「見えない闘い」ブラインドサッカーワールドグランプリ2021開幕

 緊急事態宣言下の東京で、5月30日、「Santen IBSA ブラインドサッカーワールドグランプリ 2021 in 品川」が開幕した。

 「見えない闘いは、ここにもある。果たして、開催すべきだろうか。果たして、世界は待ち望んでいるだろうか」

シュートの瞬間
先制点は試合開始後1分もたたないうちに 川村玲(10番)の右足から生まれた。 提供:日本ブラインドサッカー協会/鰐部春雄

 コロナ禍で生きる“人”としての思い、アスリートを長年支え彼らの活躍を見続けてきた立場からの応援したい気持ち。揺れ動く二つの感情。このような状況下で「僕ら頑張りますから」と言っても世の中の人には理解されないだろう。だとすれば双方に対してきちんと説明していくしかない。日本ブラインドサッカー協会専務理事松崎英吾を始めとする関係者の、そんな歯痒い思いが凝縮されたコピーだ。

 日本代表候補の選手達は昨年3月のパラリンピック延期決定後、オンラインも活用した自主トレーニング期間を経て練習再開。メディカルチーム等のサポートのもと、負荷をコントロールし水分補給量と尿比重も細かくチェック、いったん落ちていた持久力も回復し、スプリント能力等もほとんどの選手が過去最高の数値を叩き出すまでになり、例えば3分プレッシングすれば休む必要があったが4分間出来るようになったという。ゲームの流れを大きく変えうることである。

 昨年6月にオープンした国内初のブラインドサッカー専用コート「MARUIブラサカ!パーク」の存在も代表チームを後押しした。それまでは一度の合宿で、フィジカル、技術、戦術を網羅する必要があったが、確実にトレーニングができる場所が確保されたことで、それぞれに特化した合宿を行うことができるようになった。

田中章仁(7番は)最後尾から的確に守備をマネージメント、前線にパスもだした。 提供:日本ブラインドサッカー協会/鰐部春雄

 しかしまだ「ゲーム感覚は戻りきっていない。サッカーの感覚を合わせていく必要がある」と日本代表高田敏志監督は言う。

 その感覚を取り戻す、感覚を合わせる最高の場が、ワールドグランプリだ。

 そしてまた東京パラリンピックでの上位進出、メダル獲得、金メダル奪取の可能性を少しでも上げるため、出場予定国との直接の対戦はまたとない機会になる。「しっかり分析して、その後どう対策していくか」も重要になってくる。

 その“場”を成立させるためには徹底的な感染対策が必要となった。

 海外チームは渡航15日前から2度のPCR検査を受け、到着後3日は隔離。2日に一度の抗原検査が課せられ、ホテル内での行動は1フロア内に限定、ホテル内のコンビニに行くこともできない。試合会場の往復は専用のバスである。

 また審判、大会運営スタッフにも2週間前、3日前の感染症検査が義務付けられた。我々メディアはどうかと言うと、オンライン取材のみが許可された。「生で試合が観たい…」という思いもあるが致し方ない。パソコン画面を凝視するしかなかった。

 今大会には、世界ランキング1位でワールドグランプリ2連覇中のアルゼンチン、スペイン(3位)、タイ(13位)、フランス(14位)の4ヶ国が来日した。いずれも東京パラリンピック出場予定国である。東京パラリンピックには、その他ブラジル(2位)、中国(5位)、モロッコ(10位)が参加予定。日本のランキングは現在12位である。大会は各国が総当たりのグループリーグを行い、最終日に1位2位チームによる決勝、3位4位チームによる3位決定戦が行われる。

 日本の初戦の相手はフランス。前回対戦は2018年のワールドグランプリ、その時は日本が1-0で勝っている。だがその後、ロンドンパラリンピックで銀メダルを獲得したトゥサン・アクボエ監督が再度就任。2019年のヨーロッパ選手権で強豪トルコを破り東京パラリンピックの出場権を得た。

ベンチから指示を出すフランスのトゥサン・アクエボ監督 提供:日本ブラインドサッカー協会/鰐部春雄

 先制点は、キックオフ1分もたたないうちに生まれた。フランスが試合前のウオーミングアップで「スプリントを入れていない」様子を見て取り、高田監督はプランを変更、立ち上がりから一気にしかけることにしたという。右サイドフェンス付近でボールを保持した田中章仁が中央へ持ち出し、左サイドの川村怜へパスを出す。田中は近年、パス供給能力の成長が著しい。パスを受けた川村はカットイン、フランスの選手は川村の動きに対応できない。高田監督の読み通りだ。川村は右足を振りぬき、ゴール右隅サイドネットを揺らした。

 だがその後は、フランス選手の長い足にブロックされシュートのタイミングがつかめず戸惑う場面も増えてくる。それは海外の選手との直接対戦でしか得ることができない貴重な感覚でもある。

 時間の経過ともにフランスは徐々に動きに慣れ、日本陣内に攻め込む回数も増えてくる。

 前半は守備に追われていたフランスのキャプテン10番フレデリック・ヴィルルが再三日本ゴールに迫りシュートを放つ。日本は敢えてブロックを下げて、カウンター狙いに転じる。田中が最後尾からマネージメントし、的確な距離感を保つ。フランスの監督も「ブロックでディフェンスをするところが組織だっていた」と感じていた。引くときは引く、前からプレスをかけ攻撃的にいく時はいく。そういった使い分けができるようになったのも現在の日本代表の強みだ。

フランス10番キャプテンのフレデリック・ヴィルルが日本ゴールに迫る
フランス10番キャプテンのフレデリック・ヴィルルが日本ゴールに迫る。 提供:日本ブラインドサッカー協会/鰐部春雄

 その狙い通り、残り9分を切ったところで田中からのパスを受けた黒田智成がキーパーとの1対1の局面を向かえるが惜しくもシュートは右に外れた。そして何とか逃げ切れるかと思われた残り55秒、ゴール正面のファールでフランスにフリーキックを与えてしまう。しかしシュートは佐藤大介が正面でキャッチ。その後はコーナー付近でボールキープし、1-0と日本が勝利。大会初戦で貴重な勝ち点3を得た。

 フランスは、日本がメダルを取るためにはパラリンピックで絶対に勝ち点3を取らなくてはならない相手だ。だがフランスのアクボエ監督は「パラリンピックでは、今日とは全く違うものを見ていただける」という。この試合には、2019年のヨーロッパ選手権で攻守の要であったババカル・ニャン選手は出場しなかった。「交代選手を使わない、パラリンピックへ向けての一つのテスト」「今大会はいろんなことを試してみる」のだという。監督という立場をオーケストラの指揮者に例えるアクボエ監督率いるフランス代表の明日以降の試合も目が離せない。パラリンピック本番で簡単に勝てる相手でないことだけは確かだ。

 日本戦の前にはタイとスペインの試合が行われた。タイはイランの出場辞退によりパラリンピック出場が決まったチームだが、急速に力をつけ、ことに背番号7パンヤーウッ・クパンの得点力には目を見張るものがある。タイはそのパンヤーウッの2ゴールでタイが前半を折り返す。スペインも後半に入ると1点を返すが、タイはさらに追加点。終わってみれば、タイが世界ランキング3位のスペインに3-2と勝利。勝ち点3を得た。

試合終了
試合終了後に笑顔をみせる日本選手たち 提供:日本ブラインドサッカー協会/鰐部春雄

 大会初日は、アジア勢がヨーロッパ勢に打ち勝つ幕開けとなった。コンディションの問題もあっただろうか。
 2日目は世界ランキング1位のアルゼンチンが登場、日本はスペインと対戦する。

 大会2日目以降の試合もyoutubeで視聴することができる。

大会公式サイト 
https://www.wgp-blindfootball.com/

31日(月)
10時30分~ フランスvsアルゼンチン
13時~ タイvs日本

6月1日(火)
10時30分~ アルゼンチンvsタイ
13時~ スペインvs日本

3日(木)
10時30分~ スペインvsフランス
13時~ 日本vsアルゼンチン

4日(金)
10時30分~ フランスvsタイ
13時~ アルゼンチンvsスペイン

5日(土)
10時30分~ 3位決定戦
13時~ 決勝

*当初は多くの人が視聴しやすい夜間の試合が検討されたが、試合開始時間決定の5月初旬の時点で緊急事態宣言の延長も予想されたこと、仮に緊急事態宣言下でなくとも20時以降の人の流れは作らない方が良い等の判断から日中の開催となった。尚、15時~19時は会場上空が航空機の航路となるため、音が極めて重要なブラインドサッカーの試合は実施できない。

(フランス語通訳・山田ひろ美 編集・佐々木延江)

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