9月7日(現地時間)、小雨で多少スリッピーなエッフェル塔スタジアムのピッチで、ブラインドサッカーの3位決定戦と決勝戦が行われた。決勝は地元フランスとアルゼンチンの対戦となり、1-1(PK3-2)でPK戦を制したフランスが初優勝を飾った。3位決定戦は6連覇を断たれたブラジルが1-0で勝利を収めメダルを確保した。
決勝戦: フランス対アルゼンチン
フランスとアルゼンチンの決勝はブラインドサッカーの新しい時代を切り開く歴史に残る一戦となった。エッフェル塔スタジアムに集まった1万2千の観客の大歓声を背に試合は始まった。お互いの固い守備を攻撃陣がどうこじ開けるか。アルゼンチンは、ESPINILLO Mazimiliano(7番)が左から、アルゼンチンで今大会唯一得点をあげているFERNANDEZ Osvaldo(8番)が右から攻撃を仕掛ける。それに対してフランスは隙を見てキャプテンのVilleroux(10番)がドリブルでカウンターを仕掛ける。ESPINILLOは重戦車の様にフランスの3人のDFを物ともせずゴール前に迫るが、シュートに繋がらない。第1ピリオド3分、アルゼンチンのPADILLA(4番)が自陣より浮いたパスをペナルティーエリアに送る。それにESPINILLOが反応するもシュートに結びつかない。6分にはフランスのVillerouxがドリブルで持ち込みシュートを放つもゴール右に外す。これがフランスの初シュート。試合が動いたのは12分。自陣12mラインでVillerouxがボールを奪うと、そのまま左サイドを駆け上がる。アルゼンチンの守備2人をステップで翻弄し、前が空いた状態で左足シュート。低い弾道のボールがニアからゴールネットに突き刺さり、スタジアムは興奮のるつぼに。1-0とフランスがリードする。
会場の興奮が一旦収まり、アルゼンチンのPADILLAがセンターサークルに立ちキックオフ。いきなり浮き球をペナルティエリア正面4m前に落とす。フランスゴールに向かって転がるボール。そこにキックオフと同時に左サイドを駆け上がっていたESPINILLOが追いつき、ゴールキーパエリア前でシュート。ボールはGK BARTOLOMUCCIの胸にあたりそのままゴールを割る。数少ないアルゼンチンサポーターの歓声と静まりかえるフランスサポーター。1-1とアルゼンチンが一瞬で振り出しに戻す。ESPINILLOは試合後「なんの秘密もない、ただひたすら練習、それがあうんの呼吸を生み出す」とこのスーパープレイについて語った。その後、一進一退の攻防もシュートにいたらず、1-1で第1ピリオドが終わる。
第2ピリオド、主導権を握るのはアルゼンチン。3分、ESPINILLOがペナルティーエリア前で倒されてFKを得る。フランスの壁の前にアルゼンチン選手が2人立ち、GKに対してブラインドを作る。ホイッスルと同時に左右に割れる2人、その隙間をぬってESPINILLOがゴール左へ弾道の低いシュートを放つ。BARTOLOMUCCIが横っ飛びでこのシュートをキャッチ、フランスのピンチを救う。その後何度もESPINILLOは枠内にシュートを放つが、GKの好守でゴールを割れない。
アルゼンチンは押し気味にゲーム進めたが、そのままタイムアップ。アルゼンチンにとっては準決勝に引き続いてのPK戦。両チーム3人のキッカーが蹴り、そこで決まらなければサドンデスに突入する。アルゼンチンのキッカーはブラジル戦と同じ、ESPINILLO、RIOS(9番)、HEREDIA(3番)の順。フランスはAREZAK(5番)、BARON(6番)、Villerouxだ。アルゼンチン先攻で始まり2人目まではお互いに成功。3人目のHEREDIAのゴール右真ん中へのシュートをBARTOLOMUCCIが止める。「事前にチェックした通り左に蹴るのが見えた」とフランスGKは振り返った。ヒートアップする観客。最後のキッカーは、2004年アテネ大会から連続出場のキャプテンVilleroux。一歩踏み込んで右足で蹴ったボールはGK MULECKが伸ばした指の先をかすめてゴール左下に突き刺さる。観客は総立ちで歓声を上げ、Villerouxは歓喜を爆発。地元フランスがこの美しいエッフェル塔スタジアムで勝利を収めた。東京大会では最下位(8位)で終わったフランスがこの3年間で強化し、初めて頂点に立った瞬間だった。
キャプテンVillerouxは語る
優勝を決め、得点王(3点)となったVillerouxは「自分の得点後、すぐに同点にされゲームプランが狂った。監督から気を引き締めろと言われ、なんとかPK戦に持ち込んだ。PKでは監督から『キャプテンの責任を果たせ』と言われ、3人目を引き受けた。3人とも成功、これはすごいことだ」と喜びをまず口にした。ついで「東京の時はパラリンピックであるにもかかわらず全く(フランス国内は)盛り上がらなかった。ロンドンで銀メダルを獲得した時は、一過性のお祭りで終わり。競技の普及発展に繋げらなかった。まだまだこのスポーツを知らない障害を抱える人がいる。ぜひメディアは引き続き盛り上げ、もっとパラスポーツをメジャーにして欲しい」と訴えた。
3位決定戦はブラジル
3位決定戦は、第2ピリオド8分、ブラジルのJefersonがゴールを決め1-0で勝利した。監督のVASCONCELOSは「本当は金メダルを持ち帰りたかった。ただ、銅メダルを獲得できたのも神の意志、我々としては十分だ」と語った。チームは世代交代の真っ只中だが、強い精神を持つチームであることを強調していた。
最終順位は以下の通りだ。
1位 フランス
2位 アルゼンチン
3位 ブラジル
4位 コロンビア
5位 中国
6位 モロッコ
7位 トルコ
8位 日本
一進一退の攻防、一瞬の隙をついてゴール、音を消す浮き球のパスからのシュート、1万2千の観客の声援、素晴らしいプレーへのどよめき、MCによる盛り上げ従来のブラインドサッカーとは一線を画す試合運営。アルゼンチンのESPINILLOは決勝戦をプレーと環境を合わせて「新しい時代のモダンフットボール」と語った。ブラインドサッカーは確実に新しい段階に突入していると感じさせる一戦だった。
(校正・中村和彦、そうとめよしえ)