関連カテゴリ: DUBAI 2019 WPA, 取材者の視点, 国際大会, 地域, 夏季競技, 東京パラムーブメント, 陸上 — 公開: 2019年11月13日 at 7:51 PM — 更新: 2019年11月17日 at 12:45 PM

両足義足の世界最速スプリンターが誕生!ドバイ2019パラ陸上世界選手権

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写真中央・男子100mT64で金メダルを獲得したヨハネス・フロア(FLOORS Johannes/T62・ドイツ) 写真・安藤理智

24歳のブレードランナーが新たな歴史を刻んだ。「ドバイ2019世界パラ陸上競技選手権大会」5日目の11月11日(月)、男子100mT64の決勝が行われ、両足義足のヨハネス・フロア(FLOORS Johannes/T62・ドイツ)が優勝。片足義足の選手を抜いて、世界新記録を打ち立てた。

驚異の10秒54

前日に行われた予選は、観客の度肝を抜くレースだった。競技用義足(ブレード)を用いて走る下肢切断の部T64レースには、T44、62、64クラスの選手が出場。T44やT64の片足義足の選手たちが勢ぞろいする中、障害の重いT62・両足義足ランナーとして出場したフロアは、驚異の世界新記録・10秒54でフィニッシュ。翌日に行われた決勝レースでも世界記録に迫る10秒60をマークし、金メダルを獲得した。

レース後、フロアは「今回の結果は自分に自信を与えてくれました。これまで両足のない人でこのタイムを出した人はいない。素晴らしい結果」と喜びを語った。今年6月に自身が刻んだ10秒66をさらに塗り替え、世界最速ブレードランナーの地位を確立した。

写真右・隣の3レーンを走った井谷俊介(SMBC日興証券)についてフロアは「彼は以前に比べ速くなっていますね。うまくいけば東京でメダルがとれるかもしれない」とエールを送った。 写真・安藤理智

鍵は後半の伸び

義足ランナーのトラック競技においては、スタートダッシュの瞬発力や安定性を課題に挙げる選手が少なくない。フロア自身も「私の場合、確かにスタートは不利かもしれません。でも自分の良い部分を活かすだけです」と語った。では「良い部分」とは何か。レースの特徴として挙げられるのが、後半からの加速だ。同レースを走った日本の井谷俊介(SMBC日興証券)も「フロア選手の後半からの伸びに驚いた」と語っている。

カーボンで作られたブレードは、板バネの反力やたわみを利用して推進力を出す。この推進力を味方につけるためには、義足を身体に馴染ませ、自在にコントロールする技術が必要だ。「2013年頃からですね。週に30時間の練習を積みました。ブレードを履くのは1日に数時間が限界ですから、ぎりぎりのところ」。フロアの努力が垣間見えた。

6歳のとき自ら切断を決意したフロア。「両足義足で走れることは私の誇り。16歳の私に教えてあげたいです」と語った。 写真・安藤理智
先天性の下肢障害で16歳のとき自ら切断を決意したフロア。「両足義足で走れることは私の誇り。16歳の私に教えてあげたいです」と語った。 写真・安藤理智

東京舞台に世界最速へ

今大会で世界最速王者になったフロア。次はいよいよ東京パラリンピックだ。来年への意気込みを聞かれると「10秒54が終わりだとは思っていません。9秒台を出しますとはまだ言えないですけど」と笑顔で語る。世界最速スプリンターは来年東京で、また驚きの記録を見せてくれるかもしれない。

(取材協力・吉田直人、校正・佐々木延江)

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