コロナ禍での自国開催。誰も経験のない領域へ、隗より始めよ!

1年以上の自粛生活。選手たちがパラリンピックの魅力発信

「空っぽのガゾリンの車をふかしているような感覚」と、富田宇宙は日本選手権の1日目(400m自由形、100m自由形)のレースのあと口にしていた。コロナ禍の自粛生活が1年以上続き練習以外の部分で心の枯渇を覚えていた。「毎日の生活が(目が)見えなくて困る中で、自宅とNTC(ナショナルトレーニングセンター)を往復するだけなのは虚しい。大会にきて、みんなが頑張っている様子にインスパイアされる」と。

1年半ぶりの日本パラ水泳選手権大会は、無観客で行われた。

2019年ロンドン世界選手権の日本チームのベンチの様子。日の丸をバックに観戦する選手たちの一時

2019年9月、ロンドンでの世界選手権で。日本代表チームのベンチ 写真・安藤理智

ーーパラリンピック本番も海外の観光客をどうするのか議論がありますが、どう思いますか?という記者の質問に、木村敬一は次のように答えていた。

「やっぱりたくさんの人に見てもらえるのがパラリンピックだし、なおかつ自分の国でやることの一番の、僕自身にとっても大きな意味だったと思う。でも、なんだろう『人間として何を一番大事にしないといけないか』っていう、今のおかれた状況の中で、何をすべきか突き詰めていった時に、僕らは最善の選択をしなくちゃいけない。もしそれが無観客に決定されたとしたら、それがその時にやれる最善だと思うんです。誰もが最善だと思った状態で、僕らも最善を尽くすことだと思います」

東日本大震災からまさに10年を迎え、政府や自治体に対して被災地の復興やコロナ対策の優先を求める声がある。一方で、オリパラ中止や再延期を求める声がある。それは、選手たちにも届く。

男子100mバタフライ(S9)で東京パラを目指す久保大樹(KBSクボタ)は、練習の日々を「Ku Voice(クボイス)」というトーク番組でコーチとともに伝えている(ラジオトークというアプリで誰でも聞ける)。東京を目指す自分を記録しているが、時に、木村敬一や富田宇宙、鈴木孝幸、山田拓朗らを招待してパラスイマー、そしてパラスイムの魅力を伝えている。

インタビュールームでレースの失意とボイス活動について話す久保大樹

久保大樹(KBSクボタ) 写真・秋冨哲生

久保は今大会で目指す結果が得られなかったが「ポジティブに考えると今日はいい失敗をした。もう一度初心に戻ってトップを狙う準備をあと2ヶ月間でしたい」と話していた。実際、大会後は気持ちが沈んでしまったのか発信が止まっていたが少しずつ復旧しているようだ。

また、最近、木村、富田、鈴木らの選手も企業や市民が企画するオンライントークショーや、音声によるSNSアプリ「クラブハウス」などに出演し、一般の人にパラリンピックの魅力について伝えたり、パラリンピアンの意見を伝えるなどコロナ禍+オンラインによるこれまで以上の交流を持とうとしている。

もともと、パラリンピックは障害のある人がスポーツの最高峰に挑み、発信することで、一般の障害のある人が自由に行動したり、障害の有無によらず生活を楽しめる社会を目指している。コロナ禍による延期期間のこのような交流はパラリンピックファンを増やす新たなチャンスかもしれない。
大会や日常生活において、感染症に苦しむ人々を思うこと、感染拡大を減らす努力をすることが何より大事だ。同時に、感染対策を正しく行い、スポーツだけでなく、アートやその他のさまざまな文化、社会・地域に横たわる課題も、解決や、より良い方向へとすすむ必要がある。

この期間に「多様性の社会」「障害の社会モデル」を地域の一般の人、障害のある人ない人に伝え、多くの人が社会を見直すためのきっかけをもつための交流ができる。パラアスリートはそのシンボルとして大きな役割が果たせるし、ともにパラリンピックムーブメントを推進していけたら非常に効果的であり、市民にとっても大変嬉しい機会となるだろう。

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<参考>
開幕の記事:「競い合える楽しさを存分に味わって!」日本パラ水泳選手権が開幕
https://www.paraphoto.org/?p=26770

(オンライン編集協力 望月芳子、石野恵子 写真・取材協力 秋冨哲生)

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