
2026年2月15日、長野県・菅平高原パインピークスキー場で「2026ジャパンパラアルペンスキー競技大会」が開幕した。3月6日に開幕を控えるミラノ・コルティナダンペッツォ冬季パラリンピック(以下、ミラノ・コルティナ)に向けた国内最後の実戦機会。初日は大回転(GS)が行われ、気温の上昇により雪面が緩む「ザブザブ」としたコンディションにより1時間前倒しとなる中、日本代表選手たちが調整の成果を見せた。

森井大輝、長渕剛の楽曲の「レース」の歌詞に心境を重ねる。「見えない力が引っ張る」
男子座位クラスでは、日本のレジェンド・森井大輝(トヨタ自動車)が2本の合計タイム2分03秒55をマークし、2位の鈴木猛史(カヤバ)に4秒以上の差をつけて優勝を飾った。
■「自分の限界を受け止めてくれるマシン」
慣れた菅平のコースでの勝利の背景には、長い歳月をかけた苦闘と進化があった。平昌パラリンピック(2018年)以降、トヨタ自動車と共にチェアスキー開発に着手。北京大会を経て、試行錯誤の末、ようやく「自分の限界を受け止めてくれるマシン」が完成したという。この日もセッティングが決まり、「チェアスキーとリンクしていくような感覚があって、楽しい。1日でも1本でも多く滑りたい」と語るほど、道具と身体が完全にシンクロする領域に達していた。
■「まさに、これからだ」
そんな森井だが2025年4月、ミラノ・コルティナを最後に第一線から退く意向を表明していた。かつて鈴木猛史、北京大会で引退した狩野亮らと共に「世界最強のチェアスキー集団」を築き上げた45歳はミラノ・コルティナへのシーズンを経て「自分自身に負け続けた(孤独な)闘い」を経て、ようやく『限界を受け止めるマシン』が完成した。「まさに、これからだ」「スタートラインに立った気がする」と語っていた。
■長渕剛『レース』が映し出した「孤独な戦い」
森井は今シーズンのワールドカップの高速系種目で「自分自身に負けた」と落ち込んだという。 パラリンピックで5大会連続メダルを獲得しながらも「金」には届かなかった。常に世界の頂点と自分との距離を測り続けてきた森井にとって、長渕剛の曲が描くレーサーの孤独や張り詰めた心理描写は、まさに自身の心の叫びそのものだった。長く勝てない(金メダルが’取れない)苦しみの中で、彼は常に「自分との闘い」という孤独なレースを続けてきたのだろう。
森井にとってこの曲は、パラリンピック直前の重要な時期に、自身の弱さと向き合い、再び闘志を奮い立たせるための「鏡」のような存在になった。
■「車が運転できるようになるまでは頼みます」——次世代へのまなざし

自身のパフォーマンスを追求する一方で、森井の視線は常に次世代の育成にも向けられている。 この日の朝、森井は育成選手に「見どころがある」と声をかけ、その側にいた選手の父に「(選手が自分で)車が運転できるようになるまでは、よろしく頼みます」と頭を下げた。 世界と戦う楽しさを共有し、新たな選手が自分を超えていくこと心から願う森井は、家族の支えが不可欠であることを誰よりも知っていた。「最強集団」のDNAは、選手どうしの絆から受け継がれようとしている。
女子のエース・村岡桃佳は欠場「金メダルへのリスク管理」
一方、女子座位のエース・村岡桃佳(トヨタ自動車)は今大会を欠場した。石井沙織アルペン委員長(ハイパフォーマンスディレクター)によると、村岡は2月10日に雪上復帰を果たしたが、ポールを滑る段階には至っていないため、リスク回避の決断を下したという。 しかし、悲観的な空気はない。「一番のゴールはミラノ・コルティナ。本人はGSでの金メダルを強く意識している」と石井委員長は語り、本番でのピーク合わせに集中する姿勢を強調した。
立位勢も本番を見据えた滑り

女子立位で優勝した本堂杏実(コーセー)は、緩んだ雪質について「コルティナに近い雪で滑ることができた」と前向きに捉えていた。課題としていた右外足のターンを確認。「パラリンピックに向けて気持ちを上げていきたい」と意気込んだ。

男子立位2位の小池岳太(JTBコミュニケーションデザイン)は、地元長野でのレースで優勝を逃し悔しさを滲ませたが、「ギリギリまで成長を続ければトップと戦える」と前を向いた。
大会は明日16日に回転(SL)が行われる。森井と鈴木猛史のライバル対決、そして各選手がパラリンピックへ向けてどのような最終調整を見せるか注目が集まる。
1日目の競技結果
【大回転(GS)】
■男子
(立位)
1位 髙橋 幸平(株式会社コムニコ、LW9-2) 2分09秒83
(1st RUN:1位 1分05秒38/2nd RUN:1位 1分04秒45)
2位 小池 岳太(株式会社JTBコミュニケーションデザイン、LW6/8-1) 2分11秒61
(1st RUN:2位 1分06秒59/2nd RUN:2位 1分05秒02)
3位 井上 正紀(山形県、LW4) 2分49秒91
(1st RUN:4位 1分26秒50/2nd RUN:3位 1分23秒41)
(座位)
1位 森井 大輝(トヨタ自動車株式会社、LW11) 2分03秒55
(1st RUN:1位 1分01秒30/2nd RUN:1位 1分02秒25)
2位 鈴木 猛史(カヤバ株式会社、LW12-2) 2分08秒12
(1st RUN:2位 1分04秒39/2nd RUN:2位 1分03秒73)
3位 藤原 哲(株式会社コロンビアスポーツウェアジャパン、LW11) 2分17秒73
(1st RUN:3位 1分09秒04/2nd RUN:3位 1分08秒69)
(ID)
1位 金澤 碧詩 2分17秒35
(1st RUN:1位 1分09秒06、2nd RUN:1位 1分08秒29)
2位 平野井 渉(株式会社ローソンウィル) 2分30秒41
(1st RUN:3位 1分15秒85、2nd RUN:2位 1分14秒56)
3位 三浦 良太(株式会社リキ電業) 2分31秒35
(1st RUN:2位 1分14秒83、2nd RUN:4位 1分16秒52)
■女子
(立位)
1位 本堂 杏実(株式会社コーセー、LW6/8-2) 2分19秒79
(1st RUN:1位 1分10秒95/2nd RUN:1位 1分08秒84)
(ID)
1位 馬場 圭美(株式会社ProVision) 2分46秒90
(1st RUN:1位 1分24秒04/2nd RUN:1位 1分22秒86)
2位 浅野 陽香(東京都立練馬特別支援学校) 2分57秒12
(1st RUN:2位 1分27秒74/2nd RUN:2位 1分29秒38)

(校正・そうとめよしえ、比嘉優樹)






