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2022年8月14日(現地時間)、デンマークのHerning(へルニング)にあるSutteri Ask Stadiumで、2022年馬術世界選手権のパラ馬術競技フリースタイル演技が行われた。
フリースタイルは各グレードの個人競技と団体競技の合計得点トップ8人馬が出場権を獲得。グレードIV、II、I、III、Vの順番に競技が行われた。(グレードとはライダーの障害の度合い。Iが最も重い障害で、Vが最も軽度の障害)
フリースタイルは、音楽に合わせた演技。規定運動項目を自由に、定められた時間内にアレンジした経路を作成。審査は規定運動項目それぞれと、 人馬の調和、リズム、技術力、振り付け、音楽・音楽の解釈、について採点される。
詳しい採点項目については、各グレードフリースタイル参照。
日本語 https://jrad.jp/para/fei_para_provision/
英語 https://inside.fei.org/fei/your-role/organisers/p-e-dressage/tests
グレードIV、Sanne Voets&Demantur RS2 N.O.P.が再び3冠
金メダルを獲得したのは、リオおよび東京パラリンピック同競技連続金、前回世界選手権3冠、そして本大会個人&団体金メダリストのオランダ・Sanne Voets&Demantur RS2 N.O.P.(14歳 / セン / KWPN)。最後に登場し、前回世界選手権(79.645%)を上回り、82.485%を記録して同じパートナーとともに再び見事な3冠を達成した。また2014年Caen世界選手権の金メダルを含めると、世界選手権フリースタイル3連覇という偉業も成し遂げた。
Sanne Voets
「私の馬、Demanturを本当に誇りに思います。すごく愛着のある馬です。今シーズンはベストの状態ではありませんが、今日最後の日に全力を出してくれたので嬉しいです。まだあまりにも感情が高ぶっていて、今日の演技は消化しきれていません」
銀メダリストは本大会個人競技4位、団体銅メダルのアメリカKate Shoemaker&Quiana(牝/8歳/RHEIN)。若い馬とともに急成長を見せ、80.275%を記録。前回の銅メダルを上回る成績を残した。
Kate Shoemaker
「今日の結果は個人ベストのスコアです。ここまでたくさん目標を持ってきましたが、多くの目標はほかの人の結果も関係するのでコントロールできません。でも80%を超えたいという気持ちを持っていたので、それが達成できて感激しています。すべて、馬と支えてくれるチームメンバーのおかげです。彼らがいなければこんな経験はできませんでした。みんな私のために一生懸命働いてくれます。このチーム全員で今日の結果を成し遂げました。最後の中央線に入る際とってもいい気分で、少し早めに停止しそうになったのですが、まだだよ、もう数歩お願い、と馬に語りかけました」
銅メダルは個人競技銀メダリスト、ブラジルのRodolpho Riskalla&Don Henrico(16歳 / 牡 / ハノーバー)。最後から2番目に登場し、総合得点78.385%を記録。前回世界選手権の同種目の成績を上回るもわずかに先に演技したKate Shoemakerに及ばず暫定2位。上々の成績でDon Henrico引退の花道を飾った。
Rodolpho Riskalla
「今週はまるでジェットコースターに乗っているような気分でした。でも、選手権で騎乗するのが最後なのですが、Don Henricoはずっと素晴らしい演技を続けてくれました。感慨深く、涙が出てきます。同時に彼が最後の選手権大会で素晴らしい状態だったことを嬉しく思います。僕にたくさんの贈り物をくれて、世界中を旅させてくれました。すべて彼のおかげです。最高に愛しています」
グレードIV競技結果
https://www.longinestiming.com/equestrian/2022/ecco-fei-world-championships-herning/resultlist_P3-IV.html
グレードⅣ採点表 https://jrad.jp/wp/wp-content/uploads/2022/04/Free_4.pdf
グレードII、開催国Katrine Kristensenコンビが金メダル
金メダルは、本大会個人金メダルコンビ、デンマークのKatrine Kristensen&Goerklintgaards Quater(セン/14歳/DWB)。Queenの曲を含む音楽に乗せて演技し、80.354%の成績で、2冠達成。地元の観客の歓声が優勝人馬を包んだ。
Katrine Kristensen
「少し音楽とずれてしまったので難しく、次に何をするかしっかり考えなければなりませんでした。今日のQuarterにはとても満足しています。落ち着いて呼吸があった演技ができました。ハーフパスなど難易度の高い項目も含めた演技の構成でした。まだまだコンビを組んで日が浅いとは思えないほど素晴らしい体験でした。(メインスタジアムで夜行われた)団体戦のメダルセレモニーは、とても感激しました。この瞬間はいつまでも忘れません」
銀メダルは、世界選手権、パラリンピック、ヨーロッパ選手権で合計30以上の金メダル獲得経験を持ち、本大会個人競技銅メダリストのイギリス・Lee Pearson&Breezer(セン/11歳/BWS)。今回もKung-FU Pandaの曲を混ぜた軽快な音楽に乗せて77.860%を記録して堂々のメダル獲得。
Lee Pearson
「今日の演技は今週ずっと期待していたような演技でしたが、スコアは伸びませんでした。常歩でつまずく場面が一か所ありましたが、すぐに立て直しました。グレードIIは常歩が多すぎる気がします。駈歩はまったくありません。私たちライダーは駈歩、そしてそれ以上の難易度の演技もできます。ルール変更をぜひ検討して欲しいです」
銅メダルは、東京パラリンピック個人&フリースタイル銅メダルコンビで同じくイギリスのGeorgia Wilson&Sakura(牝/8歳/OLDBG)で、75.834 %。
Georgia Wilson
「メダルを獲れて感激しています。まさか獲れるとは思っていなかったので、まだ実感がわきません。今回使用した音楽はとても好きで、耳に残ります。昨日の夜は眠れませんでした。馬は今週どんどんよくなっていきました。75%以上がここでとれたことは素晴らしく、とても嬉しくて満足しています」
なお、メダル候補で本大会個人銀メダルコンビ、オーストリアのPepo Puch&Sailor’s Blueは、惜しくも馬が観客の動きや雑音に気を取られて本来の演技ができず、7位に終わった。
Pepo Puch
「演技中、隅角に来ると馬が何かに驚くことが何度もあり、体の障害のためうまく修正して助けてあげることができませんでした。この馬の本職は総合馬術なので、急回転をすることができます。馬場馬術でも柔軟な動きができます。コロナの影響で無観客の競技が2年間続いたので、今年は冬の間にこの問題の修正をかけて練習しなければならないと思います。Herningで過ごした1週間はとても良かったです。本当にいい環境でした」
グレードⅡ競技結果
https://www.longinestiming.com/equestrian/2022/ecco-fei-world-championships-herning/resultlist_P3-II.html
グレードⅡ採点表 https://jrad.jp/wp/wp-content/uploads/2022/04/Free_2.pdf
グレードI、イタリア・Sara Morgantiが連覇
グレードIで優勝したのは、総合得点80.653%、個人銀メダリストのイタリア、Sara Morganti&Royal Delight(17歳/ 牝 / RHEIN)。前回世界選手権に続き、フリースタイルの女王に輝いた。
Sara Morganti
「もっと上を狙えたかというと答えがうまく見つかりません。今日はやりたいことができたので良かったと思います。演技を終えて馬場から退場する時に、やり切った気持ちであればそれで満足です。今日は音楽によくあった動きができました。Herningではすべて順調でした。素晴らしい1週間でした」
銀メダルは、個人競技でラトビア初の金メダルを獲得したRihards Snikus&King Of The Dance(セン/14歳/LWB)で、78.400%を記録。
Rihards Snikus
「今日は満足しています。銀メダルを獲れて嬉しいです。最高の音楽にあわせて金メダルを目指しましたが、銀メダルでもよかったです。2024年パリパラリンピックでもKing of the Danceに騎乗できればいいなと思っています」
銅メダルはアイルランドの成長株、Michael Murphy &Cleverboy(セン/15歳/KWPN)で78.387 %。
Michael Murphy
「馬場内の感じはすごくよかったです。僕にとっても馬にとっても初めての経験でした。新しい音楽、新しい経路、それでもとてもよくまとまった演技ができました。一日ごとに馬は良くなっていきました。観客の歓声にもよく落ち着いて対応してくれました。コーチが経路と音楽を合わせる練習を手伝ってくれました。彼女は音楽を聞き取る感覚が優れています。僕にとってこの銅メダルは、金メダルと同じ価値があります。2度もメダルが獲得できて感激して言葉も出ません。アイルランドのすべての人馬が今回良い成績を残すことができました」
グレードI競技結果
https://www.longinestiming.com/equestrian/2022/ecco-fei-world-championships-herning/resultlist_P3-I.html
グレードI採点表 https://jrad.jp/wp/wp-content/uploads/2022/04/Free_1.pdf
グレードIII、地元デンマークのTobias Thorning Jorgensenが2冠!
グレードIII金メダルは、個人金メダルコンビ、Tobias Thorning Jorgensen & Jolene Hill(牝/14歳/ダッチウォームブラッド)。途中の常歩で手綱を伸ばして馬体をストレッチさせる項目や、総合得点の振付、音楽と音楽の解釈の各項目で複数の10点満点がつく素晴らしい演技を披露。総合得点も銀メダリストより10%上で、大会最高得点の86.513%を記録し、世界新記録を達成した。
Tobias Thorning Jørgensen
「今日の演技ではすべて思った通りにいきました。とても満足しています。前回の自己ベストは84%ぐらいだったので、今日のスコアはベスト更新です。
今日は本当によかったです。この暑さの中で、一歩一歩力強く演技をしてくれた馬を誇りに思います。どんどん要求に答えてくれる本当に最高の牝馬です」
銀メダルはオランダのLotte Krijnsen&Rosenstolz(牝/16歳/オルデンブルグ)。76.673%で自己ベストを記録した。
Lotte Krijnsen
「今日の演技はとてもうまくいきました。音楽に合わせて演技するのは好きで、馬も好調でした。自己ベストを世界選手権で更新するなんて思ってもみませんでした。Herningでは最高の経験ができました。団体金メダルを受け取るセレモニーは素晴らしく、大きなメインアリーナで受け取れたことに感激しています」
銅メダルはイギリスのベテラン、Natasha Baker&Keystone Dawn Chorus(牝/11歳/ハノーバー)。前回世界選手権のフリースタイル直前で馬が驚き、落馬。その雪辱を果たし、軽快な演技で東京パラリンピックに続きメダルを獲得した。成績は76.620 %。
Natasha Baker
「結果についてはあまり気にしていません。馬場に入場して、馬が私のことを支えてくれました。待機馬場では興奮気味だったので、一時本馬場に入場できるかどうかわからないと思った時もありました。でも、馬は素晴らしい演技をしてくれました。ベストの演技ではありませんでしたが、馬を誇りに思います。今までにも数多く、とても緊張する馬たちに乗ってきました。もっと彼女を信頼できるようにならなければと思います」
グレードIII競技結果 https://www.longinestiming.com/equestrian/2022/ecco-fei-world-championships-herning/resultlist_P3-III.html
グレードIII採点表 https://jrad.jp/wp/wp-content/uploads/2022/04/Free_3.pdf
グレードV、Michèle George&Best of 8が2冠達成
最後のグレードVも、ベテランと新人が入り混じった混戦。金メダルを獲得したのは個人競技金メダリスト、ベルギーのMichèle George&Best of 8(牝/12歳/ハノーバー)。総合得点の騎乗姿勢や音楽と音楽の解釈の項目では10点をつける審判がいるなど、見事な演技で82.860%を記録。嬉しい2014年以来の世界選手権金メダルを獲得した。
Michèle George
「今日私の馬は、まるで王女のようでした。隣の馬場で障害飛越競技のメダル争いが行われていて騒音で緊張していましたが、上手に落ち着いてくれました。調和を見せることができて、そして踊るような演技ができて嬉しいです。審判を説得しようとしていたのですが、うまくいきました。ここに来た最初の数日はとても緊張していましたが、徐々に馬が成長していく姿が見られました。私のモットーは楽しみながら馬と演技することで、あまりメダルについて考えないことです。乗馬を始めた頃の思いを忘れないようにしています。私は、私の馬が大好きです」
銀メダルはオランダの個人銅メダルコンビ、Frank Hosmar&Alphaville N.O.P.(セン/17歳/KWPN)。活気のある80年代の音楽に合わせ、こちらも見事に80%を超える80.775%を収めた。
Frank Hosmar
「今日の演技は、80年代のグレースジョーンズとソフトセルの音楽を使いました。以前演技した時に審判が好印象を持っていたようなので、今回もこの音楽でいきました。活発で良い演技ができました。馬も疲れた様子を見せず、(安楽死も考えさせるほどの病気をした)冬のドタバタの後、これは個人的な勝利のような感じでした。この馬は素晴らしい以外の何物でもありません。ピルエットでつまずく場面が一瞬ありました。この結果には感激しています、今回の大会で、馬は日ごとに良くなっていった気がします」
そして銅メダルは、東京パラリンピックと本大会の個人銀メダルコンビ、イギリスのSophie Wells&Don Cara M(セン/13歳/NRPS)。79.255%を記録し、今回もメダルを獲得した。
Sophie Wells
「速歩はものすごくいい感じでした。彼ができる最高のレベルの演技をしていました。あまり焦って要求しすぎないようにと思っていました。入場の際は少し戸惑っていましたが、その後落ち着きました。ほかの人馬も同じように、隣の馬場で行われている障害飛越競技の雑音に耐えなければなりませんでした。まあ、これが世界選手権ですね。フリースタイルの音楽は(イギリスで数多くの世界の馬場馬術、パラ馬術選手のフリースタイル音楽を作曲しミックスしている)Tom Hunt (https://www.tomhuntmusic.com/) 作で、聞いていると鳥肌が立ちます」
グレードⅤ競技結果
https://www.longinestiming.com/equestrian/2022/ecco-fei-world-championships-herning/resultlist_P3-V.html
グレードⅤ採点表 https://jrad.jp/wp/wp-content/uploads/2022/04/Free_5-1.pdf
以上をもって、Herning世界選手権のすべてのパラ馬術競技が終了。本大会では80%台の得点が続出。すべてのグレードにおいて世界のレベルは急速に高くなってきた。
日本の人馬も今回は東京パラリンピック前後の強化でずいぶんと成長し、次のパラリンピックに出場するために必要の最低限のスコアをすべての人馬がクリア。国際競技が多く開催されるヨーロッパの選手に比べて練習や競技出場の機会は少ない中、限られた練習時間でパートナーとの息を合わせて出場。まだまだ予算や馬の確保など乗り越えるべき課題はたくさんあるが、今後の日本選手の成長を期待したい。
2022年Herning(デンマーク)馬術世界選手権 日本選手団
稲葉将(GⅢ)&Exclusive (静岡乗馬クラブ/シンプレクス㈱)
グルーム:Ms.Leonarda Elisabeth Petronella Maria&Ms.Britt Johanna Marietta van Golstein Brouwers
高嶋活士(GⅣ)&Huzette BH (ドレッサージュ・ステーブル・テルイ /コカ・コーラボトラーズジャパンベネフィット㈱)
グルーム:Ms.Leonarda Elisabeth Petronella Maria&Ms.Britt Johanna Marietta van Golstein Brouwers
宮路満英(GⅡ)&Flylight (リファイン・エクインアカデミー /㈱セールスフォース・ドットコム)
オーナ兼グルーム:Ms.Miranka Schellekens
コマンダー:宮路裕美子
吉越奏詞(GⅡ)&Dueto (アスール乗馬クラブ/日本体育大学)
オーナー:Mr.Thomas Markevicius &桜井亜須歌
トレーナー:Mr.Francisco Neto
グルーム:及川正敏
監督 三木則夫
ヘッドコーチ Mr.Petrus Josephus 、二宮誠治
コーチ Mr.Frederik Robert Annie 、Ms.Hanneke Christina Henrica
総務 河野正寿
Ecco FEI World Championships 公式サイトhttps://herning2022.com/
リプレイ(FEI Youtube Channel)
グレードIV、II、I https://www.youtube.com/watch?v=UK3e8vXh-o0
グレードII、VI https://www.youtube.com/watch?v=Xk5WGw6f1zc&t=334s
(取材協力:一般社団法人 日本障がい者乗馬協会[JRAD]、公益社団法人 日本馬術連盟[JEF]、画像提供:FEI、Sharon Vandeput、Britt V Golstein Brouwers、編集・校正:望月芳子、佐々木延江)