
チームの力を結集したメドレーリレー

日本男子は茨、金持義和(メルカリ)、星泰雅(サムティ)ら主力選手が3位の座を堅守してアンカー村岡翼輝(Lumiere de vie整体院)へ引き継ぎ、銅メダルを獲得した。男子チームにとってトルコ(2017年)、ブラジル(2021年)に続くデフリンピック3大会連続のメダル獲得となった。「全員の力を合わせる」ことを目標に取り組んできた結果、銅メダルにつながったと振り返り、「この4人の仲間の力で取ることができた」と感謝の意を述べた。

優勝はアメリカチーム。主柱であるTITUS Marcus Jはオリンピック出場にチャレンジを続けるチャンピオンだ。リレーを終えたTITUSは「レース6日目で多くの種目に出場しました。ここまで来られたことを誇りに思いますし、このレースには本当に満足しています。1位を獲得して安堵しています」と感想を述べている。

一方、日本女子は男子とともに銅メダルを獲得した。チームは3位を目標にしてきたので、達成できたことに喜びを感じていた。3泳目のバタフライを担当した齋藤京香(CPAエクセレントパートナーズ)は、ベテランの力を発揮し、2位に迫る順位で平林花香(上宮高等学校)にバトンを渡すなど、若手選手を牽引する活躍を見せた。選手らは、他国のフリーリレーのレベルが高いことに懸念を抱きつつも、力を出し切った結果、メダル獲得につながったと語り、応援してくれた人々やチームメンバーへの感謝を表明していた。

中東、女子200m背泳ぎ・8位入賞。競技を終えて
最終日の女子200m背泳ぎ予選8位で決勝に進出、8位入賞を果たした中東郁葉(サムティ)は、デフリンピックに2回出場経験がある。今大会は7種目中5種目で決勝に進出した。特に400m個人メドレーでは自己ベストを3秒も更新し、最高順位である5位という結果を残した。中東は「4年後のデフリンピックでは、確実にメダルを取れる圏内に入れるように練習を積み重ねていきたい」と目標を掲げた。


また、中東には、自国開催の感想を聞くことができた。まず「たくさんの知り合いや家族に応援していただけたのがすごく楽しかったです」また「今大会は、ハイレベルな選手が増加していることを改めて知る機会となりました。日本での開催を通じてデフリンピックの存在や、目で見える応援方法、手話によるコミュニケーションの様子などが多くの人々に知られるきっかけとなり、デフスポーツのさらなる発展につながって欲しい」と期待を寄せた。

東京2020オリンピック・パラリンピックと同じ会場での競技については「今までの世界大会の中で一番大きい会場で、設備が整ったきれいな会場」だと海外選手からも評価されていることを語った。
「海外の選手たちも、日本の食事を楽しんだり、東京などの観光を楽しんでいる様子でした。背中に「ドイツ」とカタカナで書かれたTシャツを着ている人がいるなど、日本開催に合わせた観客の工夫が見られ、選手たちは応援の雰囲気から力を得ていました」と様子を伝えてくれた。

自国で開催されたデフリンピックを通じて、日本選手たちは自らの実力の再確認や、世界レベルの速さを実感した。多くが今後さらなる飛躍に向けて練習に取り組む決意を新たにしたようである。
茨、日本人最多の26個目のメダル更新。競技を終えて
日本選手最多メダル記録を更新した茨隆太郎(SMBC日興証券)は、リレーの他に個人種目最後のレースである男子200mバタフライを泳ぎ銀メダルを獲得。自身の持つ通算のメダル数を26個とした。

2日連続でライバルのSKOSYRSKIII Stepan Anatolyevich(NDA)に敗れる形となった茨は、1日に複数種目に出場しながら金メダルを獲得。過酷な日程の中で試合後もドーピング検査を連日受けていたため寝不足が続いた日々だったという。

リレーのインタビューで、帰宅したら「まずはとにかく寝る時間を作りたい」と話していた。あらためて、最後に、茨にとって「デフリンピックとは」「水泳競技とは」について聞いてみた。以下は、ラストインタビューである。
ーーデフリンピックでの海外選手との交流は?
試合の始まる前は自分の競技に集中したいという気持ちがあり、実はあまり交流はしませんでした。ただデフリンピックでは、ろう同士手話でお互いに仲間としてのんびりコミュニケーションができ、一緒に頑張れる。そんなところだと思います。
ーー(茨選手にとって)デフリンピックとは?
競技は疲れましたが、楽しめました。僕のなかでデフリンピックは・・普段の試合は、聞こえる人たちのなかで参加することもあり、聞こえるなかではよく周りを見て試合に挑まなければなりません。呼ばれても聞こえないから、自分でコースを確認しながらやるのでなかなか集中できないんです。一方デフリンピックの場合、視覚的な情報があるのでやりやすく、集中して競技ができる環境があります。競技について仲間といろいろ議論したり、考えることもできます。

ーー(茨選手にとって)水泳という、競技とは?
人生の一部。水泳がなかったら今の私はない、そういうものです。常に練習をささえてくれた仲間、大学でともに練習してきた生徒、一人だけではできません。妻や息子が心の支えでやってきたことでもあります。自分一人ではなく、支えてもらってやってきたことです。

ーーありがとうございました。
デフリンピック水泳競技は、手話をメイン言語とするアスリートたちが静寂の中で、自己ベストとメダルを目指していた。その情熱と努力が、水面を打つ波紋となり、観客の心に響く。そんなドラマを繰り広げてくれた。
メダルはそんな彼らが国境を越えて力を合わせた証である。今回はそのドラマの舞台が東京2020オリンピック・パラリンピック(2021年)の水泳競技と同じ会場で、世界中から集う聞こえない・聞こえづらい選手が集中した時間と努力の成果を分かち合う機会となった。

(写真取材・川村翼、秋冨哲生、校正・田中綾子)






