ボッチャ, 取材者の視点, 電動車いすサッカー — 2020年1月16日 at 2:48 AM

電動車椅子サッカーからボッチャへ ~ 有田正行パラリンピックへの挑戦

そしていよいよ高橋和樹との対戦

【準決勝 高橋和樹(赤球) – 有田正行(青球)】
 そしていよいよ準決勝、前日練習で入念にチェックした第4コートでの試合。対戦相手は想定通り、ボッチャの世界にいざなってくれた高橋和樹である。(アシスタントは、高橋の介助も行いボッチャに専念している峠田佑志郎さん)。2年前に日本選手権の予選リーグで一度勝ったことはあるものの、その他の大会や練習でもほとんど勝ったことがない。前年の大会では惨敗も喫した。だが、パラリンピック出場のためにはこの壁を越えなくてはならない。そのために綿密な準備もしてきた。前日と異なり、昼食にはスプーン3杯の雑炊も口にした。

準決勝 有田と高橋和樹(右)の対戦

 第1エンド先攻は高橋。いつもの位置、コート手前のV字をやや出た2mの地点にジャックボールを置き赤球を完璧な位置に寄せた。有田はその赤球を固いウルトラハードでずらし2投目をジャックに寄せる。高橋がその青球をはじいた後の3投目、ここぞという勝負所で使用するスーパーソフト(最も柔らかいボール)を投じるがショート、わずかに寄せきれない。大会を通じてスーパーソフトの調子が悪く、高橋は距離に迷いが生じていた。依然としてジャックボールに一番近いニアボールは有田の青球。その後、高橋は5投目までを投じやっとニアボールが赤球に。高橋にとっては3投目のミスが尾を引き予定外の球数を費やしてしまった。
 チャンスを迎えた有田の3投目、しかしジャックの前に高橋が赤球3球の壁を築いており、決して簡単な局面ではない。ヒットし、はじくだけではなくボールをジャック付近に残したいと考えた有田は、固めのボールではなくやや柔らかめのソフトミディアムを選択。ランプ3段上部170cmほどの高さからリリースされた青球は、手前の高橋の赤球にヒットし、さらに奥の赤球も飛び越えピタリとジャックボール左に収まるスーパーショット。この投球が効いて有田は第1エンドで3点を先制した。

準決勝第1エンド 有田の3投目

 続く第2エンド、有田はボッチャの常識に反するようなプレーを繰り出す。わざとジャックボールを無効エリアへ転がし相手に先攻の権利を与えたのだ。通常は先攻の選手が自分の得意な位置にジャックボールを置き、先手先手で優位に試合を進めようとする。敢えて相手に委ねる作戦は10ヶ月前から考えてきた。思いついたときは周囲から「そんなことやるやつは聞いた事がない。馬鹿じゃないの」と笑われた。だが有田は本気だった。
 しかし高橋はジャックボールを第1エンドと全く同じ位置に置き、冷静にプレーを再開する。もちろんそのことも有田は織り込み済み、計算済みだ。相手のスローイングボックスへ体を反り狙いを定めることが出来る高橋は、自分の目の前の位置を勝負のエリアに選んできた。一方、筋疾患系のSMA(脊髄性筋萎縮症)である有田は上体をそらすことができないため、むしろ相手の正面にジャックボールがあるほうがプレーしやすい。そこは互いのメリットがぶつかり合うガチンコ勝負のエリアでもあった。

準決勝 体を反らせて狙いを定める高橋(右) 

 高橋は2投目でウルトラハードを使い有田の青球をはじき飛ばし、次の3投目でスーパーソフトを見事にコントロール、第1エンドとは違いジャックボールにピタリと寄せた。残りの球数に余裕を持てた高橋がこのエンド2点を返し、逆に1点差に追い上げる。
 第3エンド、先攻の高橋が投じたジャックボールは第1、第2エンドと全く同じ位置。その後、1投ごとに局面が変わる息詰まる展開が続く。有田は5投目でウルトラハードを最上段から転がし高橋の赤球にヒットしはじき出し、最後まで取っておいたスーパーソフトをピタリと寄せる。高橋の6投目は距離感を掴めずショート。有田が1ポイントを奪い4-2
と差を広げた。
 最終エンドは有田の先攻、再びジャックボールを無効エリアへ転がし攻めの姿勢を貫く。4つのエンド全て高橋の前で、同じシチュエーションで勝負するのが有田の作戦だった。そして有田の思惑通り高橋はいつもの、その位置にジャックボールを置いた。高橋が5投目を投じた後の有田の4投目、ウルトラハードを使いジャック手前の赤球をわずかに右にずらす。ジャックと赤球の間隔はわずかボール1個分、有田はその狭い隙間へ狙い通りスーパーソフトの青球をねじ込む。リードされている高橋は最低でも2ポイントを取らなくてはならないが、残されたのは最後の1投のみ。ジャックを奥に動かし、ニアボールは赤球になったが1点しか奪えず、有田を上回ることは出来なかった。
 呆然自失の高橋。有田は加えていた呼吸器から口を離し、笑みがこぼれる。千穂も有田にガッツポーズ。有田正行が難敵高橋和樹を4-3で破った。
「何としてでも私を倒す。有田さんの何としてでも勝つという気持ちと、それに合わせて練習してきたことは、尊敬というか、凄いなと思いました」と語る高橋にとっては、もっとも柔らかく、ここぞという時の武器にもなるスーパーソフトの距離感がうまく掴めないままでの敗戦となった。手で投げるわけではないBC3選手には不可欠なボールだが、距離にばらつきが出たり、曲がったり曲がらなかったりするなど、とてもナイーブで扱いにくい。移動中には中身が片寄ってしまいアシスタントがボールを丸め作り直さなくてはならない。だがいったんジャックボールの手前に置いてしまえば、相手ボールの威力も吸収し動かしにくいボールとなる。
 
 決勝進出を果たした有田は、翌年の代表強化指定が決まった。しかしパラリンピック出場のためには翌日の決勝に勝ち、優勝するしかなかった。
「あと1勝して、パラに出ます」
 力強く有田は語った。

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