Tokyo 2020, 取材者の視点, 夏季競技, 柔道 — 2021年9月4日 at 8:14 PM

柔道男子 最終日はイラン勢が2階級で同国初金! 2つの”史上初”が生まれ、熱戦に幕

8月24日から開幕し、各地で熱戦が繰り広げられている東京2020パラリンピック(以下、東京大会)。8月27日には柔道が開幕。29日までの3日間、日本武道館を舞台に開催された。

最終日は、女子70kg級 / 女子70kg超級 / 男子90kg級 / 男子100kg級 / 男子100kg超級の5階級が行われた。

本記事では、女子編に続き、男子編をお送りする。

男子100kg級 決勝戦の様子 写真・山下元気

男子90kg級は、イランのバヒド・ヌーリが金

男子90kg級の決勝は、バヒド・ヌーリ(B3:イラン・イスラム共和国)とエリオット・スチュアート(B3:イギリス)のともにパラリンピック初出場同士の対戦に。

開始1分57秒で、ヌーリが内股を決め一本勝ちとなった。イランのパラリンピック柔道では、100kg超級のモハマドレザ・ヘイロラハザデヘ(B2)とともに史上初の金メダルをもたらした。

パラリンピックでイラン初の金メダルをもたらしたバヒド・ヌーリ(イラン・イスラム共和国) 写真・山下元気

「イランの柔道の歴史では初めての金メダルです。生中継で放送されていましたし、国中が喜んでくれました。国旗が上がった時はほんとに嬉しかったです。家族もすごく祝福くれましたし、柔道は私の人生です」

と興奮冷めやらない口調で語った。

銀メダルを獲得し表彰台に上がるエリオット・スチュアート(イギリス) 写真・山下元気

銅メダルはエリオス・ラチュマナヤ(B2:フランス)とオレクサンドル・ナザレンコ(B2:ウクライナ)。

ラチュマナヤは準々決勝では廣瀬悠(B3:SMBC日興証券)に勝利、金のヌーリに敗れたものの気持ちを切り替え、3位決定戦では開始約1分で一本を決めた。

初のメダルを喜んだエリオス・ラチュマナヤ(フランス) 写真・山下元気

上位2人同様、初のメダルとなり「初めて獲れてすごくうれしいです」と喜びを語った。さらに

「相手も強かったし緊張しました。自分としては結果は残念だったところがあったので、映像で振り返り、今後に繋げられるようにしたいと思っています」と続け、次回パリ大会を見据え反省を欠かさなかった。

2大会連続メダルのオレクサンドル・ナザレンコ(ウクライナ)写真・山下元気

ナザレンコは、前回大会は銀で2大会連続のメダル。

「横から下を抜いた瞬間や、少しの技の失敗で負けてしまった」と冷静に振り返った。今後については未定としながらも、

「キャリアとして金メダルが足りていない。次回出るかはまだ分からないけれども、金メダルを獲りたいという気持ちだけは伝えたいです」と最も輝く色のメダルへ意欲を見せていた。

男子90kg級のメダリストたち 写真・山下元気

男子100kg級はスケリーが技ありの金に

決勝戦はイギリスvsアメリカの”英米決戦”に 写真・山下元気

男子100kg級の決勝はクリストファー・スケリー(B2:イギリス)とベン・グッドリッチ(B2:アメリカ)という”英米決戦”が繰り広げられた。

試合は1分経たぬ間に動く。スケリーが巴投げを決めポイントを先取。お互いに技の掛け合いが続くも、そのまま逃げ切り勝負が決まった。

巴投げで技あり。これが勝負の決め手となった 写真・山下元気

前回のリオパラ大会での5位から頂点になったスケリー。

ここまで道のりを問われると柔らかい表情が変わり、「視力を失った最初の頃に仕事をなくしたこともあり、自分の人生について迷ったことがありました」と打ち明けた。

それでも周囲のサポートなどもあり前向きな気持ちだけは失わず、

「柔道をやろうという気持ちが自分にもありましたし、みんながいつも応援してくれていたので続けることができました。今日はここには来れませんでしたけどもずっと応援してくれました」と感謝の気持ちを述べた。

金メダルを掲げるクリス・スケリー(イギリス) 写真・山下元気

一方、グッドリッチは前回大会は100kg超級で臨み9位。階級を変えて挑戦し初のメダルとなった。スケリーのことを”自分は彼のファンなんだ”と言い、こう続けた。

「すごくきれいな色のメダル。すごく嬉しいですし、自分の結果にすごく満足しています。できれば3年後のパリにも出たいと思うので、もっといい色のメダルを取りたいと思います。しかもファンである選手と戦うことができて本当に嬉しかった。ですけども、結果として彼には勝てなかった。今後練習を増やして努力していければいいと思います。とにかく今は、嬉しい気持ちが強いです」

決勝の舞台で対戦できたこと、さらにメダルを獲れたという二重の喜びを語り、2度目のパラリンピックを締めくくった。

階級を変え銀メダルに輝いたベン・グッドリッチ(アメリカ) 写真・山下元気

銅はシャリフ・ハリロフ(B3:ウズベキスタン)とアナトリー・シェフチェンコ(B1:ロシアパラリンピック委員会)。

ハリロフは3位決定戦で、4度の金を含む6個のメダル保持者であるアントニオ テノリオ・ダ シウバ(B1:ブラジル)と対戦。残り1秒で追いつき、ゴールデンスコア(延長戦)に持ち込むと1分47秒で浮落を決め、崖っぷちからメダルを獲得した。

2012年ロンドンパラでは73kgで銀だったが、前回は81kg級で7位。今回はさらに重量を上げて臨んだ大会だった。

競技後のインタビューではダ シウバと対戦できたことを振り返り、

「私は彼と戦えたことを誇りに思っていますし、すごく尊敬しています。そんな彼に勝つことができて本当に嬉しいです。今回のオリンピックを最後に引退すると考えていたので、気持ちでリラックスして迎えられたと思います」

とコメントし、現役生活にピリオドを打つことを示唆していた。

また、シェフチェンコはロンドン大会以来のパラリンピック出場で、メダルは自身初。「この結果を誇りに思います」と胸を張った。

また、パラ柔道の普及について積極的に活動していることを問われると「障害を持つ子どもの親御さんは心配する気持ちが強く、スポーツをさせることに抵抗を持つ方もいらっしゃいます。でも私は反対で、障害を持ってるからこそスポーツをやらせたい」とその想いを明かした。

障害者スポーツをもっと普及させたいと語ったアナトリー・シェフチェンコ(ロシアパラリンピック委員会) 写真・山下元気

さらに、「特に、視覚障害を持つ子どもに柔道を普及させたいという気持ちを持っています。メダルを持っていれば私を信頼してくれますし、親御さんも私に子どもを預けたいと感じてくれる人が増えるのではないかなと思います」とメダルを持つ意義を語り、会見を締めた。

男子100kg超級でもイラン勢がこの日2つ目の金

男子100kg超級の決勝。互いに技を掛け合う。 写真・山下元気

男子100kg超級では、モハマドレザ・ヘイロラハザデヘ(B2:イラン)とレバズ・チコイゼ(B2:ジョージア)が決勝で顔を合わせた。

90kg級でもヌーリが金を獲得しており、この日イラン勢2つ目の金がかかった一戦に。

一方、チコイゼにとってもジョージアとしてはこの試合の前に行われた女子70kgでイナ・カルダニが銀。その際に「ジョージア史上初のメダル」と語っており、同国2つ目そして初の金を狙った。

試合後、双方に歩み寄り健闘を讃えあった(写真右がチコイゼ)。 写真・山下元気

最重量級の試合らしく、お互いに力と力でぶつかる中、2分40秒でヘイロラハザデヘが崩上四方固(くずれかみしほうがため)を決めて一本。

この日行われた男子3階級中、2階級がイラン選手の金となった。

会見場に現れたヘイロラハザデヘは「本当に嬉しいです」と言葉少なく後にしたが、表彰式では柔らかい表情で輝くメダルを掲げた。

一方、惜しくもジョージア勢初のパラリンピック金を逃したものの、同日男女ダブルで銀となったチコイゼは、37歳で初のパラリンピック。

決勝戦の最中に脚を負傷したと言い、痛みを抱えながらも最後まで戦い抜いた。

「(メダルを獲得でき)嬉しくて本当に幸せです。勝つ自信はありました。柔道のおかげで仲間と出会えたし、柔道は私の人生に美しい色を与えてくれた」と競技ができていることに感謝した。

女子70kg級とともに、国に初のメダルをもたらしたチコイゼ(ジョージア) 写真・山下元気

銅はイルハム・ザキエフ(B1:アゼルバイジャン)とチェ・グァングン(B2:韓国)。

ザキエフは2004年アテネパラ、2008年北京パラと2大会連続金、2012年ロンドンパラで銅を獲得。自身2大会ぶりのメダルとなった。

2度の金を誇るザキエフ(アゼルバイジャン)。自国の躍進に遅れず、4個目のメダルを獲得 写真・山下元気

また、チェ・グァングンはリオパラ大会100kg級で金メダルを獲得し、階級を上げた今回も金メダル候補と目されていたがまさかの銅。表彰式でも悔しい表情が滲んでいた。

前回金のチェ・グァングンは、階級を上げたが銅に 写真・山下元気

柔道発祥の地日本、そしてその聖地である日本武道館で行われた3日間の熱戦が幕を閉じた。前記事で述べた、アゼルバイジャンが8個のメダル(男子4、女子4)。うち6個が金で、東京大会の大きな目玉となった。

そのほか、イラン勢の金メダル、ジョージア勢のメダル獲得といった”史上初”の記録も生まれた。聖地で新たな歴史が刻まれ、次の舞台は3年後。花の都パリでまた新たなドラマが創られる。

表彰式後のウクライナの選手たち 写真・山下元気

(ロシア語 フランス語 英語 中国語 韓国語通訳・赤須由佳、校正 佐々木延江、望月芳子)

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