平昌パラリンピック決勝で相対したアメリカとカナダ。その好カードが再び北京パラリンピックでも実現した。勝負の行く末はいかに。今回は、女子パラアイスホッケーカナダ代表の経験もある山本恵理さんにアイスホッケーの見どころやアメリカとカナダの強み、そしてアイスホッケーを取り巻く環境について解説していただいた「北京パラアイスホッケー観戦会」の感想をお送りする。
ウクライナ情勢が深刻化する中、迎えた今大会。ROC（＝ロシア・オリンピック委員会）に出場が認められなくなった影響で、大幅に時間変更しながらも世界随一の力を誇るアメリカとカナダの試合が始まった。アメリカは退役軍人出身者など、多くの選手が足を切断している。その分体重が軽く素早い動きが可能になり、相手を華麗にかわしていく。一方で体重が軽い分、チェックが入ると簡単に飛ばされてしまうというデメリットがある。カナダは総合力に定評があり、ベテランから若手まで幅広い年代の選手が集っていた。
アイスホッケーは１本のスティックを使いパックを運びシュートする。しかしパラアイスホッケーはスレッジ（そり）に乗り、２本のスティックを用い、パックの移動、パス、シュートを同時にしなければならない。パックが来たときと進むときで、スティックを上下持ち替えなければならないため漕ぎながらの高度な技術が要求される。
『スレッジ』が進めるのは前方のみ。Uターンは言うまでもなく、横移動すらすることができない。だからこそ重要なのは「コミュニケーションをとることだ」と語る元・パラアイスホッケー女子カナダ代表の山本恵理さん。強いチームほどよく声掛けをし、死角からのチェックの警告や相手の場所の伝達などを行う。実際、中継の映像からでも選手やベンチからの声掛けが聞こえ、積極的にコミュニケーションが図られていることがうかがえた。
また、スレッジでのアイスホッケーを見ていると、重要なのは一見腕の力のように見える。しかし、最も重要なのは体幹の力である。まず、最初にスレッジに乗って戦うためのる強靭な体幹の力が要求される。氷上において縦横無尽に駆け回り、さらにパックを追いかけるのはいかに難しいかを目の当たりにした。
平昌パラリンピックでは延長戦にもつれ込むまでの接戦だったアメリカ対カナダ。しかし、この試合は圧倒的なアメリカ優位で試合が進められていった。
アメリカは、第１ピリオドに２点を取るとそのまま勢いに乗る。第２ピリオドに２点、第３ピリオドに１点を追加し、カナダ相手に５―０で勝利。王者の貫禄を見せつけた。なぜこんなにも強いのか。カナダはアメリカの素早い攻撃に翻弄（ほんろう）される。ゴール前でのリバウンドからのシュートを決められ、後半戦は体力を消耗してしまいアメリカの動きに対応することができなかった。
パラアイスホッケーの会場はバリアフリーにも対応している。選手は最初からスレッジに乗っているため、必然的に目線は低くなる。そのため、ベンチやペナルティボックスは全面がガラス張りになっていることで氷上の様子が見ることができる。また移動がしやすいように、ベンチにも氷が張ってあるのだ。
山本さんの言葉で印象的だったこと。それは「カナダでは、パラアイスホッケーを見ながらパブでお酒を飲む」ということだ。カナダにおいては、アイスホッケーは国技も同然。それはパラアイスホッケーも同様だ。日本人が野球を見ながらお酒を飲んで観戦し、楽しむように。それを聞くと、私はパラスポーツを重くとらえすぎていたように感じてしまった。普通のスポーツと何ら変わらないのだと改めて感じさせられた。
次回の「パラアイスホッケー観戦会」は３月13日（土）に行います！
決勝に勝ち上がるのは一体どの国なのか。そして王者の座は一体その国に。一緒に見届けましょう！！
コメンテーター：山本恵理（元パラアイスホッケー女子カナダ代表、現役パラパワーリフター）
主催・MC：PARAPHOTO2022北京取材班／明大スポーツ新聞部 新谷歩美
Photo: 中村 ”Manto" 真人トライアスロン、アイアンマンそして自転車競技ツールドジャパンのステージ優勝などの選手経験を経て1992年カナダに移住。オリンピック,パラリンピック、女子ワールドカップサッカーなどを頂点に幅広いスポーツ分野のアスリートの輝きを取材、応援。バンクーバーでオーガニック納豆の製造販売事業も手がけている。
Author: 新谷 歩美
埼玉県出身。明治大学在学、明大スポーツ新聞部所属。高校時代はボート部。パラ大学祭をきっかけにパラスポーツを取材するようになる。明スポでは端艇部、卓球部、ボードセーリング部、アイスホッケー部担当。
