関連カテゴリ: オンライン観戦会, トラック・フィールド, 取材者の視点, 義足アスリート, 陸上 — 公開: 2021年9月5日 at 8:42 AM — 更新: 2021年9月14日 at 2:59 PM

義足最速決定戦最終章!! T64男子200m決勝の観戦記と全体総括

全体総括

今回私はこの様な記事を書く機会を与えていただき、他では取り上げられないような海外選手を中心に記事を書かせていただいた。パラリンピックの報道を見ると、どうしても日本人ばかりが取り上げられ、海外選手で注目されていた義足アスリートは走り幅跳びのマルクス・レームと100mの世界記録を持つヨハネス・フロールスだった。もちろん彼らは取り上げられるだけの注目選手であることは全く否定しないが、多くのメディアは知識がないから、他のメディアが取り上げているから、実績があるからという安直な理由だけで取り上げるところが多いと感じた。

例えばオリンピック100mで優勝したイタリアのマルセル・ジェイコブス。私も正直優勝するまで注目してこなかった選手だが、オリンピックの後よくよく調べてみると今年に入ってからの活躍が素晴らしく、見る人から見れば勝つべくして勝った選手だったのかもしれない。真のメディアであれば、その兆候をいち早く感知して、アンテナを彼にはっておくべきであったが、どれくらいのメディアが彼が飛躍することに気付いていただろうか。

優勝したコスタリカのGUITY GUITY Sherman Isidro 写真・秋冨哲生

今回もギティ選手の飛躍の兆候はすでに2年前からあったのだ。彼は2019年にすでに100mで10秒代を叩き出していたのだが、2019年7月から公式戦には2年間出ていなかった。ドーピング検査に引っかかってしまったのだ。そのドーピングは意図的なものではなかったが2年間の出場停止が言い渡され、それがあけたのが今年の7月だった。謹慎中には彼がしっかり練習をしていたことは彼のインスタグラムから垣間見ることができた。
ギティ選手紹介

陸上競技を初めスポーツは水物だ。実績がある選手だからといってしっかりと調整ができていない状態で勝てる様な甘いものではない。また展開によって、あるいはプレッシャーによって、バランスを崩し実力を出し切れないで嘘の様に惨敗してしまった選手も少なくない。レース後、オランダ代表のキンバリー・アルケマデは、「これまで参加した大会の中で最もタフなレースだった。無観客で家族も普段のコーチもいない 状態で、毎日PCR検査を受け、狭い部屋で日々を過ごすのは本当にストレスフルで孤独だった」と自身を振り返った。また、到着した直後、ウォレスは「部屋のマットレスと枕が合わないから買いたいのだけれど、バブルの中にいるからでかけられない。なんとかできないか?」と連絡してきた。日本にこれまで14回くるほどの日本通で、東京に土地勘を持ち、調整に自信を持っていた彼ならではのトラブルだ。勝負はレースだけでなく、そこに至る全ての行動がつながっている。少しでも不安要素を取り除くことが必要だが、選手たちにとっては今までにないくらい不安要素を抱えた状態でのレースだったのかもしれない。

9月4日、男子200mT64決勝 写真・秋冨哲生

また一方で、新型コロナ感染拡大の影響を受け、WPA公認の大会に出場することができず、クラス分けすら受けられず、記録もランキングに残すことができなかった途上国のアスリートたちも少なくないはずだ。全ての人に公平であるべき大会は、まだまだその理想型との距離感を感じざるを得ない。

だからこそ、我々はパラリンピックのスタートラインに立てなかった選手含め、全てのアスリートに感謝をし、パラリンピックで素晴らしいパフォーマンスを見せてくれたアスリートへ惜しみない称賛を送らなければならない。

最後にこの場を借りて、ただのエンジニアでありながら私の駄文を掲載してくださったパラフォトの皆様には感謝の意を表します。また、Zoom観戦会ではパラスポーツとしてだけでなく、陸上競技としてコメントや議論してくださった陸上競技選手の草野誓也氏、義足アスリートの佐藤圭太とコーチ大西正裕氏、また参加してくださったのべ150名を超える全ての方々には感謝し切れません。本当にありがとうございました。

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