
「大敗からの再出発」
2026年2月1日、神奈川県・等々力球場。知的障害者ソフトボールの新たな全国大会「ハンズホールディングス CUP 2025」の初戦。兵庫県代表の「Blue Oceans(ブルーオーシャンズ)兵庫」は、強豪「オール宮城ソフトボールクラブ」に対し「0-14」という大差で敗れた。
スコアボードに刻まれた数字だけを見れば、完敗かもしれない。しかし、このチームがこの場所に立っていること自体が、ひとつの「奇跡」であり、新たな航海の始まりである。2024年11月、チームは20人いた部員のうち13人が一斉に退部するという、存続の危機に瀕していた。

そこから這い上がり、9割が初心者というメンバーで挑んだ初の全国大会だった。一回戦敗退のなか、藤田純一監督と選手たちが見つめる景色、そして彼らを支える新たな「追い風」についてレポートする。
チーム崩壊の危機と、予期せぬ「救世主」
Blue Oceans兵庫は、2016年の「全国障害者スポーツ大会(岩手県)」で準優勝を果たした藤田純一監督と特別支援学校の選手たちが、卒業後もプレーできる場を求めて2020年に設立されたクラブチームだ。順調に見えた活動に激震が走ったのは、2024年11月のこと。「土日にプライベートな時間を持ちたい」「監督の情熱についていけない」といった理由で、過半数のメンバーが去っていった。

試合はおろか練習さえままならない人数となり、解散も頭をよぎった。しかし、7人のメンバーが「それでもソフトボールをやりたい」と踏みとどまり、藤田監督の妻からの「やるならとことんやりなさい」という言葉が背中を押した。そしてもう一つ、チームの再起を決定づけたのが、神戸市が進める部活動改革「KOBEKATSU(コベカツ)」だった。
本来、「部活動の地域移行」は教員の働き方改革や少子化対策として中学生を対象にした制度だ。しかし藤田監督はこの枠組みに着目し、年齢を問わず参加できる登録団体としての認可を獲得した。これにより、2026年9月から神戸市内の中学校グラウンドを「ホームグラウンド」として使用できる見通しが立った。部員不足と練習場所の確保。パラスポーツチームが抱える2つの課題を、地域の公的な枠組みへの参画によって解決する──それはまさに、チームにとっての「光明」となった。
全国レベルの洗礼と、見つけた「徹底」
そうして迎えた2026年2月1日、ついにBlue Oceans兵庫は第1回ハンズホールディングスCUPの土を踏んだ。相手は前年の東日本・西日本大会の強豪たちだ。
結果は0-14。1回戦敗退であった。全国の壁は厚かった。試合後、かつて藤田監督と国体準優勝した経験のある吉田昂志キャプテンは「やっぱりノックとは違う。実際に打ってくる打球のスピンや速さに、空気に飲まれて体が動かない選手もいた」と唇を噛んだ。打撃でも相手投手の球威に差し込まれ、自分たちのスイングをさせてもらえなかった。

しかし、藤田監督の表情に悲壮感はない。 「点差が開いても最後まで諦めない姿勢。特に守備でアウトを取った際、全員で声を出しピッチャーを盛り上げるという『徹底』はできていた」と。 技術面では発展途上でも、チームとして戦う姿勢は崩れなかった。大敗という現実は、9割が初心者からスタートしたいわば新生チームにとって、これからの「伸びしろ」を確認するための現在地確認に過ぎない。
広がる「夢」の選択肢:コベカツから日の丸へ
今、知的障がい者ソフトボールを取り巻く環境は大きく変わろうとしている。かつては、年に一度の「全国障害者スポーツ大会(国体)」だけが唯一の晴れ舞台だった。予選で敗退すれば、その年の目標は消滅してしまう。しかし、民間企業が主管するこの「ハンズホールディングス CUP」が生まれたことで、選手たちは年間を通じてモチベーションを維持し、全国規模の交流が可能になった。

さらに藤田監督の視線は、その先にある「オールジャパン(日本代表)」を見据えている。現在、障がい者ソフトボール連盟主導でナショナルチームを結成し、オーストラリア代表との国際交流試合を行う計画が進んでいるという。「選手一人ひとりが日の丸を背負う目標を持てれば、モチベーションが全然違う。チームからもJAPANのユニフォームを着る選手を輩出したい」
地域に根ざした「コベカツ」で仲間を増やし、新たな「全国大会」で腕を磨き、やがては「世界」へ漕ぎ出す。Blue Oceans兵庫の活動は、多様な仲間が集まる地域のスポーツクラブが、世界への扉になり得る可能性を示している。
生きがいと夢を共有したい
インタビューの最後、藤田監督は去っていった13人の部員たちへの思いを口にした。「自分の伝え方が悪かったと反省している。彼らには『またやりたくなったらいつでも戻ってきていいよ』と伝えました。彼らの活動も陰ながら応援しています」と。

まずはソフトボールを「生きがい」として楽しみ、社会の中で堂々と生きていく自信を育むこと。それが藤田監督の根底にある願いだ。一方で、「みんなで練習して勝つことを知ることで、違う景色をみてほしい」と、夢を共有することの楽しさを提示してチームを引っ張るのも、また藤田監督らしさなのだ。
「Blue Oceans(未開拓の市場・青い海)」の名が示す通り、チームの目の前には、誰も見たことのない可能性の大海原が広がっている。大敗からの再出発。その航海は、まだ始まったばかりだ。
(写真提供・Blue Oceans兵庫)






