真理を初めて目撃したのは2011年7月16日、なでしこジャパンが世界一に輝く前日だった。同年11月開催のフランスW杯に向けた電動車椅子サッカー日本代表の壮行試合で、彼女は代表側ではなく対戦相手チームの方にいた。
「背後に炎が見えた」ほどの衝撃を受けた筆者は、ほどなく「あなたは今後日本代表に選ばれると思う。4年後のW杯に向けてチャレンジする姿を撮らせてほしい」と伝え、ドキュメンタリー映画「蹴る」の撮影を始め、結果として6年間、彼女に寄り添うことになった。

永岡真理(横浜クラッカーズ)  写真提供・永岡 一男

そして実際、2013年オーストラリアで開催されたAPOカップで彼女は日本代表に選ばれた。電動車椅子サッカーは男女の混成競技だが、日本代表に選ばれた初の女性選手となった。
永岡は「嬉しさはあったけど、半端ない練習をしていたので、当然だとも思いました。練習量は絶対負けなかったですね」と当時を振り返る。
しかしAPOカップ本番では思うように活躍することはできなかった。1対1で絶対負けないという球際の競り合いは彼女のプレーの魅力の一つだったが、大会で転倒が相次いだことで出場時間が激減、チームは優勝したものの決勝では一人だけ出場することが出来ず、「このままではだめだということがわかったことが唯一の収穫」だったという。

(注1)APOカップ=アジア・パシフィック・オセアニアカップ

失意の落選
その後、永岡は、アメリカで新たに開発された電動車椅子サッカー専用マシーンである「ストライクフォース」を日本で2番目に導入し、所属する横浜クラッカーズは全国大会で優勝、ブロック選抜大会(注2)ではMVPを獲得したが、日本開催予定のAPOカップメンバーには選ばれなかった。
「やるべきことをやっての落選。優勝してもMVPをとっても日本代表に落ちるのなら、他に何をしたら良い…」
個人練習では離れた位置から壁に向けてボールを蹴りキックの感触を丁寧に確かめるのが常だが、落選直後の練習では壁際を夢遊病者のように彷徨いボールをこねくり回す姿が見られた。本人は何をしていたのか全く覚えていないという。
「自分がない。落ちたショックが大き過ぎて、自分の考えや軸がどこかにいっちゃった。全部に対して自分がなくなった。何も浮かばない。物事に対して何も思わない」
永岡は、失意の淵をしばらく彷徨うことになる。
しかし大会自体が資金難で中止となった。

W杯は2015年ブラジルでの開催が予定されていたが、ブラジルが返上。2017年にアメリカで開催されることとなった。W杯に向けた代表候補合宿に永岡は選ばれ続けていたが、最終メンバー選考を前に落選。W杯出場はならなかった。

(注2)現在は行われなくなったが、かつて各地区ごとに選抜された選手たちが集い日本一を争っていた。永岡は関東ブロック選抜として出場。

壁際を彷徨う永岡真理  写真提供・映画「蹴る」製作委員会

まさかの落選
次回オーストラリア開催のW杯からはアジア予選が行われることとなり、予選(2019年10月)には選抜された日本代表ではなく、前年の全国大会の優勝・準優勝チームの選手たちが参戦した。永岡の所属する横浜クラッカーズは準優勝、永岡もW杯の出場権獲得に貢献した。
新監督体制となったその後の日本代表候補合宿に永岡は一貫して選ばれ続けた。前回W杯に出場した8名中4名が競技あるいは代表を離れ、他の代表候補選手と比較しても、今回は選ばれる可能性は高いように感じられた。
前述した長編ドキュメンタリー映画「蹴る」では彼女の落選の無念を描いた形となった筆者は、W杯に出場する彼女こそを撮りたいと短編ドキュメンタリーの撮影を続け、誰が選ばれるか勝手に何度もシミュレーションし、間違いなく永岡が選ばれると“期待”ではなく“確信”するに至っていた。

2022年 日本代表候補合宿での永岡真理

コロナ禍のため2023年10月に延期となったW杯に向けた最終メンバー発表は1年前の2022年10月22日、当日は選ばれる瞬間を撮ろうと永岡家でカメラを回しながら発表を待った。しかし結果は落選。
前回W杯の際は落選もある程度予想されたが、この時は本人も筆者も正直驚いた。(筆者に関しては分析能力が低かったと言える)
「何故落ちたのか?」その後、数時間語りあうことになった。

監督や戦術が変われば、選ばれる選手も変わる。サムライブルーもなでしこジャパンも、そして電動車椅子サッカーもそれは同じだ。仮に理不尽だと感じたとしても、現実を受け入れて進んでいくしか選択肢はない。

そしてW杯初出場へ
2026年10月開催のアルゼンチンW杯に向けての日本代表の始動は前年4月の日本代表選考会からだった。新監督は、かつて緻密な采配でレインボー・ソルジャーを何度も優勝へ導いた名越直氏に決まった。永岡の横浜クラッカーズとは長年のライバル関係にあり、クラッカーズの選手のことは熟知している監督でもある。
しかし永岡の母が体調を崩し、「日本代表は厳しいのではないか」と永岡は思っていたという。電動車椅子サッカーは、ことに障害が重い方のPF1の選手にとって、家族やヘルパーの支えが不可欠だ。家族の高齢化による負担増を理由に、代表を退くことを決めた選手も過去にいた。幸い、母の手術は上手くいき「二人で頑張ろうね」と母は娘に声をかけ、永岡は選考会に参加。とんとん拍子でアジア予選の日本代表選手に選ばれた。

2025年 APOカップ W杯アジア予選でニュージーランドの選手と競り合う永岡真理

名越監督は日本代表選手の選考基準として、「この人のこれなら世界で戦える、それをただ見つけただけ」だという。永岡に関しては「1対1のドリブルでの突破力、押し込んでいく力」を評価したという。
代表では、最後尾のGKゴールキーパー(注3)とサイドプレーヤーを担うことになりそうだ。GKの位置では相手と1対1になっても押し返し、押し込んでいく。サイドでも比較的障害の軽いPF2(注4)の選手とも競り合い、中盤からドリブル突破し押し込んでいく。そういったプレーが期待されている。
永岡はチームでは、セットプレーキッカーとして強烈な回転キックでアシストやゴールを量産、あくまで攻撃の選手だ。当初、最後尾のポジションをやることに対して、抵抗感があったという。だが「前でやりたいと言えば、自分が選ばれる確率がグンと下がる。まずは代表メンバーに入ることを最優先に考えて、監督が必要なポジションを引き受けるしかない」と思ったという。
アジア予選からは2人の選手が入れ替わったが、永岡はW杯最終メンバーに選ばれた。その感想を問うと、「長かった…」の一言が返ってきた。
「これまで落ちたりとかいろんなことがあったから。ここで自分を救わないと。この遠征は自分を救いに行く旅なんで」
永岡が最初に日本代表に選出されたのは2013年1月のAPOカップ、4大会連続出場する塩入新也を除けば、他の6名はいずれもその後に代表選出された選手たちだ。
そんな選手たちのなかで永岡のみが初出場、電動車椅子サッカーを始めてから27年目のW杯初出場となる。

2026年9月 W杯前の最終合宿での 17 永岡真理

だが最後に高いハードルが立ちはだかっていた。
フライト中に酸素供給が必要な永岡は、医療用酸素濃縮器は確保できたものの、フライト時間に対応したバッテリーが足りないという事態に陥る。2度のトランジットを経てアルゼンチンのブエノスアイレスへ向かうため、多くのバッテリーが必要となるのだ。
代表に選ばれてもアルゼンチンに行けないのでないかという不安にさいなまれたが、メーカーを含め国内外の関係事業者へ協力を依頼し、なんとかバッテリーを確保することができて、アルゼンチンへの渡航の目途がたった。
もちろん、ハードな渡航であることに変わりはなく、各選手ともコンディションを良好に保ち大会を向かえることが重要となる。

(注3)ゴールエリア内はGKユニフォームを着た選手ともう一人の選手で守ることになるが、最後尾の選手がGKユニフォームを着ているとは限らず、前目のセンターの選手が着ていることもある。
(注4)電動車椅子サッカーのクラス分けはPF1とPF2。PF2の選手は同時に2名迄しか出場できない。

他のメンバーたち
アルゼンチンに向かうのは8名の日本代表選手たち。いずれも「これなら世界で戦える」特徴を持った選手たちが選ばれた。1対1のドリブル力、パスの精度やキック力、バランス力、指示する力や相手の隙を見つける高いサッカーIQ、強く速い正確な横蹴り、強く速い正確な回転、ドリブルの推進力、切り返して抜いていく能力、そういった個の能力を光らせるように、名越直監督がうまくチーム4人のバランスを整えていく。

永岡と同じPF1の選手は内橋翠、山田貴大、塩入新也の3名。
内橋翠は2017年アメリカ大会で女性選手として初めてW杯に出場、それ以来の選出となった。9月に行われた壮行試合ではキックイン等からのアシストを何度も記録。「(地球の裏側までの渡航が)大変だと思っているんで、みんなで安全に行って安全に帰ることが一番。プラス試合も頑張るっていうとこかな」と気負わず語った。

2大会ぶりのW杯出場 8 内橋翠(レインボー・ソルジャー)

山田貴大は前回2023年オーストラリア大会に続き2度目の選出。前回大会では体調を崩して以後、試合に出場できなかった。「悔しい思いをした 2023年の雪辱と、それ以上に自分の武器っていうのを伸ばしてきたつもりでいるので、アルゼンチンで点を取って活躍したい」と意気込みを語る。

2大会連続W杯出場 11 山田貴大(レッドイーグルス兵庫)

塩入新也はアジア予選には選出されず、その後招集され、今大会で4大会連続出場となる。「立ち位置的には一番ベテランになるので、チーム全体を見て気付いたことを伝えたり、チームに貢献していきたい。プレー面では攻守のバランスを見ながら、全力でプレーしていくようなイメージで今大会は臨みたい」という。
永岡と塩入の2人が最後尾のポジションを務めることが多くなりそうだ。

4大会連続W杯出場 9 塩入新也(ナンチェスターユナイテッド鹿児島)

比較的障害の軽いPF2の選手は池田恵助、平西一斗、内海恭平、そしてキャプテンの三上勇輝。 
PF2の選手は同時に2名迄しか出場できず前回大会はGKを含めたセンターラインをPF2の選手が担っていたが、今大会は前から相手を押し込んでいく展開になりそうだ。
2回目のW杯出場となる池田恵助は「元々は守備の要として入ったと思うんですが、今回は攻撃のポジションで使ってもらっている。中盤の強さという自分の強みを生かせると思う。
前回の 7位は納得のいく結果ではない。しっかりと形を作りチームも力をつけてきたので、ベスト4は全然夢じゃない」と語る。

2大会連続W杯出場 73 池田恵助(DKFBC ディスカバリー)

池田と名古屋のチームでともにプレーする平西一斗も2大会連続の出場となる。前回大会の7位という悔しい結果を受けて「選手もいろいろ感じるものがあってプレー面でレベルアップしたり、マシンを改善したりしてきた。名越ジャパンに変わって、そこからある程度形を決めて戦うというサッカーを作ってきた。この場面では何をやるのかシーンごとに分けてみんなで話し合って、こうだったらこうというようなバリエーションを作りながら週二回のミーティングを積み重ねてきた。悔しさをバネに良い結果が出せるように、みんなで一丸となって頑張りたい」という。
若くして亡くなった大阪ローリングタートル中村浩之・祐太兄弟の背番号4と7を合わせた47を背負って大会に臨む。

2大会連続W杯出場 47 平西一斗(DKFBCディスカバリー)

内海恭平は前回大会のキャプテンだったが、アジア予選では選出されなかった。
「出場できる試合数は限られると思うんですけど、試合に出なくてもチームのためにやれることはあると思うので、そのために呼ばれたというのもあると思っているので、精一杯やりたい」と語る。
内海も平西と同様に、中村祐太・浩之兄弟の背番号7と4を合わせた74を背負う。 

3大会連続W杯出場 74 内海恭平(レッドイーグルス兵庫)

今大会のキャプテンは3大会連続出場となった三上勇輝。
「名越監督は選手の良さをすごく分かっていて、その組み合わせをすごく意識してやっている。すごく細かい部分もチームとしての決まり事を決めているので、選手は迷わないようなチームになっています。選手と監督で決めた戦術を出し切ることができると思っています。楽な戦いはないと思うので個々の良さを出しながら一丸となって、まずはベスト4を目指して、一戦一戦全力で戦って最高の結果を出せるように頑張っていきたい」とW杯へ向けての思いを語った。

3大会連続W杯出場 7 キャプテン 三上勇輝(FCクラッシャーズ)

第5回電動車椅子サッカーW杯アルゼンチン大会には、10か国が参加。総当たりのリーグ戦を行い、上位4チームが準決勝に進出、5~8位は下位トーナメントに回る。
日本の初戦の相手はウルグアイ。キックオフは日本時間の10月18日午前6:00。
第2戦以下の日程は以下(時間はいずれも日本時間)
第2戦 フランス   18日 22:00
第3戦 イタリア   19日 2:30
第4戦 イングランド 19日 22:00
第5戦 ベルギー   20日 2:30
第6戦 アルゼンチン 20日 23:30
第7戦 デンマーク  21日 4:00 
第8戦 アメリカ   22日 1:00
第9戦 オーストラリア 22日 4:00 

準決勝1位vs 4位 23日 2:30
準決勝 2位 vs 3位 23日 4:00
決勝 24日 3:00
いずれもYoutubeでの配信が予定されている。
https://www.youtube.com/@OfficialFIPFA

大会の詳細は、日本電動車椅子サッカー協会の特設ページを参照。
https://www.web-jpfa.jp/japan/wc2026/

尚、日本電動車椅子サッカー協会はクラウドファンディング「世界で戦い、日本の未来へつなぐ。電動車椅子サッカー日本代表、W杯世界一への挑戦」で支援を募っている。
https://camp-fire.jp/projects/962336/view

アルゼンチンへ向かう日本選手団

(校正・佐々木延江)

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